秋葉図書館、リニューアルオープンしました!――え、だったら人事異動もあったりして? いえいえご安心ください。中身はそれほど変わっておりません。図書館司書の面々は、元気に勤務しております。
 そう、これはカバーのお話。今回『花野に眠る』待望の文庫化にあたり、新進気鋭の人気イラストレーター・わみずさんが、素敵なイラストを一気に描き下ろしてくださったんです! なんと前作『れんげ野原のまんなかで』も、一緒にわみずさんのイラストで再デビューすることなりました。
 そもそもこのシリーズをご存じない、これから読む(楽しみが残っている)というラッキーなかたのために、われらが図書館のことをちょっとご紹介いたしましょう。

 大都市から近くも遠くもなく、そこそこの距離にある秋庭市の町はずれ、野っぱらに囲まれて立つ秋葉図書館。規模もそこそこ、利用者もそこそこ。あれこれ「そこそこ」な図書館ですが、そこそこでないものがひとつあります。それは図書館司書のレベルの高さ。
 なんせ本の知識が半端ない! ネット時代でたいていのことは自分で調べがつくけれど、子どもの頃に読んでタイトルも著者もうろ覚えな絵本とか、ぼんやりとした作り方と形状しかわからない料理のレシピが載っている本など、探そうと思っても手掛かりが少なすぎて、探せないですよね。でも、ここの司書さんたちに訊けば、「これかな」「それとも、こっち?」とどんどん候補が出てくるんです。まるで手品みたい。
 でも、彼らは決して押しつけがましくも、博識をひけらかしもしません。いつの間にか利用者の隣に立っていて、そっと本を差しだす感じでしょうか。
 だからこそ、ご近所さんがお彼岸におはぎを差し入れしてくださったり、市のコミュニティバスで毎週立ち寄ってくださる常連さんがいたり、と地域の方々に愛されているんですね。時折、厄介事まで持ちこまれるのは、いささか困りものではありますが……
 実は、著者の森谷さんは、元図書館司書。そのときの経験と知識が、この本にたっぷり詰まっているんです!
 今回、『花野に眠る』に登場する本は21作。「あ、この本、懐かしい!」と思う本もあれば、「へえ、こんな本もあったんだ」と新たな発見があったり……あなたの読書欲に火をつけること間違いなし、です。もちろん、謎解き魂にも。

 さらに、昨今あまり感じられなくなってきた四季のうつろいが豊かに描かれているのも、このシリーズの魅力です。出てくるシーンは、ひと昔前の郊外地の風景そのもの。本を読みつつしばし目を閉じると、野をわたるさわやかな風を感じているような気分になりますよ。
 この夏は、秋葉図書館シリーズを読んで、夢中になって本を読んだあの頃に、あの場所に、帰ってみませんか?

(2017年8月17日)



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