みなさまこんにちは。翻訳ミステリ班の編集者Sと申します。
今回は、4月28日刊行のウルズラ・ポツナンスキ『古城ゲーム』(酒寄進一訳)について、内容とともにカバーのご紹介をいたします。この本の文庫カバー写真は、イラストレーターの遠藤拓人さんが制作されたオブジェを使用しました。遠藤さんはマージェリー・アリンガムや、海野十三『獏鸚』などのカバーイラストを手がけられている方ですが、今回はイラストの枠を超えて(?)なんとオブジェを創ってくださいました。わたしの担当書でオブジェを作ったのは初めてでして、ぜひぜひメイキングについても書いてみようと思い立った次第です。
まずは本の簡単なあらすじを……。
主人公バスチアンは、ガールフレンドの誘いでサエクルムというライブアクションロールプレイングゲーム(LARP)に参加します。LARPとは、現実世界で架空のキャラクターになりきってロールプレイングをおこなうゲームで、ドイツでは年間500を超すコンベンションが開かれるほど大人気です。
『古城ゲーム』の舞台となるのは、廃墟となった古城がそびえるオーストリアの人里離れた村。オーストリアなどドイツ語圏って、深い森や古城とかたくさんありますし、そういう環境で騎士や魔女といったキャラクターになりきって当時の服装(コスプレ)をして、さまざまなクエストに挑戦します。『進撃の巨人』の舞台のような場所で、木製の剣や盾を使って決闘や宝探しなどロールプレイングをしている若者たちをイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
ゲームには主催者側も含めて16人が参加します。しかし、途中からアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせるような展開になっていきます。ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』を連想させる、閉ざされた空間で次第に追いつめられていく若者たちを描いた見事な心理サスペンスでもあります。最後には驚きの真相も待ち受けています!
* * *
さて、ここからはカバーについてのお話を。本書のカバーデザインは、ペトラ・ブッシュ『漆黒の森』やニーナ・ブラジョーン『獣の記憶』を手がけられたデザイナーの藤田知子さんにお願いしました。カバーの方向性についてご相談しているときに、藤田さんから「作中の重要なモチーフのオブジェを創ってもらい、それを撮った写真」を使う、というご提案をしていただきました。普段ですと本のカバーにはイラストレーターさんにイラストを描いてもらうか、風景や人物などの写真を使うことが多いのですが、今回はゲームを扱っているということで一風変わった感じにしたいなと考え、藤田さんのご紹介で遠藤拓人さんにオブジェ制作をお願いすることにしました。
遠藤さんはさまざまな本のイラストを手がけられているイラストレーターさんですが、過去の個展ではオブジェも制作されていました。打ち合わせを経て、今回はカバーのために以下のオブジェを創っていただくことになりました。
・ゲームの参加者である若者(つまり素人)が手で創ったような、木製の剣
・ゲームで獲得するような、宝石をイメージしたもの
・中世っぽい金貨や鍵など
遠藤さんはゲームの「ドラゴンクエスト」シリーズがお好きとのことで、ものすごく熱意を込めて制作してくださいました! カバー中央にある剣は、松の木を削って創ったものに着色をして、さらにプラスチックの宝石をはめ込んだものだそうです。制作途中で藤田さんのご提案により、ちょっと錆びた感じに汚れをつけてもらいました。
さらに小物も凝っています。金貨は粘土で、砂金はなんとスポンジを細かくちぎったものを金色に塗っているのだとか! あとは木製の鍵も緑青が浮いているなど、細部まで丁寧に創られていました。
さて、3月中旬のある日、わたしと藤田さんは遠藤さんのお仕事場を訪問しました。ほぼすべてのオブジェが出来ましたよとご連絡をいただいたので、撮影を見学しに行ったのです。お仕事場はすでに準備万端で、さっそく撮影用にオブジェを配置する作業がはじまりました。
剣が置いてある背景(?)は、岩をイメージした下地を塗ったボードの上に、砂を敷いてあります。そこにクリスマス用のリースを分解した木の枝、鳥の羽、人工の藻などを置いていきます。打ち合わせ時にはなかった、色がとっても鮮やかな鳥の卵までありました! 次から次へといろいろなオブジェが登場するので、作業を見ていてめちゃくちゃ楽しかったです。麻袋からこぼれている金貨とか、ほんとうにゲームの世界にありそうですよね。
作業を続けていくうちに、剣の右上にもプラスチックの宝石が出現。これも、「ゲーム参加者の素人が使いそうな感じ」を重視して、あえてチープなものを選ばれたそうです。遠藤さんのこだわりに感激しました! 左上には紙の巻物まであります。
ざっと配置したあと、遠藤さんと藤田さんが、真剣な面持ちで細かい調整をおこなっていきます。コイン1個の位置を動かすだけでがらっと印象が変わることもあって、たいへん驚きました。わたくし、ただただ興奮して眺めているだけでした……。
ついにオブジェの配置が決定したところで、今度は撮影タイムに入ります。遠藤さんがなんだかすっごくお高そうなカメラを使って、どしどし写真を撮ってくださいました。わたし、ここでライトの位置調整をお手伝いして、ちょっとだけ仕事が出来てほっとしました。
こうして撮影が無事終了、その後遠藤さんが写真の色味や光の具合を調整してくださり、晴れてオブジェの写真が出来上がったのでした。その後は藤田さんによるデザインがはじまり、タイトル文字がとってもかっこいいラフ案が送られてきてさらに興奮しました。編集部で「すごいですよね!」と思わず自慢してしまったり。おふたりのおかげで、たいへん素敵なカバーに仕上がりました。
* * *
ということで、今回はめずらしく文庫カバーのメイキングをお送りしました。いつもはあらすじや著者についてなどの紹介が多かったので、ちょっと新鮮な気分です。内容ももちろんですが、本の顔ともいえるカバーにも力を入れて本を刊行しております。今後もぜひいろいろな本で注目していただけるとうれしいです。
『古城ゲーム』は4月28日発売です。どうぞよろしくお願いいたします!
(東京創元社S)
ミステリ小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
今回は、4月28日刊行のウルズラ・ポツナンスキ『古城ゲーム』(酒寄進一訳)について、内容とともにカバーのご紹介をいたします。この本の文庫カバー写真は、イラストレーターの遠藤拓人さんが制作されたオブジェを使用しました。遠藤さんはマージェリー・アリンガムや、海野十三『獏鸚』などのカバーイラストを手がけられている方ですが、今回はイラストの枠を超えて(?)なんとオブジェを創ってくださいました。わたしの担当書でオブジェを作ったのは初めてでして、ぜひぜひメイキングについても書いてみようと思い立った次第です。
まずは本の簡単なあらすじを……。
医学生のバスチアンは、 14世紀を疑似体験するサエクルムというゲームに参加するため、オーストリアの人里離れた森に到着した。そこでは携帯電話、消毒薬等ゲームの設定時代以降の物の持ち込みが禁止され、5日間騎士や魔女になりきる。だが参加者がひとり、またひとりと謎の失踪を遂げ、主催者の携帯も紛失し外部と通信不能に。さらに嵐を避けて逃げ込んだ洞に閉じこめられ、奥に大量の白骨死体を発見。想定外の出来事は何者かの仕業なのか?
主人公バスチアンは、ガールフレンドの誘いでサエクルムというライブアクションロールプレイングゲーム(LARP)に参加します。LARPとは、現実世界で架空のキャラクターになりきってロールプレイングをおこなうゲームで、ドイツでは年間500を超すコンベンションが開かれるほど大人気です。
『古城ゲーム』の舞台となるのは、廃墟となった古城がそびえるオーストリアの人里離れた村。オーストリアなどドイツ語圏って、深い森や古城とかたくさんありますし、そういう環境で騎士や魔女といったキャラクターになりきって当時の服装(コスプレ)をして、さまざまなクエストに挑戦します。『進撃の巨人』の舞台のような場所で、木製の剣や盾を使って決闘や宝探しなどロールプレイングをしている若者たちをイメージしていただけるとわかりやすいかと思います。
ゲームには主催者側も含めて16人が参加します。しかし、途中からアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を彷彿とさせるような展開になっていきます。ウィリアム・ゴールディング『蠅の王』を連想させる、閉ざされた空間で次第に追いつめられていく若者たちを描いた見事な心理サスペンスでもあります。最後には驚きの真相も待ち受けています!
* * *
さて、ここからはカバーについてのお話を。本書のカバーデザインは、ペトラ・ブッシュ『漆黒の森』やニーナ・ブラジョーン『獣の記憶』を手がけられたデザイナーの藤田知子さんにお願いしました。カバーの方向性についてご相談しているときに、藤田さんから「作中の重要なモチーフのオブジェを創ってもらい、それを撮った写真」を使う、というご提案をしていただきました。普段ですと本のカバーにはイラストレーターさんにイラストを描いてもらうか、風景や人物などの写真を使うことが多いのですが、今回はゲームを扱っているということで一風変わった感じにしたいなと考え、藤田さんのご紹介で遠藤拓人さんにオブジェ制作をお願いすることにしました。
遠藤さんはさまざまな本のイラストを手がけられているイラストレーターさんですが、過去の個展ではオブジェも制作されていました。打ち合わせを経て、今回はカバーのために以下のオブジェを創っていただくことになりました。
・ゲームの参加者である若者(つまり素人)が手で創ったような、木製の剣
・ゲームで獲得するような、宝石をイメージしたもの
・中世っぽい金貨や鍵など
遠藤さんはゲームの「ドラゴンクエスト」シリーズがお好きとのことで、ものすごく熱意を込めて制作してくださいました! カバー中央にある剣は、松の木を削って創ったものに着色をして、さらにプラスチックの宝石をはめ込んだものだそうです。制作途中で藤田さんのご提案により、ちょっと錆びた感じに汚れをつけてもらいました。
さらに小物も凝っています。金貨は粘土で、砂金はなんとスポンジを細かくちぎったものを金色に塗っているのだとか! あとは木製の鍵も緑青が浮いているなど、細部まで丁寧に創られていました。
さて、3月中旬のある日、わたしと藤田さんは遠藤さんのお仕事場を訪問しました。ほぼすべてのオブジェが出来ましたよとご連絡をいただいたので、撮影を見学しに行ったのです。お仕事場はすでに準備万端で、さっそく撮影用にオブジェを配置する作業がはじまりました。
剣が置いてある背景(?)は、岩をイメージした下地を塗ったボードの上に、砂を敷いてあります。そこにクリスマス用のリースを分解した木の枝、鳥の羽、人工の藻などを置いていきます。打ち合わせ時にはなかった、色がとっても鮮やかな鳥の卵までありました! 次から次へといろいろなオブジェが登場するので、作業を見ていてめちゃくちゃ楽しかったです。麻袋からこぼれている金貨とか、ほんとうにゲームの世界にありそうですよね。
作業を続けていくうちに、剣の右上にもプラスチックの宝石が出現。これも、「ゲーム参加者の素人が使いそうな感じ」を重視して、あえてチープなものを選ばれたそうです。遠藤さんのこだわりに感激しました! 左上には紙の巻物まであります。
ざっと配置したあと、遠藤さんと藤田さんが、真剣な面持ちで細かい調整をおこなっていきます。コイン1個の位置を動かすだけでがらっと印象が変わることもあって、たいへん驚きました。わたくし、ただただ興奮して眺めているだけでした……。
ついにオブジェの配置が決定したところで、今度は撮影タイムに入ります。遠藤さんがなんだかすっごくお高そうなカメラを使って、どしどし写真を撮ってくださいました。わたし、ここでライトの位置調整をお手伝いして、ちょっとだけ仕事が出来てほっとしました。
こうして撮影が無事終了、その後遠藤さんが写真の色味や光の具合を調整してくださり、晴れてオブジェの写真が出来上がったのでした。その後は藤田さんによるデザインがはじまり、タイトル文字がとってもかっこいいラフ案が送られてきてさらに興奮しました。編集部で「すごいですよね!」と思わず自慢してしまったり。おふたりのおかげで、たいへん素敵なカバーに仕上がりました。
* * *
ということで、今回はめずらしく文庫カバーのメイキングをお送りしました。いつもはあらすじや著者についてなどの紹介が多かったので、ちょっと新鮮な気分です。内容ももちろんですが、本の顔ともいえるカバーにも力を入れて本を刊行しております。今後もぜひいろいろな本で注目していただけるとうれしいです。
『古城ゲーム』は4月28日発売です。どうぞよろしくお願いいたします!
(東京創元社S)
(2016年4月5日)
ミステリ小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社