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全体的に、SF的な部分よりも自動車がなくなった世界に生きる市井の人々を描くのが主眼となっている。姉さん女房の話「へら」などがいい例だろう。イラストも彼らの姿ばかりが描かれており、SFっぽいものはほぼ皆無。
我が国では一九七〇年代前半、光化学スモッグをはじめ自動車排出ガスによる公害が問題となっていた。そして排出ガスを規制する法律が進められていたのが七〇年代半ば。本書は、そういう時期に書かれたもの。作品のあちこちに散りばめられた作者の本音を読み取ると「自動車は便利なんだから、少しぐらいマイナス面があってもいいじゃないか」というもののようだ。だから「自動車がなくなるとこんなに不便になるぞよ」という側面が、これでもかと強調される。
作者の土岐雄三(一九〇七―八九)は、銀行家を経て執筆活動に入った作家。ユーモア小説を得意とし、『カミさんと私』
一方で〈新青年〉〈LOCK〉〈宝石〉など、探偵小説系の雑誌にも作品を発表。日本推理作家協会の会員ではなかったが、その前身である探偵作家クラブには所属していたらしい。ミステリのアンソロジーでは鮎川哲也編『猫のミステリー傑作選』
ヤケクソになって検索していたら、ちょうど第一話を掲載した号をネット古書店で発見。今度は愛知県の古本屋だ。ああ素晴しき(以下略)。これはもう買うしかない、と注文。無事に入手し、読み始めてみると……なんてこった。リライトどころか、これ、全くのオリジナルだよ!
主人公は、速雄少年と妹の葉子。新聞社員の荘三おじさんから、有名な博士が透明になる薬を発明したという話を聞く。荘三おじさんが博士の住む屋敷へ取材に行くというので、兄妹は助手として連れて行ってもらうことになった。屋敷の扉は、中からひとりでに開く。中へ入ると、人はいないのに足音が聞こえる。
また、土岐雄三は他にも少年少女向け雑誌に色々と執筆している模様なので、これ以外にもSF系作品があるかもしれない。
一旦『車のない街』
装画及びイラストを描いているのは、岡部冬彦(一九二二―二〇〇五)。ナンセンス漫画『アッちゃん』
絵本のイラストも描いており、《岩波のこどもの本》の『ちびくろ・さんぼ』
ある日、作者はノートを拾った。それは地球そっくりの星・もうひとつの地球に住むオカベフユヒコのものだった。オカベフユヒコはやっぱりマンガ家なのだが、火星生命体の親玉の取材に行くことになった。ロケットで宇宙旅行し、火星に到着。火星人は地下に都市を築き、熱核反応炉を持つほどまで科学文明を発達させていたが、炉の事故が原因で衰退し、今では滅び去っていた。火星人は大きな昆虫を人口淘汰し、労働作業を行わせていたのだが、それらが生き残って都市の整備を続けていた……。科学者に取材して書かれたものなので、火星上の描写や昆虫に関する考察などが案外としっかりしている(「もうひとつの地球」がどこにあるのかという問題は別として)。
この時期(一九五六年)にどうしてこんな特集が組まれたかというと、火星が地球に大接近して話題になった年だったのです。特集には六人の科学者が協力しており、ロケット工学の糸川英夫や、宇宙旅行研究の原田三夫らが名を連ねている。
岡部冬彦の代表作となるマンガは家庭や日常生活に密着したネタがメインだけに、このような作品を書いていたのは意外に感じられるが、よく考えてみれば彼はマンガ家やイラストレーターとしてだけでなく、科学ジャーナリストとしても活躍していたのだ。特に飛行機や鉄道が大好きで、『国鉄ものがたり』(東京堂出版/一九七四年)、『岡部冬彦のヒコーキばんざい』
もしほかにも岡部冬彦SF(もしくは岡部冬彦がイラストを描いたSF)があるようでしたら、是非教えて下さいね、水玉さん。
さあて、それじゃあ『SF図書解説総目録』をまたゆっくりと眺めることにするかな。
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●北原尚彦「SF奇書天外REACT」の連載記事を読む。
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■ 北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』
●北原尚彦『SF奇書天外』の「はしがき」を読む。
SF小説の専門出版社|東京創元社




