リチャード・マシスン『縮みゆく人間』の、町全体バージョンというわけである。本作の特色は、架空の土地を作らずに、あえて「和歌山県新宮市」という実在の土地を舞台としたところ。おかげで立派な“和歌山SF”となっているのだ。これはあとがきによると、作者が新宮市で少年時代を過ごしたことがあったからだった。
 しかしミクロ化による様々な影響で、忘れられている(もしくは意図的に触れられずにいる)要素があるように思える。例えば「風」の影響。巨大な雨粒でパニックになるシーンは描かれているが、それ以前に、ちょっと強い風が吹けばミクロ化した人々は簡単に吹き飛ばされてしまうはずではないか。
 また、外部の世界の人々の、新宮市に対するアプローチがあまりに少ないことも気になった。最初に飛行機で上空から新宮市を探している描写はあるのだが、直接足を踏み入れたのは沢村君&妹だけ。そんなことがあるだろうか。
 外の世界の人々にとっては、ある日突然新宮市が消えてしまったという認識なわけで、それならばまず爆発などを疑うだろうから放射線の計測などは行なうにしても、安全が確認されたら何か残っていないか絶対に探しに来るはずだ。公的機関にしても、新宮市に親類や家族がいる一般人にしても。
 しかしそうしたら巨大な人々(もしくはその移動手段たる車両)によってミクロ化した新宮市は踏み潰されていたに違いない。それを避けるために(ストーリー展開上)外部から人々がやって来ないことにしたのだろうが、そこはこじつけでいいから何かしらの理由付けをして欲しかった。
 終盤、部分的ながらも外部の世界と連絡が取れるようになり、踏み潰してはいけないから絶対に新宮市に入ってはいけない、ということになるのだが、それはミクロ化より一年を経てからのこと。街がまるごと消えて、一年間もそのまま放置しておくものだろうか。土地が出来たからとさっさと新たな開発を始めるというのはないとしても、徹底的な調査は行なうはずだ。やはりそこはもう一工夫が必要でしたな。また、その部分が描かれないため、新宮市民と巨大人間との対比が行なわれるのは(沢村君&妹との)一度だけなのである。笛地静恵さん、残念でした。
 基本的には(発表時点での)現代を舞台にしていると思っていたのだが(月日は出て来るが、年は出てこないのだ)、「月世界の観測基地」という記述が一度だけ出て来たので、おやっと思った。もしかしたら月面に基地が出来ている未来が舞台なのかもしれない。新宮空港の存在も、それならばつじつまが合う。

 作者の原周作は一九二六年、大阪生まれ。少年時代(の一部)を新宮で過ごす。大阪府立大学卒で、専攻は造園学(都市計画)。卒業後、大阪府農業試験場、大阪府農林技術センターに職を置く。『小さくなった町』刊行時点では栽培部の主任研究員だった。一九八五年の定年退職後、技術士(施設園芸コンサルタント)業務を開始。社団法人・日本鉄道技術協会(JREA)会員。著書に『都市交通の躍進を考える――2層立体化の秘策』(技報堂出版/二〇〇三年)がある。「日本都市学会年報 十八号」(日本都市学会/一九八五年)にも「阪和線の二層高架による関西新空港への新幹線の乗入れ」という論文が載っているらしい。本当に技術系の人なんですな。

 挿画家は、池田龍雄。一九二八年、佐賀生まれ。「戦後アヴァンギャルド」画家のひとり。本の装丁や挿画に多く携わっており、SF系も多い。あかね書房「少年少女世界SF文学全集」のベリャーエフ『両棲人間』(一九七一年)、学習研究社「少年少女ベルヌ科学名作」の『地底の探検』(一九六九年)、オーケ・ホルムベリイ/眉村卓・文『私立探偵スベントン ストックホルムのひまなし探偵』(講談社/一九七三年)など枚挙に暇がない。
両棲人間
『両棲人間』
地底の探検
『地底の探検』
ストックホルムのひまなし探偵
『ストックホルムのひまなし探偵』扉絵

 本作を含む「新しい日本の童話シリーズ」(一九六八~七五年)は、全部で二十巻。動物文学の大御所・椋鳩十の『チビザル兄弟』(一九六九年)から、後に「ズッコケ三人組」で大ブレイクする那須正幹のデビュー作『首なし地ぞうの宝』(一九七二年)まで、バラエティに富んでいる。
 要するにSF専門の叢書というわけではなかったので、SFファンからも見逃されがちだったようだ。そこをきっちりチェックしていた石原藤夫氏はやっぱりスゴイ。
 わたしにしても『小さくなった町』の刊行は一九七七年なので、中学生でSFを読み始めたばかり、という頃。児童書コーナーは見なくなっていた時期なので、出ていることにも気が付かなかった。

 ちなみに原周作の経歴で、確認しきれなかった部分がある。『小さくなった町』の著者紹介には「学研児童文学賞三回入賞」とあるが、他に小説の単行本は見当たらなかったのだ。入賞はしたけれど単行本化はされなかったのか。同賞に関するデータを見つけられなかったので、詳細不明なのだ。
 しかし、「WEB本の雑誌」に寄せられたという読者の相談によると、その方は『小さくなった町』を学習研究社の雑誌「科学」か「学習」で読んだという。つまり本作は、雑誌で連載された上で単行本にまとめられたらしいのだ。その方の証言で大体の年代は分かるものの、学年は不明。
 とすると、原周作の��学研児童文学賞入賞作�≠焉A学習研究社の雑誌には掲載されている、という可能性が出てきた。小説家・原周作の全貌を調査するには、学習研究社の雑誌をたんねんにチェックせねばなるまい。……もう少し、手間と時間がかかりそうだ。
(2012年2月6日)

北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』 (出版芸術社)ほか、古本エッセイに『シャーロック・ホームズ万華鏡』 『古本買いまくり漫遊記』 (以上、本の雑誌社)、『新刊!古本文庫』 『奇天烈!古本漂流記』 (以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に『SF万国博覧会』 (青弓社)がある。主な訳書に、ドイル『まだらの紐』『北極星号の船長』『クルンバーの謎』(共編・共訳、以上、創元推理文庫)、ミルン他『シャーロック・ホームズの栄冠』 (論創社)ほか多数。

北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。


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