凶悪な連続強盗事件の捜査のなか、公園で少女が暴行のうえ殺されているのが見つかります。さらに別の少女が公園で殺され、事件は連続暴行殺人の様相を呈します。ベックらは、強盗事件が公園の近くで起きていることから、強盗犯が何かを目撃しているのではないかと思いつき……。
ベックの部下コルベリが、実在の《ボストン絞殺魔》事件になぞらえて困難な捜査を案じるくだりが出てきますが、もともと本作はスウェーデンの実在の連続殺人犯をモデルに書かれたものとされます。殺人課の刑事それぞれの捜査から、読者に見えている真相にどうたどり着くかという構成なので、ミステリとしてみたときの謎は無く、その点では物足りないかもしれません。警察小説としては見事な筋運びで、ラーソン警部というベックと対照的なキャラクターが新たに加わることで、シリーズの安定感が増しているように思います。
こういった作風にあらわれる小泉の好みは、エッセイや評論集で能弁に語られています。小泉作品の復刊を楽しんでいる読者には格好のブックガイドになろうかと思いますので、小説以外の著作についても復刊の企画があると嬉しいのですが。
眠狂四郎の円月殺法が説明なしに通じるのは筆者の世代がぎりぎりでしょうか。その一連のシリーズにミステリに分類される作品があることまで知っているのは、かなり上の世代の方に限られそうです。柴田錬三郎のミステリには大坪砂男がプロットを提供していたのはよく知られるところで、新たな読者に興味を持ってもらうのにはとても面白い切り口だと思います。もともと男性向けの娯楽小説ですからエロティックな内容に偏っているのはご留意いただかないといけませんが、「からくり門」「髑髏(どくろ)屋敷」あたりは純粋に切れ味鋭いミステリとして楽しめるはずです。
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■大川正人(おおかわ・まさひと)
ミステリ研究家。1975年静岡県生まれ。東京工業大学大学院修了。共著書に『本格ミステリ・フラッシュバック』がある。
(2017年7月27日)
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