『日本子ども遊撃隊』
国土社「創作子どもSF全集」の『日本子ども遊撃隊』(一九六九年)は、日本を守る「日本子ども遊撃隊」に入隊した宙太くんの物語。
『自由くんの
宇宙せんそう』
宇宙せんそう』
岩崎書店「あたらしいSF童話」の『自由くんの宇宙せんそう』(一九八五年)は、
『《現代のぐうわ》
きみょうなおくりもの』
きみょうなおくりもの』
北川幸比古はSF作品を書くだけでなく、ジュヴナイルSFのアンソロジー『《現代のぐうわ》きみょうなおくりもの』(文研出版/一九七四年)も編纂している。
第十一巻は『星からきたカード』(大川悦生)。
『星からきたカード』
ふたりがユリの家に行こうとすると、道に迷ったあげく、見知らぬ街に出てしまう。しかも、どうやら昔の世界らしい。後に判明する結果から言うと、これは原爆が投下される少し前(つまり一九四五年の)広島だったのだ。
すぐに現代に戻ったふたりだったが、また別な機会には、別な場所へと迷い込む。今度は、一九四五年の長崎だった。
これを契機に、ふたりは原爆のことを調べ始める。そして広和は広島の、ユリは長崎の被爆者の孫であることを知る。……以降は、SF的展開がしばらくなかったりします。
カードは時空間を移動するためのアイテムかと思いきや、そうとは限らなかった。(正確にはカードの存在ゆえか否かは不明だが)遠方で亡くなったばかりの広和の祖父が現われたり、第五副竜丸がふたりを乗せて飛行したりするのだ。
結局、最後までこのカードは何だったのか、ふたりにそれを与えたのは誰だったのかは、はっきりとは示されない。最後の方で、星になった原爆被害者がくれたのだ、と広和が考える(これがタイトルの由来である)が、根拠は何もない。要は、主人公たちに過去の広島や長崎に行かさせたり、超常的な体験をさせるため、ふたりに(ひいては読者に)「核兵器とは」と考えさせるために便宜的に登場させられたアイテムだ。あくまで「便利だから」SFにしたわけで、わたくし個人としてはあまり肌が合わない構造の作品です。まあ、「原爆児童文学集」なのだから、しょうがないといえばしょうがないんですけどね。
作者の大川悦生(一九三〇~九八年)は民話系の作品の多い児童文学者。一方で『おかあさんの木』など戦争を題材にした作品も書いており、『長崎にいた小人のフランツ』なども原爆テーマだ。「原爆児童文学集」への作品を依頼されても不思議はない作家である。とはいえ、他にSF系らしき作品は見当たらないところをみると、SFを書くのは不慣れだったのかもしれない。それならば、“SF性”の扱い方に難ありだったのも無理はなかろう。
『魔法のぶた』
舞台は、核戦争が起こってから三百年以上が経過しているという世界。核戦争の際に数万発の核爆弾が爆発し、散乱した放射性物質が世界中を取り巻いて、大半の生物が死滅した。
都市ユートは、周囲を取り巻いているW22という砂漠と、高速の気流のおかげで、なんとか生き延びた。砂漠の気流が乱れるとエアポケットができ、そこから放射能が入り込んでくる。そこでひとり用のプラスチックカプセル(空中を浮遊して移動する)に乗って一年間の旅をして、エアポケットを見つけては特別な銃で撃つのが少年たちの仕事となっていた。
主人公のA3は、五つのカプセルのリーダーだった。このA3が自分でつけたニックネームが〈魔法のぶた〉だった。
カプセルの端末は、都市ユートの大型コンピューターとつながっており、またホログラフィの立体テレビは仲間の少年との連絡や娯楽に利用された。
ある時、仲間を映していた画面のひとつが、見たこともない風景を映しはじめた。コンピューターに故障を知らせても[コショウ ナシ]と答えてくる。
その画像は、トラックに乗った少年と父親のやりとりを映したものだった。その場所は「ヨコタ基地」だというから、東京の多摩地区にある「横田基地」のことらしい。
その後も、時々その画像が映るようになる。画像中の父親は、自らの戦争体験を息子に語る。彼は広島の原爆を経験した被爆者だった。
コンピューターがおかしくなっていることに気づいた〈魔法のぶた〉たちは、手動で都市ユートへと戻る決意をする。彼らの前に待っていた結末とは……。
実はわたし、これは地球の未来の姿だと思い込んでいたが、細部に注意するとどうやら異星のようだ。アンテナが古い音楽をとらえるというシーンでは「むかーしむかし、とおい星から電波でやってきた、ロックとかいううるさい歌だった」という表現があるし、この世界のことを「ユート星」と呼んでいるところがあったのだ。
「過去の地球」パートと「未来のユート星」パートのつながりがやや希薄な感はあるが、ユート星パートにおける想像力の豊かさは見事なもの。ヴィジョンといいネーミングの言語感覚といい、実に素晴らしい。文句なしに、本叢書で最もよくできたSFだ(と、わたしは思います)。
作者の司修(一九三六年~)は画家だが装丁画家としてもよく知られ、挿画・装画は数多い。SF系だと、講談社版のバローズ「火星シリーズ」(一九六七年)や、偕成社版「ベルヌ名作全集」(一九六八~六九年)の一部、偕成社「世界のこどもエスエフ」のアレクサンダー・ケイ『わんぱくロボット』(一九六九年)、集英社「ジュニア版世界のSF」のスタニスワフ・レム『ヨン博士の航星日記』(一九七〇年)などなど。また幻想文学系では、中井英夫の装丁画を描いたことでも有名。そういったこともあってか本書は「原爆児童文学集」中においても特にコレクターズ・アイテムとなっている模様。本作を発表した頃はまだ司修の小説作品は少なかったが、近年は小説家としての活動の比重が増えてきているようだ。『青猫』 (東京書籍/一九八五年)などは、幻想小説の部類である。
挿画家は、作者本人。まあ、この場合当然でしょう。
……というところで、本叢書は紹介する冊数が多いので、次回へと続けさせて頂きます。乞う御容赦。
(2011年6月6日)
■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』 (出版芸術社)ほか、古本エッセイに『シャーロック・ホームズ万華鏡』 『古本買いまくり漫遊記』 (以上、本の雑誌社)、『新刊!古本文庫』 『奇天烈!古本漂流記』 (以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に『SF万国博覧会』 (青弓社)がある。主な訳書に、ドイル『まだらの紐』『北極星号の船長』『クルンバーの謎』(共編・共訳、以上、創元推理文庫)、ミルン他『シャーロック・ホームズの栄冠』 (論創社)ほか多数。
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
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