本シリーズはきちんと「成人向」と表示され、巻頭には「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・国家等とはいっさい関係ありません。/また、作中で行なわれるいかなる犯罪行為も、作者は現実世界において容認する意思はまったくないことを明言いたします。」という一文が掲げられている。
美少女、「固め」、アクションなどなど、作者の好きなものを好きなように書いているなあ、という印象。実際、成人向けと銘打ってはいるものの、ポルノというよりもエロティックなアクション小説という趣だ。清水正二郎(後の胡桃沢耕史)がイヤーン・フランミンゴ名義で発表した
《P07シリーズ》と読後感が似てるな、とわたしは思ったのだが……怒らないでくださいね、山本さん。
山本氏はコミケに出展する際は自らブースに立つだけでなく、お嬢さんも売り子として参加しているとのことだが、成人向けの《チャリス・イン・ハザード》を売る際は、未成年のお嬢さんには売り子をさせない、という配慮もしておられるとか。
『みづき・ふりーだむ!』
山本弘氏は、《チャリス》シリーズの他にも文庫サイズの同人出版物を出している。まずは
『みづき・ふりーだむ!』(二〇〇九年)。これは山本氏の令嬢のキテレツな実体験に基づく(但し完全なノンフィクションではない)「字で読む学園4コマ」。はてどういうことかと読んでみると、活字を追っているのに、確かに頭の中では4コマ漫画が再生されるではないか。
私立の中学校に通う少女・山本みづきと、彼女を巡る人々が織り成すギャグ物語集で、みづきの父親としてSF作家「山本ひろし」も登場します。
『生徒会の百式』
『生徒会の百式』(二〇〇九年)は、学園系・空気系ライトノベル
『生徒会の一存』(葵せきな)の二次創作小説。しかし書いているのが山本氏だけに、単なるパロディには終わっていない。全三話が収録されているのだが、第一話「~全裸になる生徒会~」は『生徒会の一存』DVD化に当たって、どんな特典を付けるかを登場人物たちが侃侃諤諤と検討する話。
第二話「~SFする生徒会~」では、『生徒会の一存』がSFだったら、を登場人物たちが話し合う。古典SFネタから怪獣うんぬんの自作ネタまでてんこ盛り。
そして第三話「~同人する生徒会~」は、コミケのブース申し込みが当選し、どんな同人誌を作るかを生徒会面々が議論する話。以上のように、濃いネタがこれでもかと詰め込まれているのだ。
また山本氏は二〇一二年の夏コミで『ファイナル・オーバーヒート〈下〉』を落としたために、代わりに
『オタクのグルメ』という
『孤独のグルメ』
パロディ本を出したらしい(実体験を小説風に書いたものらしい)のだが、これも文庫形態とのこと。現物未確認だが、これも是非入手したい。山本さん、よろしくお願い致します。
「心はいつも15才」発行の文庫本サイズ同人誌には、ひとつだけ残念な点がある。それは「○○文庫」という名称が付されていないこと。文庫コレクターにとっては、結構重要なポイントなんです。
山本氏は、文庫サイズではない同人誌も出しているので、それらについても触れておこう。
『僕らを育てたSFのすごい人 柴野拓美インタビュー』
『僕らを育てたSFのすごい人 柴野拓美インタビュー』(アンド・ナウの会/二〇〇九年)は、「心はいつも15才」発行ではない同人誌。内容はというと、SFファンダムの父・柴野拓美氏に、山本弘氏が行なったインタビューをまとめたもの。柴野氏の戦争体験に始まって、いかにしてSFを読むようになったかや、
〈宇宙塵〉を始めたきっかけ、他のSF作家たちとの交流、SF大会スタートの経緯などが語られる。……「チャリス」は万人にオススメとは言い難いかもしれないが、こちらはSFファン全員に絶対的にオススメ。とにかく凄い資料です。
「アンド・ナウの会」というのは、「と学会」から派生したグループ(内部グループ?)らしい。同会発行の本はアマゾンで扱っており、本書もアマゾン経由で入手可能なので、是非。
『シャナナのひみつ』
『シャナナのひみつ』(二〇一〇年)は、山本弘・原作、玉越博幸・作画で、〈コミックバンチ〉誌に連載されていたマンガ
『魔境のシャナナ』
の設定資料集である。これはいわゆるひとつの「女ターザン物」。毛皮ビキニ姿の美少女が魔境で大冒険を繰り広げる、これまた山本氏の趣味全開の設定&ストーリー。
マンガが途中で打ち切りになってしまったため、使用されなかったシナリオまで収録されている。未使用シナリオのひとつ「瓶詰めのシャナナ」はガタノソア(またはガタノトーア)が登場するではないか。おお、クトゥルー物だ!
かような具合に、資料性高し。文庫サイズで再刊されたら、そっちも買ってしまいそう。
『プラモ狂四郎を10倍楽しむ本』
続いては山本弘編
『プラモ狂四郎を10倍楽しむ本』(二〇〇〇年)。一九八〇年代、ガンプラ・ブームの頃に講談社の〈コミックボンボン〉誌に連載されて大人気を博した
『プラモ狂四郎』
(やまと虹一)というプラモデルマンガがあった。これはただプラモを作るだけでなく、シミュレーションマシンによってそのプラモに乗り込み、戦闘を疑似体験するという設定による物語だった。『…10倍楽しむ本』は、そんなマンガにツッコミを入れつつ楽しもう、という趣向なのである。自分も当時読んだことがあるマンガだったので、十分に楽しめました。
『AXEL全開!』
『AXEL全開!』(二〇〇五年)は、1990年代に日米合作で製作されるはずだったけれども、最終的には頓挫してしまったSFヒーロー特撮番組『Speed Fighter』のシナリオ本。これは會川昇氏がシリーズ構成を担当し、脚本家のひとりとして山本弘氏が参加することになっていたもの。山本氏はこの作品の設定にほれ込み、プロットのみならずシナリオまでどんどん書いていたのだが、結局企画自体が流れてしまった。その「幻のシナリオ」を一冊にまとめたのが、本書なのである。……これまた文庫判が出たら、そっちも買います。
『MADなボクたち 2011SUMMER』
山本弘編
『MADなボクたち 2011SUMMER』及びその続篇
『MADなボクたち 2011WINTER』(二〇一一年)は、ニコニコ動画やYoutube上のMAD画像(既存の動画や音声を加工したりして新たな作品に仕上げたもの)の傑作を紹介した本。これはあくまでガイド本なので、これを参照しつつ取り上げられているMADを実際に鑑賞するのが正しい読み方でしょう。わたしもここで賞賛されている『仮面ライダー緑』など観てみました。確かに面白い。
『MADなボクたち 2011WINTER』
山本氏の同人誌活動歴は長く、ここに紹介した以外にも同人誌を出している。もちろん、これからも出していくだろう。わたしは、少なくとも文庫本サイズのものはコンプリートしたいなあ、と考えている。
山本氏は、商業出版ではやれないようなことを同人誌でやっている、と明言している。なので、普通の本では読めない山本弘作品に、同人誌では触れることができるのだ。コミケに参加されるような方は、是非とも山本氏のブースをチェックしてみて頂きたい。
■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集
『首吊少女亭』
(出版芸術社)ほか、古本エッセイに
『シャーロック・ホームズ万華鏡』
『古本買いまくり漫遊記』
(以上、本の雑誌社)、
『新刊!古本文庫』
『奇天烈!古本漂流記』
(以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に
『SF万国博覧会』
(青弓社)がある。主な訳書に、ドイル
『まだらの紐』『北極星号の船長』『クルンバーの謎』(共編・共訳、以上、創元推理文庫)、ミルン他
『シャーロック・ホームズの栄冠』
(論創社)ほか多数。
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
SF小説の月刊ウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社