マイルズの旅路
マイルズの旅路
 大変長らくご愛読いただきまして、ありがとうございました。
 ユーモアと冒険のスペース・オペラ、大人気の〈マイルズ・ヴォルコシガン・シリーズ〉は、本作『マイルズの旅路』でついにクライマックスを迎えます。
 誕生前からとんでもない運命に巻きこまれ、めちゃくちゃに振り回され、完膚無きまでに打ちのめされてもまた復活、ようやく幸せをつかんだマイルズの旅もようやく終点。どんな結末が待っているのか……。

 マイルズ・ファンの皆様にひとつ朗報があります。
 実はビジョルド氏はこの『マイルズの旅路』のあとに、スピンオフともいえる中編を発表しています。まだまだマイルズたちに別れを告げたくない皆様、こちらもまだ時期未定ではありますが、刊行いたしますので、楽しみにお待ち下さい。

■ ビジョルド未来史の読み方は?

 ビジョルドのSF作品は『自由軌道』を含む全作が一つの未来史を形成しています。

 熱心な読者の方は、シリーズ各巻末に掲載している「ヴォルコシガン・シリーズの年譜」を先刻御承知と思いますが、なにぶん未来史中での順序と、著者が執筆した順序、さらに邦訳された順序が違っているので混乱を招いているかもしれません。以下に、改めて紹介いたします。

 時系列順では『名誉のかけら』 『バラヤー内乱』が最も初期の時代となっていますが、本編である『戦士志願』から読みはじめ、レギュラー・メンバーに親しんでから、彼らの誕生秘話である先の2編を読むほうが、よりいっそうシリーズを楽しむことができるのではないかと思います。


■ 前史(マイルズ誕生の約200年前)

自由軌道
 脚の代わりに四本の腕をもつ、宇宙空間での作業に適した新しい人間クァディーが生み出されました。
 ところが、クァディーたちを作りだしていた「事業」が中止され、彼らに「廃棄処分」の決定が下されます。そんななか、彼らを救おうと、一人の監督官が反旗をひるがえしたのですが……。
 『無限の境界』所収の「迷宮」に後世のクァディーが登場することにより、その後、未来史に組み込まれました。



■ コーデリアとアラール(マイルズの誕生前後)

名誉のかけら
 マイルズの母と父の若き日の物語。
 ベータ植民惑星のコーデリア・ネイスミス大佐と、バラヤー帝国のアラール・ヴォルコシガン提督は、とある惑星上で敵味方として出会い、奇妙な偶然から愛しあうようになります。
 この両親、どちらもマイルズと性格がそっくり。そういうくだりに出くわすたびに笑ってしまいます。この親にしてこの子あり、でしょうか。


バラヤー内乱
 『名誉のかけら』の翌日から始まる続編です。
「内乱」というテーマからして当然なのかもしれませんが、『名誉のかけら』の軽妙な調子とはうって代わって、非常に重厚な、ときには息ぐるしく感じるぐらいの物語が展開します。
 物語の最後で、コーデリアがこれから生まれようとするマイルズに語りかけるくだりは圧巻の一言につきます。



■ マイルズとデンダリィ傭兵艦隊

戦士志願
『戦士志願』(マイルズ17歳)
 マイルズの年代記は、この作品から始まります。マイルズは貴族の身でありながら、身体的なハンデのために士官学校の入学試験に失敗。傷心の彼はベータ植民惑星の祖母のもとに旅に出かけた……はずが、先々ではぐれ者の仲間を増やし、貿易業を始め、ついには口八丁手八丁で巨大な傭兵艦隊を率いることに。いわば「宇宙のわらしべ長者」。これが決して荒唐無稽でなく、圧倒的な面白さで迫ってくるのですから、ビジョルドの力量は恐るべきものです。


無限の境界
『無限の境界』(マイルズ17歳)
「喪の山」「迷宮」「無限の境界」の3つの中篇を、病床のマイルズが順次回想していくという構成でまとめられた中篇集。
「喪の山」(マイルズ20歳)は士官学校卒業直後、『ヴォル・ゲーム』の直前に位置する話で、バラヤーの山奥で起きた嬰児殺しの謎をマイルズが解く、しめやかな逸品。
「迷宮」(マイルズ23歳)は、遺伝子改造を商売にするジャクソン統一惑星の研究室への傭兵艦隊の侵入作戦。『自由軌道』のクァディーが登場します。
「無限の境界」(マイルズ24歳)はセタガンダの捕虜収容所に潜入したマイルズが一万人の大脱走作戦に挑む傑作。『親愛なるクローン』の直前の事件です。


ヴォル・ゲーム
『ヴォル・ゲーム』(マイルズ20歳)
 士官学校を卒業し、宇宙艦隊勤務を希望したマイルズの初の任地は、なんと人里離れた絶海の孤島。問題児の彼に、ここでの任務が無事つとまれば宇宙艦隊に配属してくれるというのですが、彼はここでも事件を起こしてしまいます。やがて宇宙に出たマイルズは、『戦士志願』でかつて自分がでっちあげた、なつかしい傭兵艦隊に再会します。ですが艦隊はすでに他人の手に渡ってしまっており……。


天空の遺産
『天空の遺産』(マイルズ22歳)
 敵星セタガンダ帝国の皇太后が急逝し、マイルズがバラヤー代表として派遣されます。ですが行く先々でトラブルを引きあてる彼のこと、今回も……。遺伝子管理によってセタガンダを支配してきた皇太后は、帝国のゆきづまりを察知し、密かに大きな賭けに出ていたというのです。その死に乗じて銀河を揺るがす陰謀が。〈天空庭園〉という名の後宮に残された美女たちのため、彼は厳命を破って単独行動に。


遺伝子の使命
 シリーズ番外編。傭兵提督マイルズの右腕にして美貌の女性中佐エリ・クインが活躍する長編です。
 物語の舞台は、ネクサス宇宙の中継点となっているクライン・ステーション。この巨大な宇宙ステーションは『ヴォル・ゲーム』でも使われた、シリーズ中の名所です。
 このステーションを一人の男性が訪れます。彼は、なんと男ばかりが人工子宮を使って生殖を繰り返してきた惑星アトスの青年医師イーサン。
 じつは、この男性惑星の歴史を200年間ささえてきた卵子培養基が疲弊してきたため、惑星委員会は新しい培養基を惑星外から取り寄せたのですが、それはアトスに到着する以前に、何者かによって廃物にすりかえられていました。
 このアトスの未来を左右する重大事件を解明し、新しい培養基を購入するべく、イーサンは委員会から特命を受け、ただひとり外宇宙へ派遣されたのですが……。


親愛なるクローン
『親愛なるクローン』(マイルズ24歳)
「無限の境界」事件のあと、マイルズたち傭兵艦隊はセタガンダの追っ手を振りきり、人類の母星、地球へと逃げてきます。ですが、そこでは信じ難い陰謀が……。マイルズそっくりのクローンが密かに育てられ、マイルズと入れ替わるよう準備されていたのです。さらにマイルズはセタガンダのゲム闘士に追われ……。水没した未来のロンドンを舞台にしたアクションも見所です。


ミラー・ダンス
『ミラー・ダンス』上(マイルズ28歳)
『親愛なるクローン』事件から4年後、マイルズのクローン、マークが再び登場します。
 マイルズの留守に乗じて傭兵艦隊に潜入したマークは、特命任務と偽ってやすやすと快速艦一隻とコマンド部隊一個を手に入れ、ジャクソン統一惑星へ向けて侵攻します。
 とはいえ、さすがにマイルズならぬ身、マークは攻略にしくじり、進退きわまってしまいます。急遽あとを追って戦地に赴いたマイルズでしたが、マークたちの救出作戦敢行のさなか、あろうことか敵の砲弾の直撃を受け……マイルズが死んだ!?
 これまでの作品に登場したキャラクターが総出演する、サービス満点の大作です。


メモリー
『メモリー』上(マイルズ30歳)
『ミラー・ダンス』事件での低温蘇生の後遺症による発作に苦しめられるマイルズ。なんと特命任務の遂行中に発作を起こして、人質を死なせかけてしまう。さらに機密保安庁長官イリヤンの完全無欠の記憶チップに異変が生じ……!?
 まったく新しい地位を得たマイルズの活躍。シリーズ最大の転回点!


ミラー衛星衝突 上
『ミラー衛星衝突』上(マイルズ30歳)
 皇帝グレゴールとコマール人女性との結婚を前に、コマールで宇宙事故が。惑星コマールの太陽エネルギーを補っているミラー衛星に操縦不能に陥った貨物船が衝突、七個の衛星のうち三つを破壊してしまったのだ。
 テロリストの仕業だろうか。破壊工作だとしたら、いったいなんのために?
 原因究明のために皇帝直属の聴聞卿であるマイルズは、同僚と共にコマールを訪れ、同僚の姪エカテリンの家に滞在することになった。ところが、地球化事業省に勤める彼女の夫の様子がどうにも不自然なのだ。
 うっかりエカテリンのデータに侵入してしまったマイルズは、彼女の家族がもつ遺伝病の事実を知る。夫の不自然な言動は病気のせいなのか? ユーモアがあり、芯の強いエカテリンに好意を抱き始めるマイルズ。
 だが、そんなマイルズの気持ちをよそに、コマールでは密かに陰謀が進行していた。皇帝の結婚の前に、マイルズは事件を解決できるのか?


任務外作戦 上
『任務外作戦』上(マイルズ31歳)
 皇帝グレゴールの結婚式を前にバラヤーに戻ったマイルズは悩んでいた。コマールで出会った魅力的な女性エカテリンに求婚したい。だが相手は夫を亡くしたばかり、あまりに早すぎるでのはないか。
 とりあえず搦め手から攻めるべく、ヴォルコシガン屋敷の庭園デザインを彼女に依頼することにした。そうすれば打ち合わせと称してしょっちゅう会うことができるし、警戒されることもないだろう。そして彼女が落ち着いたころに結婚を申し込めばいい。
 計画は完璧なはずだった。ところが、従兄弟のイワンに漏らしたのが運の尽き、いつの間にか求婚者たちが彼女の周りをうろつき始めたではないか。

 一方、マイルズのクローン、マークも恋人であるコウデルカ家の四女と共にバラヤーに戻ってきた。虫が体内で作り出す栄養価の高い物質をもとに、虫バター事業を始めようとしていたのだ。だが、肝腎の虫の見栄えの悪さから、評判はいまひとつ。なんとか売り込もうと秘策を練るが……。

 マイルズの求婚計画は順調どころか、散々なありさま。おまけに、ふたつのヴォル一族の相続問題という、政治上の駆け引きに巻き込まれ、マイルズ自身に火の粉が飛んできた。マイルズはこの苦境を乗り切り、愛する人と結婚できるのか? 

 後日譚にあたる「冬の市の贈り物」も収録。ファン必読の作品。 

外交特例
『外交特例』(マイルズ32歳)
 コマールで出会い、波乱の末にようやく結ばれたマイルズとエカテリン。幸せいっぱいの二人は結婚一年の記念日を前に、銀河宇宙へ遅い新婚旅行に出かけていた。
 ところが、そこへ故国からの急使が入る。グラフ・ステーションに停泊していたコマール船籍の商船隊から、護衛を務めるバラヤー艦隊の士官が消えた。脱走か、誘拐か、殺害されたのか? 情報は錯綜し、通商船団は出発できないでいる。皇帝直属の聴聞卿としてその件を調べ、解決して欲しいという、皇帝じきじきの要請だった。
 現場は自由落下空間の作業がしやすいように遺伝子操作され、2本の足の代わりに腕が2本追加された4本腕の人類クァディーたちが小惑星帯に創設した自由居住地。妻をともない、クァディー宇宙に調査に向かうマイルズだったが……。

大尉の盟約
『大尉の盟約』上下(マイルズ、イワン35歳)
 イワン・ヴォルパトリル大尉。生粋のヴォルらしい黒髪にオリーブ色の肌をした、長身のハンサムにして、マイルズの従兄弟。
 コマールで軍務についていたそんなイワンのもとを、少々迷惑な友人の機密保安庁職員バイアリーが訪れた。なんとイワンに女の子を一人ひっかけて欲しいというのだ。女の子なら得意分野だ、とばかり少々強引ながら彼女の家に押しかけたはいいが、そのあと展開がいけなかった。彼女の姉だという女にいきなりスタナーで撃たれて拘束されるわ、誘拐容疑をかけられるわ……。
 そして事情を聞いて彼女たちが追われていることを知ったイワンは、窮地を逃れるため偽装結婚を申し出る。
 イワンが結婚したテユは、商売敵に商館を乗っ取られたジャクソン統一惑星のコードナー大豪の娘だった。花嫁をともない、バラヤーに帰還したイワンを、母アリスやアリスの恋人である元機密保安長官イリヤンはあたたかく迎えてくれた。だが、ほっとしたのも束の間、商館の乗っ取りののち生死不明になっていたテユの家族が、いきなりバラヤーに現れたのだ。もちろんテユは大喜び。しかしイワンは複雑だった。所詮追っ手から逃れるための偽装結婚、家族と出会ったテユがこのまま家族と一緒に去ってしまうかもしれない……。  一方テユの家族は、失った商館を取り戻すために、バラヤーを巻きこむある計画をあたためていた。
 否応なく巻きこまれたイワンの、そしてテユの運命は?

『マイルズの旅路』(マイルズ38歳)
 キボウダイニ惑星の都市の地下に広がる、《クリオポリス》と呼ばれる冷凍死体を保存する施設。その何百万体もの冷凍死体に囲まれて、バラヤーの皇帝直属聴聞卿マイルズは、途方に暮れていた。
 皇帝の命でこの惑星で開催された人体冷凍術会議に参加したものの、反乱分子らしき連中に拉致されてしまったのだ。なんとか拉致犯の手からは逃れたものの、街の下に広がる冷凍保存施設のなかで迷ったうえに、犯人たちに投与された鎮静剤のやっかいな副作用のせいで幻覚まで見えはじめた。
 偶然出会った少年、ジン(幻覚のせいで蜥蜴に見えたのだが……)に助けられ、ジンが動物たちを飼っている秘密の隠れ家に保護された。
 そこでマイルズが知ったのは、ジンの母親が何らかの陰謀で強制的に冷凍死体にされてしまったらしいことだった。
 この惑星でいったい何が起きているのだろうか? 事情を解明しようと決心したマイルズは、とりあえずジンをバラヤー領事館に使いに出す。
 
 死体の冷凍保存と蘇生をめぐる入り組んだ陰謀に、マイルズはどう立ち向かうのか。
 大人気のヴォルコシガン・シリーズついにクライマックス。


ロイス・マクマスター・ビジョルド Lois McMaster Bujold
1949年生まれ。1986年にデビューしたのち、わずか数年でヒューゴー賞、ネビュラ賞を次々と受賞、一躍その地位を確固たるものとする。身体的ハンデをものともせず、知略と大胆さで窮地に挑むマイルズ・ヴォルコシガンが人気を博し、SFならではの物語性を満喫させてくれる女流作家として、世界中で愛されている。
(2005年4月11日/2014年3月5日)




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