ペインスケール
みなさまこんにちは。ラムネとフェレットをこよなく愛する翻訳班Sです。3月16日ごろ発売のマシュー・ディックス『マイロ・スレイドにうってつけの秘密』についてご紹介いたします。

マイロ・スレイドは33歳の訪問看護士。真面目で不器用、女性にはモテないけどお年寄りには好かれる、〈スター・ウォーズ〉が大好きで飼い犬を「スカイウォーカー」と呼ぶ、愛すべき主人公です。彼が公園で、ベンチに置かれていたビデオカメラと14本のビデオテープを拾うところから、物語は始まります。この出来事がきっかけで、マイロの運命は大きく変わることになります。

実はこのマイロ氏、結婚して数年になる奥さんにも、両親にも友人にも、誰にも言えないある「秘密」があります。これ、本書の冒頭であきらかになるので別にネタバレではないのですが、読者のみなさんにもいろいろ考えていただきたいので、あえてふせておきます。でも、誰しも、マイロが抱える「秘密」には心当たりがあるというか、彼に共感できると思うんですよね。また、彼が親しい人々に「秘密」をばれないようにする必死の努力がなんとも涙ぐましく、ときに面白く、素直に応援したい! と思えるのです。

さて、そんなマイロ氏が拾ったビデオテープに映っていた、ある女性の衝撃的な告白。ビデオテープの女性は、ビデオに直接語りかけて、日記のようなかたちで自分が過去に経験した悲しい出来事を話していきます。みなさんも、誰しも幼いころに自分がやってしまった失敗や、人を傷つけてしまった後悔の気持ちに覚えがありますよね? この女性の告白に、わたしも読んでいて自分のあれこれを思い出し、胸が痛くなりました。マイロも同じように彼女に深く共感して、「助けになりたい」「気持ちを楽にさせてあげたい」と思うのです。そして、ビデオテープから得た情報を手がかりに、彼女を探し出そうとします。

マイロの探求は果たしてうまくいくのか? 女性を救うことができるのか? それはぜひ本書を読んで確かめていただければと思います。

ここまで書いてきたなかで、やっぱりこの著者は登場人物への共感をさそうのがうまい作家さんだな~と思います。とにかく細かい心理描写に納得感があるので、読んでいてとても楽しいです。

この本に出てくるのはちょっとだけ「ふつう」より変わった人々です。そして彼らの行動を通して、「ありのまま」に生きるにはどうしたらいいのかを教えてくれる気がします。そして、「ふつう」なんてものがないということも。最後まで読むと、心がすこし軽くなる、そんな物語なのです。帯のキャッチコピーに「読むと必ず笑顔になれる!」と書きましたが、まさにこれが本書のいちばんの魅力だと思います。

著者のマシュー・ディックスさんは、兼業作家です。教職に就きながらDJや結婚パーティの司会などさまざまな分野で活躍しています。創元推理文庫では、『泥棒は几帳面であるべし』に続く、二冊目のご紹介になります。どちらも読んでいてとてもほっこりする作品ですので、ぜひお手に取っていただけますとうれしいです。楽しい読書時間をお約束します!

そういえば完全に余談なのですが、わたくしが担当した翻訳小説のなかで、「マイロ」という名前の登場人物が出てくるのはこの本で三冊目になります。トムとかジョンとかよりはだいぶ珍しい名前だと思うのですが……。ちなみに、アントニー・マンの短編集『フランクを始末するには』(品切れ中です、スミマセン!)の一編「マイロとおれ」と、ケイト・ミルフォード『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』です。「マイロとおれ」のマイロは赤ちゃん、『雪の夜は小さなホテルで謎解きを』のマイロは12歳、そして本書のマイロは33歳なので、だいぶ成長した感じですね(笑)。

『マイロ・スレイドにうってつけの秘密』は3月16日ごろ発売です! どうぞよろしくお願いいたします。

(東京創元社S)  
(2018年3月8日)



ミステリ・SFのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社