日本SF史に名を刻む傑作『銀河英雄伝説』の新作アニメーションが、2018年4月よりTV放送されることが発表されました。新たなキャストと制作陣によって語り直される『銀河英雄伝説』に期待が集まります。
著者は田中芳樹さん。『銀河英雄伝説』をはじめ『アルスラーン戦記』『創竜伝』『マヴァール年代記』『タイタニア』――豊饒な物語世界をいくつも紡ぎあげてきました。今や数多くの長篇シリーズを擁する田中さんですが、そのデビュー作が実は短篇小説だったことをご存知でしょうか。
70年代後半に「緑の草原に……」で第3回幻影城新人賞を受賞して登場以来、80年代に長篇シリーズが次々と刊行されるまでの間、田中さんは〈幻影城〉を始めとした各小説誌で精力的に短篇を発表していました。そんな田中さんの短篇には、のちの代表長篇に結実する著者のエッセンスが凝縮されていると言っていいのではないでしょうか。
長篇シリーズは巻数があって、今から読むにはすこし及び腰になってしまう方には、短篇を入口として読むことをお薦めします。
この度、田中さんの作家生活40周年を記念して、その初期作品群を新たに発表年代別に集成、〈田中芳樹初期短篇集成〉と題して全2巻にて刊行いたします。
第1巻『緑の草原に……』は、記念すべき出発点となった第3回幻影城新人賞受賞作である表題作をはじめ、1970年代に雑誌〈幻影城〉に発表された9篇を収めています。
本格推理小説の再評価と新人発掘に於いて語られることの多い〈幻影城〉ですが、創刊号の巻頭特集が「日本のSF」、その次の号では「冒険ロマン」特集が組まれていたことからも窺えるように、推理小説のみならずSF、冒険小説、幻想小説と様々なジャンル小説を紹介する場にもなっていました。
〈幻影城〉のコンセプトは田中さんの興味の幅広さとも相性がよかったのか、「受賞のことば」で「出発点はSFになったが、冒険小説、サスペンス、近世以前の中国を舞台にした歴史ロマンス――あらゆる分野に挑戦してみたい」と書かれたとおり、以降同誌に発表された作品群はひとつとして似たものがありません。
時を遡り続ける恋人たちの逃避行を描いたロマンチックな時間SF「いつの日か、ふたたび」、小惑星航路(アステロイド・ベルト)を行く貨客船のなかで航宙士たちの人間模様が交錯する「流星航路」、アラスカの海底に眠るナチス・ドイツの財宝をめぐっての冒険活劇「深紅の寒流」――著者の第一長篇『白夜の弔鐘』以前に発表された、本巻に収められている作品は、その後の輝かしい長篇シリーズに結実する萌芽を感じさせます。
続く第2巻『炎の記憶』は、SF専門誌〈SFアドベンチャー〉に発表された作品を中心に、1980年代前半に発表された11篇が収められています。
82年に『銀河英雄伝説』(トクマ・ノベルズ)、86年に『アルスラーン戦記1 王都炎上』(角川文庫)、87年に『創竜伝1 超能力四兄弟』(講談社ノベルス)、88年に『マヴァール年代記1 氷の玉座』(カドカワノベルズ)――80年代は次々と代表的長篇シリーズが刊行されて、田中さんの創作に於いても重要な時期と言えるでしょう。本巻に収録されている作品群は、まさに代表的長篇シリーズの刊行前夜にあたります。
劈頭を飾るのは、人知を超える能力を身に宿した青年・冬木涼平が自らの運命に翻弄されていく姿を描く「炎の記憶」「夜への旅立ち」「夢買い人」三部作。超能力を宿した主人公が巨悪と対峙する物語は、後の『創竜伝』の原型にもなっています。
ほかにも、星間戦争のさなか終わりなき戦闘に倦んでいた青年将校と謎めいた少女の邂逅を描いた「戦場の夜想曲」のような短篇の代表作がある一方で、怪奇小説のスタイルを採り入れた「闇に踊る手」など70年代にはなかった作風も特色のひとつです。また、アメリカ合衆国大統領の前代未聞の脳移植をめぐる「白い顔」は、同じ第3回幻影城新人賞を受賞した盟友・連城三紀彦氏が「とりわけ僕の惚れ込んでいる短篇」と言っているだけあって、どんでん返しの利いた作品で、ミステリが好きな方にもおすすめの一篇です。第2巻は、第1巻に収録された作品から発展したかたちで、より多彩さを増しています。
以上ご紹介した全2巻。「あの長篇は、この作品が原型だったのか」という発見だけでなく、「こんな小説も書いていたのか」という新鮮な驚きも味わえる作品集になっています。
これから田中芳樹作品を読み始める入門書として、そしてその魅力により深く嵌るに最適の初期短篇集成『緑の草原に……』『炎の記憶』は、9月29日に同時発売です。
ミステリ・SFのウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
著者は田中芳樹さん。『銀河英雄伝説』をはじめ『アルスラーン戦記』『創竜伝』『マヴァール年代記』『タイタニア』――豊饒な物語世界をいくつも紡ぎあげてきました。今や数多くの長篇シリーズを擁する田中さんですが、そのデビュー作が実は短篇小説だったことをご存知でしょうか。
70年代後半に「緑の草原に……」で第3回幻影城新人賞を受賞して登場以来、80年代に長篇シリーズが次々と刊行されるまでの間、田中さんは〈幻影城〉を始めとした各小説誌で精力的に短篇を発表していました。そんな田中さんの短篇には、のちの代表長篇に結実する著者のエッセンスが凝縮されていると言っていいのではないでしょうか。
長篇シリーズは巻数があって、今から読むにはすこし及び腰になってしまう方には、短篇を入口として読むことをお薦めします。
この度、田中さんの作家生活40周年を記念して、その初期作品群を新たに発表年代別に集成、〈田中芳樹初期短篇集成〉と題して全2巻にて刊行いたします。
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第1巻『緑の草原に……』は、記念すべき出発点となった第3回幻影城新人賞受賞作である表題作をはじめ、1970年代に雑誌〈幻影城〉に発表された9篇を収めています。
本格推理小説の再評価と新人発掘に於いて語られることの多い〈幻影城〉ですが、創刊号の巻頭特集が「日本のSF」、その次の号では「冒険ロマン」特集が組まれていたことからも窺えるように、推理小説のみならずSF、冒険小説、幻想小説と様々なジャンル小説を紹介する場にもなっていました。
〈幻影城〉のコンセプトは田中さんの興味の幅広さとも相性がよかったのか、「受賞のことば」で「出発点はSFになったが、冒険小説、サスペンス、近世以前の中国を舞台にした歴史ロマンス――あらゆる分野に挑戦してみたい」と書かれたとおり、以降同誌に発表された作品群はひとつとして似たものがありません。
時を遡り続ける恋人たちの逃避行を描いたロマンチックな時間SF「いつの日か、ふたたび」、小惑星航路(アステロイド・ベルト)を行く貨客船のなかで航宙士たちの人間模様が交錯する「流星航路」、アラスカの海底に眠るナチス・ドイツの財宝をめぐっての冒険活劇「深紅の寒流」――著者の第一長篇『白夜の弔鐘』以前に発表された、本巻に収められている作品は、その後の輝かしい長篇シリーズに結実する萌芽を感じさせます。
続く第2巻『炎の記憶』は、SF専門誌〈SFアドベンチャー〉に発表された作品を中心に、1980年代前半に発表された11篇が収められています。
82年に『銀河英雄伝説』(トクマ・ノベルズ)、86年に『アルスラーン戦記1 王都炎上』(角川文庫)、87年に『創竜伝1 超能力四兄弟』(講談社ノベルス)、88年に『マヴァール年代記1 氷の玉座』(カドカワノベルズ)――80年代は次々と代表的長篇シリーズが刊行されて、田中さんの創作に於いても重要な時期と言えるでしょう。本巻に収録されている作品群は、まさに代表的長篇シリーズの刊行前夜にあたります。
劈頭を飾るのは、人知を超える能力を身に宿した青年・冬木涼平が自らの運命に翻弄されていく姿を描く「炎の記憶」「夜への旅立ち」「夢買い人」三部作。超能力を宿した主人公が巨悪と対峙する物語は、後の『創竜伝』の原型にもなっています。
ほかにも、星間戦争のさなか終わりなき戦闘に倦んでいた青年将校と謎めいた少女の邂逅を描いた「戦場の夜想曲」のような短篇の代表作がある一方で、怪奇小説のスタイルを採り入れた「闇に踊る手」など70年代にはなかった作風も特色のひとつです。また、アメリカ合衆国大統領の前代未聞の脳移植をめぐる「白い顔」は、同じ第3回幻影城新人賞を受賞した盟友・連城三紀彦氏が「とりわけ僕の惚れ込んでいる短篇」と言っているだけあって、どんでん返しの利いた作品で、ミステリが好きな方にもおすすめの一篇です。第2巻は、第1巻に収録された作品から発展したかたちで、より多彩さを増しています。
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以上ご紹介した全2巻。「あの長篇は、この作品が原型だったのか」という発見だけでなく、「こんな小説も書いていたのか」という新鮮な驚きも味わえる作品集になっています。
これから田中芳樹作品を読み始める入門書として、そしてその魅力により深く嵌るに最適の初期短篇集成『緑の草原に……』『炎の記憶』は、9月29日に同時発売です。
(2017年9月27日)
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