ペインスケール
みなさんこんにちは! ラムネとフェレットをこよなく愛する翻訳班Sです。今回は2月28日刊行のタイラー・ディルツ『ペインスケール――ロングビーチ市警殺人課』をご紹介いたします!

まずはあらすじを……。

高級住宅街で下院議員の息子ベントン三世の妻と幼い子どもたちが殺害された。強盗か怨恨か? だが刑事のダニーは壁に飾られた一家の写真を見て不自然さを感じる。子どもを中心にした写真は少なく、なぜかほとんどがベントン三世の写真なのだ。過去の事件で負った体と心の痛みを抱え捜査に没頭する刑事ダニーと、彼を支え続ける相棒のジェン。男女刑事コンビの絆を描く警察小説!

本書は『悪い夢さえみなければ――ロングビーチ市警殺人課』の続編にあたりますが、事件自体は独立しているので、この作品から読んでもまったく問題ございません。事件のスケールも、キャラクターの関係描写もこの作品ですごくパワーアップしておりますので、二作目からでもぜひ読んでみてください。

さて、タイトルの『ペインスケール』っていったい何? と気になった方がいるかもしれません。冒頭で語られているので読めばすぐにわかるのですが、「ペインスケール」とは、「痛み」の度合いを1から10までの数値でとらえるものです。自分の感じている痛みが弱いなら1、強いなら10というように数値で表して、医者などに伝えるための概念ですね。本書ではこの「ペインスケール」が効果的に使われています。

というのは……。本書は、〈ロングビーチ市警殺人課〉シリーズの主人公、刑事ダニーが13ヶ月の傷病休暇を終えて殺人課に復帰したところから始まります。ダニーは過去の事件で左手首を負傷し、数回の手術を経て復帰を果たしました。とはいえ、まだ痛みが完全に無くなったわけではなく、突然激痛が走ることがあります。この作品では章が変わるたびに、冒頭でダニーの「ペインスケール」が表示されます。「ペインスケール:8」などというように。ダニーの傷、そして哀しい事件で家族を亡くしたときに受けた心の傷がこの数値に表されており、心情が物語の展開に反映されているのが、とても興味深い! 「ペインスケール」の数値が低い章がいくつかあるのですが、それはダニーの心情がどういうときなのか? ぜひ読んで確かめてみてください。

ダニーが抱えている「痛み」がこの作品の「影」の部分だとすると、ダニーと一緒に働く殺人課の仲間は「光」の部分だと思います。特に相棒の女性刑事ジェンが、苦悩するダニーを静かに見守っているのがとてもいいのです。ジェンは、格闘技に秀でており、貧しいがゆえに非行に走りそうな子供たちを自ら指導する心優しい人物。ダニーとジェンのべたべたしていない、信頼しあっているコンビ感がすごくいいと思います。

また、前作にも登場した、コンピュータに詳しい天才肌の刑事パットが本作ではさらに大活躍! 「引きこもりで変わり者」という典型的なキャラではなく、茶目っ気があってコミュニケーションに長けている珍しい(?)「ハッカー」です。ジェンとパットの明るさがダニーの心の支えになっているのが、しみじと「いいな……」と感じるところのひとつです。

事件自体の複雑さやスケールもアップしています。解説でも、若林踏さんが「捜査小説としての練度が上がった」ことを魅力のひとつにあげてくださっています。また、こんな面白いご指摘も……。

本作では至るところに起伏が設けられて飽きさせない。特に中盤以降では序盤における事件のイメージからは予想がつかない、ある要素が絡んできて意表を突かれた。

これ、作品を読んでから解説を読むと「わかる~!!」ってひらすら首ふりマシーンになると思います! 

さまざまな魅力がたっぷり詰まった「これぞ警察小説」といえる本書を、ぜひ手にとってみてください。『ペインスケール――ロングビーチ市警殺人課』は2月28日刊行です。どうぞよろしくお願いします!

(東京創元社S)  
(2018年2月27日)



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