龍の耳を君に
 現在冬季オリンピックが開催され、日本人選手や世界のトップ選手たちの活躍に胸を踊らされます。羽生選手の連覇や、小平選手のオリンピックレコードすごかったですよね。2年後2020年はいよいよ東京オリンピック。そしてオリンピック後には障害者の参加するパラリンピックもあります。しかし、聴覚障害のある選手はパラリンピックには参加できません(実力があればオリンピックには出場できます)。あまり知られてはいないようですが、聴覚障害者はデフリンピックという世界大会(オリンピック同様に4年おき)に向けてトレーニングを積んでいます。昨年2017年はトルコ・サムスンで夏季大会が開かれ、来年2019年にはイタリア・トリノで冬季大会も予定されています。サッカーなど競技人口の多い種目は、W杯も開催されているようです。
 たまたま2009年に台北に出張した時に、デフリンピック夏季大会が開かれている最中で、日本人選手にとあるカフェで遭遇したことがあります。ジェスチャーで激励したところ、とても嬉しそうな表情をしていたことが印象的でした。いろいろな事情があるようですが、個人的には、パラリンピックとデフリンピックは合併できるとよいなと思います。

 ここから本題ですが、『龍の耳を君に デフ・ヴォイス新章』は、聴覚障害のある両親の元に生まれた聞こえる子(コーダ)を主人公にした物語の第2弾になります。自らの生まれと、とある殺人事件に巻き込まれた主人公・荒井の葛藤と活躍を描いたのが、『デフ・ヴォイス 法定の手話通訳士』(文春文庫)でしたが、こちらは読書メーターをはじめとした書評サイトで大変話題となりました。『龍の耳を君に』はそこから2年後が舞台となっています。
 ろう者(耳の聞こえない人)が容疑者となった強盗事件の法廷での手話通訳をつとめた荒井の姿を描く「弁護側の証人」。ろう者がろう者を恐喝した事件の容疑者への警察での取り調べでの通訳における苦悩「風の記憶」。場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)の少年に手話を教える最中、その少年が近所で起こった殺人事件を目撃したと話し始めた「龍の耳を君に」の三話構成です。
 事件の真相を暴く荒井の姿も読みどころですが、今回は新しい家族との繋がりも大きなテーマとなっています。前作から続く恋人との距離、そして恋人の娘とのコミュニケーションなど、言語とは、家族とは何かを問う、力作に仕上がっています。
 ぜひ『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』と併せて、お楽しみ下さい。

 最後に個人的なお話しで申訳ありません。私は片耳が聴こえません。幼少期のおたふく風邪が原因(ムンプス難聴というのも最近知りました)なので、音の方角や、イヤホンやヘッドホンでのステレオが分らないことぐらいで、基本的にはさほど不便なこともなく生活しています。芸能界では突発性難聴も話題となりますが、歌手の方が発症すると、それは不便だろうなと想像してしまいます。〈デフ・ヴォイス〉シリーズの荒井のようにはいかないとは思いますが、ゆくゆくは手話を覚えてみたいなと漠然と思っています。

丸山先生から読者へのメッセージをいただきました。手話でのメッセージもありますので、ぜひご覧ください。



(2018年2月20日)



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