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 本書の作者は、三石巌(1901‐1997)。東京出身で、東京大学卒(大学院も)。慶応大学や津田塾大学の教授を歴任した、自然科学全般に造詣の深い教育者。戦前から、科学解説書を多数書いている。中には子ども向けの科学入門書もあるし、教科書にも執筆しているので、そうとは知らず三石巌の文章に触れていた方もきっと多いだろう。
 かくいうわたしの場合は、ファラデー『ロウソクの科学』(角川文庫/1962年)の訳者として、その文章を読んでいた(中学生の頃だったかな)。当時は、SFやミステリ関係以外で訳者名なんて気にしていなかったので、今回本稿を執筆するにあたってようやく気が付いた次第、ではありますが。
 版元の広島図書株式会社は、戦後すぐに児童向け雑誌「ぎんのすず」を発行して大人気を博した、その名のごとく広島にあった出版社。『二十一世紀の秘密』は「銀の鈴文庫」という叢書の1冊として刊行されたもの。同叢書は「一、童話・名作篇」「二、伝記・創作篇」「三、社会・科学篇」「四、学習篇」に分類されており、本書は「二」に属する。富塚清『発明発見物語』、中屋健一『アメリカの歴史』など教育的なタイトルが多いが、城昌幸『古城の秘密』はマニアも垂涎の1冊だろう。
少年小説大系
『空想科学小説集』
 『二十一世紀の秘密』は、1986年に『少年小説大系 第8巻 空想科学小説集』(三一書房)に再録されているので、読もうと思えば比較的手に取り易い(でもこの全集が出たのもついこの間のような気がしていましたが、もう四半世紀近く経っていたんですね)。
 そして色々と三石巌について調べていたところ、なんとも意外な事実が判明した。まず最初に、1982年から91年にかけて現代書林から「三石巌全業績」という叢書が出ていることに気が付いたのである。むむっ、「全」ということは、もしかすると……と各巻タイトルを国会図書館の蔵書をネットで検索してみると、24巻(1989年)が『童話集 科学する目、科学するこころ』という副題ではないか。幸いにして近所の図書館の書庫に蔵されていることが確認できたので、貸し出してみると。
 ビンゴ! 予想していた通り『二十一世紀の秘密』が収録されていたのである。しかもそれ以外にも科学童話が入っているぞ。これは是が非でも自分の蔵書に加えたい。生憎と既に絶版となっていたけれども、ネット上で定価より僅かに安い値段で発見。かくして早速注文・入手したという次第。
 送られてきた本は、見返しに何やら書き込みがあった。ちょっと残念、とは思ったものの、よくよく見ると「三石巌」というサインのようにも読める。図書館の本にはなかったから、印刷ということもない。もしかして直筆署名本?
 第1部「めぇるひぇん」は、これが単行本初収録となる短篇4作。これらだけ科学を主題としておらず、社会風刺的な寓話集だ。
 第2部「ミケ先生の冒険」は、1947年に星書房から刊行された『科学イソップ』を改題した科学童話の連作短篇集。ミケは三郎少年の飼い猫。「ぼくはミケ先生」では、猫の瞳が明るさによって変化することや、猫が落下する時にどうして必ず足から降りられるかなどを、ミケが三郎に語って聞かせる。この世界では、動物たちも口をきけるのだ。その他、コオロギの鳴き声について解説する「コロ助のバイオリン」など、全4篇。
 第3部「ふたつのとびら」は、わざと著者名なしで刊行された『トリスタイン童話集』(ジープ社/1951年)を改題した科学ファンタジイ。母親が死に際に残した「あおいとりのおじさんにあいにおいき」という言葉に従って、チルチルとミチルは旅を始める。「ガラスがくもるのはどんな時か」などの科学知識によって事態を解決し、先へ先へと進んでいく。知識啓蒙を目的としているため、最後に目的地に到達はするけれど、その必然性などは問われない。
 そして第4部が「二十一世紀の秘密」となっている。はっきり「SF」だと宣言できるのは第4部だけだったけれども、元本3冊分+αを収録している上に、いずれも入手困難なものばかりなので、本書全体としての価値は極めて高いと言えよう。
 ただ、『二十一世紀の秘密』元本におけるイラストは「少年小説大系」版でも「三石巌全業績」版でも再録されていないので、当時のテイストそのままに味わいたい、という方は元本でお読み頂くしかない。
宇宙飛行士京平くん
『宇宙飛行士京平くん』
 さて、三石巌はこの他にもSFを書いている。「ポプラ社の少年文庫」という児童向け叢書の第二巻として刊行された『宇宙飛行士京平くん』(1970年)で、「三石巌全業績」にも未収録だ。また本作が入っている叢書がジュヴナイルSFのシリーズというわけではなかったので、SFファンからも見逃されがちだ。
 本作は宇宙旅行の基礎を中心に、ロケットの歴史や重力の原理などについて解説した、これまた啓蒙系の科学小説。
 宇宙ステーションや月面基地が既に完成している、近未来が舞台。但しそれ以外には特に社会構造や科学技術が変化している様子のない、現代(発表当時の1970年という現代)と地続きの世界だ。
 最初は、主人公の京平少年が花火見物をしながら、叔父の春田三夫からロケットの歴史についてレクチャーを受ける。ツィオルコフスキーやフォン・ブラウンはもちろん、ジュール・ヴェルヌまで。
 ちなみに"春田三夫"というのは、どう考えても実在の人物"原田三夫"のもじりだろう。原田三夫は「子供の科学」や「科学知識」を創刊した科学ジャーナリストで、日本宇宙旅行協会を設立した人物。宇宙旅行を解説した著作も多く、中にはSF仕立てのものもある。完全に余談になりますが、息子は漫画『ロボット三等兵』の前谷惟光。えー、つまり春田三夫=原田三夫であるならば、京平くんは前谷惟光のイトコということになりますな。
 また、この章では、人工衛星はヘールという作家が書いた「レンガの月」という小説の中で考えられた云々、という記述が出て来る。そんな作品、記憶にないなあ……と思いつつ、野田昌宏大元帥の名著『SF考古館』を引っ張り出してきたら、「天然衛星・人工衛星物語」の章でちゃんと紹介されていましたよ。さすがは大元帥。一八六九年の作品ですと! ウェルズやヴェルヌ、コナン・ドイル以前の作品ですよ、ちょっと読んでみたいかも。
 そして次章では、京平少年は様々な訓練を受ける。彼は春田三夫や医者の木戸博士とともに、月世界へ行けることになったのだ(ここで、重力や無重力について解説される)。
 いよいよ三人は、ロケットに乗って出発。軌道上の宇宙ステーションに立ち寄り、更に月を目指す。途中で宇宙遊泳を楽しんだりしつつ月の軌道に到着すると、月着陸船で月面へ降下。��第一基地�≠ナ、天文観測をしている町田先生と会う。月面散歩などをして月世界を満喫して後、三人は帰路につくのであった……。
三石巌全業績
『三石巌全業績』
 あくまで科学解説を主眼としているので、重大事件は全く起こらない。月面で異星人と遭遇するとか、事故が発生するとか、そういうのはまるでナシ。要約してしまえば「少年が月へ行って、帰って来る話」。それに尽きるのだ。
 「ポプラ社の少年文庫」は、文庫とは銘打っているが大判のハードカバー叢書。科学に限らず、様々な知識を子どもたちに与える、というコンセプトのシリーズだ。本作以外には、白鳥の渡りを解説した『白鳥の大旅行』(宇田川竜男)、アリの目からアリの世界を見た『アリの子ツク』(矢島稔)、サンパウロの学校生活や家庭生活を紹介した『ルイジンニョ少年』(かどのえいこ)など。『世界のタイムトンネル』(吉田昭作・山崎昌子)は大阪万博を通して万国博覧会の歴史や意義を紹介したもので、タイムリーな内容となっている。
 三石巌は、これらの他にも子ども向けの解説書の類を多数書いている(「三石巌全業績」24巻の解説ではそれらも巻を改めて収録される予定があると記されているが、実際には刊行されなかった)。それらの中に、まだSFや科学ファンタジイ的なものがあるかもしれない。その全貌を把握するまで、まだまだチェックが必要なようである。

 

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(2010年4月5日)

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北原尚彦(きたはら・なおひこ)
1962年東京都生まれ。青山学院大学理工学部物理学科卒。作家、評論家、翻訳家。日本推理作家協会、日本SF作家クラブ会員。横田順彌、長山靖生、牧眞司氏らを擁する日本古典SF研究会では会長をつとめる。〈本の雑誌〉ほかで古書関係の研究記事を長年にわたり執筆。主な著作に、短編集『首吊少女亭』 (出版芸術社)ほか、古本エッセイに『シャーロック・ホームズ万華鏡』 『古本買いまくり漫遊記』 (以上、本の雑誌社)、『新刊!古本文庫』 『奇天烈!古本漂流記』 (以上、ちくま文庫)など、またSF研究書に『SF万国博覧会』 (青弓社)がある。主な訳書に、ドイル『まだらの紐』『北極星号の船長』『クルンバーの謎』(共編・共訳、以上、創元推理文庫)、ミルン他『シャーロック・ホームズの栄冠』 (論創社)ほか多数。

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