みなさんこんにちは、SF班海外担当(兄)です。なぜ自分の預かり知らぬところで(兄)と呼ばれる羽目になってしまったのかは、先日の記事「石川宗生さん『半分世界』刊行記念・飛浩隆先生によるインタビュウ!」をごらんください。
さて今回は、2月23日刊行の新作スペースオペラ、S・K・ダンストール『スターシップ・イレヴン』(三角和代訳)の予告です。
謎の画期的エネルギー源“ライン”の発見により、夢の超光速航法が実現してから500年、人類は銀河系全域に進出していた。ただし、原理も正体もまったく不明のラインを修理できるのは、生まれつきラインを感じ取る素質を持ち、さらに子ども時代から10年以上の訓練を受けた、選ばれた“ラインズマン”だけ。特に最高ランクであるレベル10のラインズマンは、銀河系に50人足らずしかおらず、ほぼ全員が高く尊敬されている……主人公イアン以外は。
我流でラインズマンとしての技術を磨いたイアンには、歌うことによってラインを修理するという、他のどのラインズマンにもない奇妙な癖があった。しかも彼はひそかに、歌によってラインと心を通わせることができる、と信じていたのだ。しかし、イアンがとかく評判の悪い弱小カルテルに契約を結ばされているということもあり、周囲の人々にはまったく信じてもらえず、ただの変人と思われている。ほかのレベル9や10のラインズマンたちはほぼ全員、半年前に見つかった“合流点”と呼ばれる謎の球体の調査に駆り出されているのだが、イアンだけは居残りで、二流の船の修理にかかりきりだった。
そんな彼の前に突然現れた、さる強国の皇女ミシェル。レベル10のラインズマンを探していた彼女に強引に身柄を買い取られ、イアンは連れて行かれる。ミシェルの目的は、宇宙空間を漂流していた謎の巨大エイリアン・シップを極秘裏に調査すること。この船は人類がはじめて遭遇する異星種族由来の物体なのだが、通信にはまるで応えず、それどころか近づくものすべてを破壊するきわめて剣呑な存在だった。ただしどうやらラインと関係があるらしく、それゆえイアンは謎を解く役目を託されたのだ……
本作『スターシップ・イレヴン』がなによりもユニークなのは、作中で「歌」が核心的な役割を果たすこと。純粋なエネルギー源であるはずのライン、謎ばかりの合流点やエイリアン・シップと、イアンの歌にはいったいどんな関係があるのか? 物語はさらに、対立する星間国家どうしの思惑も絡んで、人類の二大陣営による星間大戦の危機に発展します。
そしてまたスペースオペラらしく、個性あふれる登場キャラクターたちも大きな魅力。主人公イアンは、周囲に軽んじられ――
イアンはずっと「何を言ってるんだコイツは」扱いをされていたせいで、すっかり自信をなくしているのですが、類い稀な才能を持つことはまちがいない人物。それに、いつも強引だけれどたまに見せる優しさが魅力の皇女ミシェル、彼女を忠実に守る護衛役エイブラム、いつも明るくイアンに親切ながらやるときは徹底的にやる兵士ラドコ、そして敵役や脇役にいたるまでしっかりと描きこまれた面々の活躍をお楽しみに。(それにしても、作中で主人公がボイストレーニングを受ける場面があるSFは、本作と『マクロス』シリーズくらいじゃないでしょうか?)
ちなみに下巻巻末には、邦訳独自の作中用語集を収録しました。国や組織など、作中で語られている事項をまとめた簡易なものですが、作中ではけっこういろんな勢力の思惑が入り乱れるので、「どの国とどの国が仲悪いんだっけ?」など確かめたいときに役立てていただけると幸いです。
ここ最近、ハリウッド映画界では『スター・ウォーズ』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などSF大作が元気ですが、そういえば翻訳SF小説では「宇宙を舞台にした、ミリタリーSFではないエンターテインメントSF」が少ないかなーと、いち読者として感じていたところ。『スターシップ・イレヴン』は、そういった作品を求めるみなさまにきっと満足してもらえるのではないかと思います。目印はK, Kanehira氏による、上下巻ひとつづきの美麗なカバーイラスト。刊行をお楽しみに!
ミステリ・SF・ファンタジイのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
さて今回は、2月23日刊行の新作スペースオペラ、S・K・ダンストール『スターシップ・イレヴン』(三角和代訳)の予告です。
* あらすじ *
謎の画期的エネルギー源“ライン”の発見により、夢の超光速航法が実現してから500年、人類は銀河系全域に進出していた。ただし、原理も正体もまったく不明のラインを修理できるのは、生まれつきラインを感じ取る素質を持ち、さらに子ども時代から10年以上の訓練を受けた、選ばれた“ラインズマン”だけ。特に最高ランクであるレベル10のラインズマンは、銀河系に50人足らずしかおらず、ほぼ全員が高く尊敬されている……主人公イアン以外は。
我流でラインズマンとしての技術を磨いたイアンには、歌うことによってラインを修理するという、他のどのラインズマンにもない奇妙な癖があった。しかも彼はひそかに、歌によってラインと心を通わせることができる、と信じていたのだ。しかし、イアンがとかく評判の悪い弱小カルテルに契約を結ばされているということもあり、周囲の人々にはまったく信じてもらえず、ただの変人と思われている。ほかのレベル9や10のラインズマンたちはほぼ全員、半年前に見つかった“合流点”と呼ばれる謎の球体の調査に駆り出されているのだが、イアンだけは居残りで、二流の船の修理にかかりきりだった。
そんな彼の前に突然現れた、さる強国の皇女ミシェル。レベル10のラインズマンを探していた彼女に強引に身柄を買い取られ、イアンは連れて行かれる。ミシェルの目的は、宇宙空間を漂流していた謎の巨大エイリアン・シップを極秘裏に調査すること。この船は人類がはじめて遭遇する異星種族由来の物体なのだが、通信にはまるで応えず、それどころか近づくものすべてを破壊するきわめて剣呑な存在だった。ただしどうやらラインと関係があるらしく、それゆえイアンは謎を解く役目を託されたのだ……
* * *
本作『スターシップ・イレヴン』がなによりもユニークなのは、作中で「歌」が核心的な役割を果たすこと。純粋なエネルギー源であるはずのライン、謎ばかりの合流点やエイリアン・シップと、イアンの歌にはいったいどんな関係があるのか? 物語はさらに、対立する星間国家どうしの思惑も絡んで、人類の二大陣営による星間大戦の危機に発展します。
そしてまたスペースオペラらしく、個性あふれる登場キャラクターたちも大きな魅力。主人公イアンは、周囲に軽んじられ――
「いままでにラインズマンが歌うのなんか、聞いたことなかったよ」三回目の食事を運んできたクルーの男が言った。
イアンもない。そもそも、ほかのラインズマンはラインを歌だと表現してもいなかった。一度、教官たちに説明しようとしたことがある。
「ラインたちの音程が外れているんですが、みずから調律する方法がわからないような感じです。音程が外れているのさえ、気づいていないこともありますよ。修復するために、ぼくが正しい音程で歌うと、ラインたちもそれに合わせて歌おうとする。そして歌声が合ってくるまでおたがいつづけていくんです」
教官たちはなんて問題児だとでもいうように顔を見合わせた。イアンの頭がまともじゃないと考えていたのかもしれない。
「それはきみが長いこと我流でやりすぎたからさ」特に敵意をむきだしにする教官にそう言われた。「ラインとは純然たるエネルギーにすぎない。ラインズマンはそのエネルギーを意識で操作する。音楽とかいう戯言は頭から追いだす必要があるぞ」そして、スラムの犬をギルドの世界に連れこむなど、リゲルのカルテルはどれだけなりふり構わないのかと別の教官に耳打ちした。
(上巻p.10-11より引用)
イアンはずっと「何を言ってるんだコイツは」扱いをされていたせいで、すっかり自信をなくしているのですが、類い稀な才能を持つことはまちがいない人物。それに、いつも強引だけれどたまに見せる優しさが魅力の皇女ミシェル、彼女を忠実に守る護衛役エイブラム、いつも明るくイアンに親切ながらやるときは徹底的にやる兵士ラドコ、そして敵役や脇役にいたるまでしっかりと描きこまれた面々の活躍をお楽しみに。(それにしても、作中で主人公がボイストレーニングを受ける場面があるSFは、本作と『マクロス』シリーズくらいじゃないでしょうか?)
ちなみに下巻巻末には、邦訳独自の作中用語集を収録しました。国や組織など、作中で語られている事項をまとめた簡易なものですが、作中ではけっこういろんな勢力の思惑が入り乱れるので、「どの国とどの国が仲悪いんだっけ?」など確かめたいときに役立てていただけると幸いです。
ここ最近、ハリウッド映画界では『スター・ウォーズ』や『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』などSF大作が元気ですが、そういえば翻訳SF小説では「宇宙を舞台にした、ミリタリーSFではないエンターテインメントSF」が少ないかなーと、いち読者として感じていたところ。『スターシップ・イレヴン』は、そういった作品を求めるみなさまにきっと満足してもらえるのではないかと思います。目印はK, Kanehira氏による、上下巻ひとつづきの美麗なカバーイラスト。刊行をお楽しみに!
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