後半は発売前から話題を集めたデビュー作ふたつをご紹介。

 今村昌弘『屍人(しじん)荘の殺人』(東京創元社 1700円+税)は「受賞作なし」が続いた新人賞不作の年に颯爽(さっそう)と現れた、第27回鮎川哲也賞受賞作。

 神紅大学ミステリー愛好会所属の葉村譲と、会長にして「神紅のホームズ」と呼ばれる明智恭介は、同大学の“探偵少女”剣崎比留子の要請で映画研究部の夏合宿に参加する。ペンション〈紫湛(しじん)荘〉へと赴いた一行だったが、そこで信じられない事態が発生。籠城せざるを得なくなったばかりか、凄惨な密室殺人と対峙(たいじ)することに……。

 加納朋子、北村薫、辻真先――三選考委員が満場一致で授賞を決めたことももちろんだが、やはり(タイトルで察しのつく方もいるとは思うが)クローズド・サークルを形成する特異な事態のインパクトが注目を集めた最大の要因だろう。安易に扱えばキワモノになりかねないネタを有栖川有栖『月光ゲーム Yの悲劇’88』を想起させるように用いてみせたセンス、このネタを正統的本格ミステリーに組み込んだ必然性には大変好感を覚えた。サプライズの威力、ロジックの精度も新人賞受賞作としては申し分なく、「今年の新人王は今村昌弘!」とためらうことなく断言できる。素晴らしい逸材の誕生を心から寿(ことほ)ぎたい。

“「絶賛」か「激怒」しかいらない”“メフィスト賞史上最大の問題作”“すべてのミステリ読みへの挑戦状――”といったド派手な惹句が躍(おど)る、第53回メフィスト賞受賞作――柾木政宗(まさきまさむね)『NO推理、NO探偵?』(講談社ノベルス 880円+税)は、読み始めるや奔放(ほんぽう)な文体とコントのような会話の応酬に目が丸くなる。

 ひょんなことから推理することができなくなってしまった女子高生探偵アイちゃんを、自称「助手」であり熱狂的な応援団でもある同級生のユウがサポートすることになるのだが、「推理って、別にいらなくない?」という衝撃の提言に椅子から転げ落ちそうになる。以降、「日常の謎っぽいやつ」「アクションミステリっぽいやつ」「旅情ミステリっぽいやつ」といった具合に、ゆるいジャンルいじりが続き、いやまったくエライものが出てきたものだと天を仰ぎたくなったが、ある箇所で著者の狙いが明らかになると、それまで抱いていた印象が大きく変わった。

 確かにひとによってはこの作風を悪ふざけのように感じて“激怒”する向きもあるだろう。しかし、よくよく読んでみれば、奔放で掟(おきて)破りに見えるあれこれに本格ミステリーを踏みにじるような邪気はなく、むしろ「誠実な傾きぶり」とでも称したくなる所作に微笑(ほほえ)ましさを感じてしまった。こうした若い才能には臆することなくどんどん気を吐いていただき、シーンを大いに揺さぶって、活気を生み出していただきたいものである。

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■宇田川拓也(うたがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。和光大学卒。ときわ書房本店、文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

(2018年2月28日)



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