(三)『あなたもUFOに乗ったでしょ!!』&『亜空間オレンジ帯の夏 覇王伝説』

『あなたもUFOに乗ったでしょ!!』
本書をいつどこで手に入れたかは、よく覚えている。ウチの近くには深夜までやっている古本屋チェーンがあったのだが(もうない)そこで買ったのだ。しかも会社勤めをやめて専業作家になったばかり、普通の古本屋はもうやっていないような年の暮れに見つけたのだ。忘れようもない。
ジュニア小説(今ならライトノベル)っぽい装丁の新書だったのだが、ふと手に取ってみると著者紹介はなんだかよく判らないし、著者近影もふつうのオバチャン。ためつすがめつしているうちにどうやらSF奇書らしいと気付いたのである。
主人公はコハヤ・カオルという高三女子。小学校の校庭に降り立っていたUFOに入り込んだところ、飛び立ってしまう。UFOに乗っていたのは、「陰太陽タタバラ」から来たリオとアルだった。人間が住んでいる「陰太陽」ってどんな天体やねん、と思うけれども、最後まで不明。タタバラへは、一万五千年前に地球から人類が移住したのだという。
やがて、地球は五千年おきに崩壊活動を起こしており、次の崩壊まで二十年ほどだということが明らかになる。リオとアルが五千人の地球人を選んで救出し、崩壊後に地球へ戻す「Uヒムノ計画」を進めていることを知り、カオルは反発する。
UFOはタタバラへ到着。カオルは、自分が地球の救い主たる超能力者だと知らされる。そしてカオルは、タタバラで超能力修業した後、地球へ帰るのだった……。
全体的に話が分かりにくく、読み進んでも「あれはどうなったの?」となってしまう。
作者の小林美穂子は、様々な団体に所属している人物。ネット上の情報によると、民主党員として相模原市議選に出馬したこともあるようだ(落選したけど)。
表紙を書いているのは、マンガ家でジュニア小説の装丁画なども描いている、服部あゆみ。SFファンには有名だよね。どうしてこのような本の絵を描くことになったのか、是非とも知りたいところである。

『亜空間オレンジ帯の夏 覇王伝説』
表紙が気になったのも、『あなたも…』と似ているためだと分かった。これはもしかして、改訂・改題版なのだろうか? しかし記述されている粗筋は違うようだ。これは確認せねばなるまい。ということで、即注文。
届いた本を早速開いたところ、やはり「小林みほ子」=「小林美穂子」だった。しかし、内容は全く別物だった。新作も書いていたのだ!
今回も、主人公の少女は「カオル」だ。田谷カオルは、神奈川県湘南市に住む小学六年生。……ちなみに「湘南市」というのは平塚市や藤沢市など六市町の合併により誕生する構想があったが、最終的には合併にまで至らなかったため、少なくとも今のところは実在しない地名である。
カオルの部屋の窓の外には祠があり、そこには時々謎のトンネルが開いた。ある日、そこからカオルそっくりの少女「田山イズミ」が現われた。カオルは、イズミと一緒にトンネルをくぐってしまうが、それはすぐに閉じて帰れなくなってしまった。
トンネルの向こうにあったのは「亜空間オレンジ帯」だった。ちょっとよく分からないのだけど、それはどうやら地底にあるらしい(二つの人工太陽がある)。“時空を超えて”という描写もあるので、未来の世界なのかもしれない。「亜空間で地底世界で未来世界」のようだ。贅沢な。
オレンジ帯には、首長国たる「法皇国」と、「オレンジ帝国」「グリーン帝国」「グレーン帝国」「ゴールド帝国」から成る連邦があった。イズミは、オレンジ帝国の国王の娘だった。そしてカオルは実はイズミと双子らしい(つまり彼女も国王の娘であるらしい)と判明し、伝説の「覇王」ではないか、と取り沙汰された。その覇王が現われると、世の中は乱れるという伝説があったのだ。
その情報が知れ渡り、グレーン帝国のリュウ王子はカオルを妻にしようと画策した。誘拐騒ぎまで起こり、イズミの兄であるガイは、カオルを地上に戻すため、自分の発明を使用する決心する。それは「時ガラス」というものだった。――時ガラスっていう名前を聞くと、ボブ・ショウの『去りにし日々、今ひとたびの幻』に出て来る「スローガラス」を想起してしまうけれども、全く違うものだった。それは一人乗りの「タイムカプセル」だという。いやいや、それも違うよ……。タイムカプセルは地中に埋めるもので、時空を超える乗り物じゃないよ……。
かくしてカオルは地上に戻るけれども、亜空間での記憶は失っていた。その後、オレンジ帯で反乱が起こる。そしてまた、カオルがやって来ることになるのだった……。
うーん、やはり全体的に話が分かりにくいのは相変わらずだった。異世界のイメージも微妙。オレンジ帯には自動車も電車もないのだが、移動手段として用いられるのは空飛ぶ小船なのだ。船の側面には小さな風船が付いており、それが膨らんだり潰れたりして空を飛ぶのだというが……ううむ……。
しかし何より問題となるのは、表紙。描かれている少女のポーズ(右手の人差し指を口に当て、左手でスカートを掴んでいる)は、『あなたも…』とほぼ一緒。しかしタッチはちょっと違う。どうやら作者本人が描いたものらしい(カバー袖には「カバーデザイン・松本菜央(Ladybird)」とだけ表記)。それってどうなんだろう。服部あゆみにはちゃんと断っているのだろうか……。
巻末の著者紹介を読むと、『超古代探検ツアー(上・中・下)』(でじたる書房/二〇〇六―七年)という電子書籍も出しているようだ。そちらを検索してみたところ、作者名は「小林ひつじ」となっているので、このペンネームも使っているのだろう。ええと、もし紙版が出たら、買う、かもしれません。
略歴の中には、民主党に関することは一切書かれていなかった。脱党したのかしら……。
(四)二十一世紀のSF奇書
さて、『…覇王伝説』もそうだが、二十一世紀に入ってからもSF奇書はどしどし出版されている。

『時よ! 永遠に』
だが自費出版SFはあまたあれど、この作者は特別。「宇宙塵」同人で、日本推理作家協会員でもあるのだ。古くからのSFファンには、伝説の「宇宙鹿」を作った一員でもある、と言えば分かって頂けるだろう。「宇宙塵」掲載作の「あわ」は、『日本SF・原点への招待 「宇宙塵」傑作選1』
合本版では、加納一朗氏が解説を書いている。「宇宙塵」時代からの付き合い、ということなのだろう。

『2027 ボヤボヤしてたら、すぐやってくる。2027年のお話。』
巻末の「20年後のあれこれに関するコラム」には様々な作家が参加している。そのメンツも、乙一、海猫沢めろん、根本敬、近代ナリコ、定金伸治など、超豪華。
編者の古屋蔵人は『映像作家100人 2011』
かように、SF奇書はまだまだ世に出続けている。埋もれているものも、たくさんあるだろう。本連載は今回にて終了しますが、またいつか機会を改めてSF奇書を取り上げていきたいと思っております。――それでは、その時に。
■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
SF小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社