火災調査官
総務省消防庁の消防統計によると、2017年の総出火件数のうち、出火原因の第1位は「たばこ」、続いて「放火」です。ちなみに、総出火件数の 39,198 件のうち、「放火」及び「放火の疑い」は合わせると5,756 件。全体の14.7%の火災が、人の悪意によって起こされていると思うとぞっとします。

本書は、目黒区の空き家で発生した放火から幕が上がります。幸い死傷者は出なかったものの、現場には犯人の遺留物と思しき、ダ・ヴィンチの作品を模写した天使の絵が残されていました。
そしてそれを皮切りに、都内で同じ手口の放火事件が頻発します。なぜ同じ絵が現場に必ず残されるのか? 被害者たちの共通点とは? 

そんな不可解な放火事件に立ち向かうのは、火災のプロ達と言うべきふたりの主人公。有能だが本心では炎の美しさに執着している火災調査官・東と、正義感あふれるポンプ車小隊長・白木。クールで本音をあまり口にしない東と、直情でお人好しの白木、好対照なふたりのやり取りは絶妙です。
また、緻密な取材に裏打ちされた、火災・防火についての詳細な描写や、リーダビリティ抜群のスピーディーな展開は読み応えがあります。

執筆秘話を語る文庫版ならではのあとがきと共に、ぜひ本書をお楽しみください。

(2018年5月10日)



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