こんにちは、編集部SF班の(兄)です。『巨神覚醒』の刊行準備を終えてくらりとウイグルで自転車旅行して、またひつじ食べにいきたいなー……などと考えているうちに、もう10月の本の予告をする時期がきたんですねー。創元SF文庫より、今回もおもしろい作品をお届けします!



【ムア・ラファティ『六つの航跡』あらすじ】
 新しいクローンの身体で目覚めた乗組員たちが最初に目にしたのは、宙に浮かぶ自分たちの他殺死体だった――。

 時は25世紀、クローン人体作製と人格移植技術の実用化により、事実上の不死が実現した時代。環境破壊や紛争の続く地球から脱出したい富裕層を中心に、人類初の恒星間移民計画が立案・実行された。かくして2000人の冷凍睡眠者と500人分の人格データを載せた巨大宇宙船ドルミーレ号は、くじら座タウ星系をめざして航海を続けていた。

 ところが地球出発後25年目にして、唯一目覚めていた乗組員6人が全員、死亡。彼らはクローンとして蘇ったものの、何者かの手によって地球出発後25年間の記憶をすべて消されていた。しかも船の管理AIもハッキングされていて、針路が勝手に変更されたうえに、再度のクローン復活が不可能に。
 なにもない宇宙を突き進む閉鎖空間内で、いったい誰が彼らを殺したのか、それとも彼らは殺し合ったのか? なお厄介なことに、実は乗組員6人全員が全員とも、他人に決して明かせない秘密を抱えていた。
 他人どころか自分自身さえも信用できない状況下、彼らは疑心暗鬼になりながらも協力を余儀なくされる。はたして彼らは真相を突き止め、自分たちを救うことができるのか……?



 つい先日、8月19日に発表されたヒューゴー賞長編部門は、N・K・ジェミシンがThe Stone Skyで三部作を3年連続で受賞する(今年はネビュラ賞との二冠)という快挙を成し遂げて日本でも話題となりましたが、本作『六つの航跡』はこの超人気受賞作とヒューゴー賞・ネビュラ賞を争いました。惜しくも受賞は逃したものの、おもしろさは折り紙つき。
 ちなみに今年(2017年刊行)のヒューゴー賞長編部門候補作6点のうち、本作とアン・レッキー『動乱星系』、そしてジェミシンの受賞作を含む4点は小社よりちかぢか刊行予定。ジェミシンの件や中国作家・劉慈欣『三体』の2015年ヒューゴー賞受賞など、ダイナミックな地殻変動が起こっているアメリカのSFF界でいま、いったいどのような作品が書かれて人気を博しているのか読み比べできる、めったにない機会だと思います。
(個人的には、ここ10年ほどのあいだに新しいタイプの著者と読者がSFFというジャンルを”発見”し、ジャンルの蓄積を活かしつつ新しい価値観を持ち込もうとしている……と感じていますが、この話はまた別のときに。)

 刊行まではもう少しお時間をいただきますが、ぜひおたのしみに! もうすぐカバーも公開できると思います。装画は加藤直之さん、装幀はワンダーワークス岩郷重力さん、解説は渡邊利道さんです。




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