『玉妖綺譚2 異界の庭』(最新刊)

 彩音の失敗が原因で幼い頃から傍らにいた玉妖くろがねが妖力を失い眠りについて以来、ただでさえ半人前の駆妖師彩音は、ろくに仕事がこなせずにいた。雇い主の海景堂の店番か、先輩駆妖師、伊上亮輔の事務所の店番がせいぜい。
 そんなとき、難波コレクションの創り主、難波俊之の甥彬良から、コレクションの玉妖で唯一行方不明だった蒼秀の行方がわかったとの知らせを受ける。異界の知識をため込んでいた、蒼秀ならばくろがねを目覚めさせる方法を知っているかもしれない。
 彩音は期待を胸に蒼秀の持ち主の屋敷を訪ねるが、そこに見たのは庭に異界妖が跋扈する異常な光景だった。屋敷の持ち主は何を考えているのか……。
 心の傷を隠して玉妖がらみの事件に挑む少女駆妖師彩音。彼女はつらい過去を清算し、相棒を取り戻すことができるのか。


・玉妖ってどんなもの? 美形ぞろい、持ち主の気を受けて成長する不思議な精霊“玉妖”の魅力を大公開!


『玉妖綺譚』

 皇国大和の首都、櫂都。
 皇都暦が開化に改元され、この都市に大和の首都機能が移されて二十四年目。政府機関が集中する神名地区は別格として、都内の二十一区は地区ごとにそれぞれ都市環境が大きく異なっていた。中でも白峰区は、通称「特区」と呼ばれており、そこでは、なぜか人々の目に見えないはずの異界妖の目撃があいついでいた……。
 公式には認められていないが、この世界の外には異界と呼ばれる世界があり、現実世界との間に“はざま”と呼ばれる中間地帯が存在する。異界の生き物である異界妖は、その“はざま”を通ってこの世界に出現するらしい。“はざま”で産する竜卵石は妖力をもち、主の“気”を受けて玉妖と呼ばれる精霊を宿すという。
 中でもその美しさ、知性から伝説的な存在とされるのが、異界の研究家として知られる難波俊之が育てた“難波コレクション”の七つの玉妖たちだ。
 翠の石に宿る「翠嵐」、紫の石に宿る「紫艶」、蒼の石に宿る「蒼秀」、黄の石に宿る「陽景」、そして白の石に宿る「かぐや」、赤の石に宿る「ほむら」、黒の石に宿る「くろがね」。
 だが、難波俊之は自らのコレクションを新たな持ち主に譲り渡し、忽然と姿を消してしまった。
 異界妖を見る能力を持った高崎百合乃と彩音の姉妹も、俊之から玉妖を受け継いでいた。百合乃は優雅な物腰をもつ炎の髪の美青年「ほむら」を、彩音は黒髪黒い瞳のぶっきらぼうな「くろがね」を。彩音は異界妖がらみの事件に対処する駆妖師見習いだ。玉妖は駆妖師に書くことができない相棒でもある。
 ところが、姉の百合乃がこともあろうに玉妖「ほむら」に魅入られてしまったのだ……。玉妖に魅入られ、玉妖の世界である“郷”に行ってしまった人間は、この世界ではこんこんと眠り続け、やがては死に至るという。彩音はたったひとりの肉親である姉を救おうとするが……。
 異形のものたちが跋扈する特異な世界を舞台に、少女駆妖師彩音と相棒「くろがね」が異界がらみの事件に挑む。
 第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞作。

井辻朱美/真園めぐみ『玉妖綺譚』解説(全文)
(2016年5月9日/2017年2月1日)



『玉妖綺譚』に登場する美形ぞろいの精霊“玉妖”。主の気を受けて成長する石の精霊。今回はこの魅力的な精霊について、ちょっとご紹介します。『玉妖綺譚』を読んで下さった皆様も、これから読んでみようとお思いの皆様も、“玉妖”のことをもっと知れば物語がもっと面白くなるはず! ようこそ“玉妖”ワールドへ!

◇玉妖
・竜卵石はもともと異界の物なので、はざまでしかみつけられない。
・石には妖力の強弱がある。妖力が弱いものはたとえ人間の姿をとっても、言葉を話せなかったり、自分の意志を持つまでに至らなかったりする。
・生物の“気”を一定期間(およそ3ヶ月~半年ほど)以上受けると、その種族の姿をとるようになる。
・“気”を与える者に意志があれば、思い通りの姿に育てることもできる。
・育て方はこちらの世界も異界も同じだが、異界では玉妖は実体を持つため、奴隷のように使役されることが多い。

◇難波コレクション
・もともと難波俊之が自分の理想とするタイプの人々(芸術を解し、知的で上品、理性的で穏やか)に囲まれて暮らしたいと思い、育て始めたもの。

◇難波家に来た順番
 ①翠嵐       女性型
 ②紫艶       女性型
 ③蒼秀       男性型
 ④陽景       男性型
 ⑤かぐや      女性型     ひらがなの三人の名前はさゆきがつけた。
 ⑥ほむら      男性型
 ⑦くろがね     男性型

① 翠嵐
・もともとは異界で異界の種族に飼われて(異界では玉妖を“飼う”という)いたが、紆余曲折を経て俊之が譲り受けることになる。“難波コレクション”中唯一、最初から俊之が育てたのではない玉妖。

② 紫艶
・大きくすそが広がるスカート、レースやフリルが大好き。
・美に関して執着があり、なおかつ人に一番だと認められたいという欲求を持っている。そんな彼女の姿を見て、俊之は自分にもそんな欲求があったのだと気づかされて、苦笑した。
・俊之は彼女をいちばん気に入っていた友人(料亭のご隠居)に譲った。その人が亡くなった後も、家族は遺言に従って大事にしていたが、価値がわからずしまいっぱなしになっていた(老人の言いつけで彼の前にしか出なかったから、家族は玉妖のことを知らなかった)。

③ 蒼秀
・何事も学者のように粘り強く研究するのが好きな性格。俊之と同じように、つきつめて物事を考えるタイプで、俊之の研究を手伝っていた。
・記憶力が良く、一度聞いたことはほとんど覚えている。
・人間嫌いで、俊之以外とはほとんど口をきかない。さゆきが直そうと努力したが無理だった。
・異界へのあこがれを強く持っている。
・俊之は悩んだ末、数多くの蔵書を持つ大学教授に譲った。

④ 陽景
・七人の中で最も明るく、陽気。
・自分の石の色と同じ、金色のものが大好き。
・少年のように無邪気だが、移り気で、外部からの影響を受けやすい。
・財産家の華族の友人に譲られたが、その人が白峰区を出ることを決意し、陽景をてばなしてしまった。その際、うしろめたかったのか、海景堂でなく他の業者に売ったため、行方不明になっていた。
・その業者から、妖力の強い玉妖を捜していた清輝のもとへ渡った。

⑤ かぐや
・俊之とさゆきがふたりで育てた最初の玉妖。
・幸せな二人の“気”を存分に受けたせいか、七人の中でいちばん人間に対して好意的。
・柔らかい、繊細なものが好きで、美しい着物が着たいから女性型でいる。
・聡明であるがゆえに、優しげな外見に似合わず、シニカルなところがある。
・七人の玉妖をすべて見ている人は、ほとんど皆、いちばん美しいのはかぐやだと言っている。俊之は外見の美しさだけでなく、精神的にもっとも安定しているのもかぐやだとみていた。
・俊之は最初から、かぐやを亮輔に譲ると決めていた。彼ならどんなに美しい玉妖であっても悪用したり、魅入られたりすることはないと信じていたから。

⑥ ほむら
・ほむらとくろがねは俊之の理想をふまえ、やり方をまねながら、主にさゆきが育てた。異界妖と戦えるような、強い玉妖を育てるのが目的だった。ふたりが中性的でなく、がっつり男性型なのはそのせい。
・さゆきがほむらに求めたのは、紳士的でありながら、強い男。ほぼ理想通りだったが、なぜか女性に優しいぶん、男性には厳しいという性格になった。

⑦ くろがね
・さゆきの“強い玉妖を育てたい”という思いを、もっとも体現している玉妖。
・二人といる時間がいちばん短かったせいか、子供のようにかたくなで、融通がきかないところもある。
・さゆきの他に主を持つのが嫌で、あまり彩音と関わりたくないと思っている。さゆきに育てられた自分を変えたくないから。自分自身や、自分の“郷”が、彩音の影響で変わってしまうことを恐れている。


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