ハミルトン氏が亡くなったときのことだ。
ハミルトン遺族の了承を得て書かれた
シリーズの名翻訳者による幻の長編
〈キャプテン・フューチャー全集 別巻〉
(08年6月刊『風前の灯!冥王星ドーム都市』あとがき[全文])
野田昌宏 masahiro NODA
〈キャプテン・フューチャー全集〉全11巻に加えて、私が書いた〈キャプテン・フューチャー〉が別巻として追加収録されることになった。
書いたのは1983年、ちょうど25年前である……。
ハヤカワ文庫SFから出していた〈キャプテン・フューチャー〉シリーズが完結した翌年のこと、〈SFマガジン〉の臨時増刊号として企画・刊行された“キャプテン・フューチャー・ハンドブック”の、その巻末に一挙掲載されたものだ。
この増刊号は、SFファングループ〈宇宙軍〉の全面的な協力を得てつくられたもので、人名辞典やゲームまで付いた、分厚い一冊だった。いまやネットオークションでも高値がつく、お宝モノになっているらしい。
あの頃は、よもや、国際天文学連合の発表で、冥王星が太陽系の惑星の地位を追われる日が来ようなどとは、夢にも思っていなかった……。
それにつけても、時間の流れるのはなんと早いことか……。
〈キャプテン・フューチャー〉と出会うはるか以前、大学に入ったばかりの頃、神保町で買い集めたペーパーバックの中にあった『スター・キング』での、ハミルトンとの初めての出会い……。彼の『時果つるところ』を、ジュヴナイル版『百万年後の世界』として訳したのは私だった……。
そして、やはり思い出すのは、1977年にハミルトン氏が亡くなったときのことだ。
今回の創元版全集の読者にはあらためて説明するまでもないかもしれないが、その後、ハミルトンの夫人だったリイ・ブラケット(著名なSF作家で、『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』の脚本を書いた人だ)に、私独自の〈キャプテン・フューチャー〉を書くことを了解してもらったのだった……。
そのブラケットも、ハミルトンのあとを追うように、その翌年、亡くなってしまった。
今回の全集では、編集部の協力も得て、これまでの版での用語と訳文を見直し、少しでもより良いものにするべくつとめた。
またハヤカワ文庫版の当時も、水野良太郎氏という得がたいイラストレーターに恵まれたが、今回の創元版全集で特筆すべきは、イラストに、新たに鶴田謙二氏を得たことである。
子供時代から〈キャプテン・フューチャー〉の大ファンだったという鶴田氏が描くことで、フューチャーメンと、そしてもちろんジョオンも、驚くほど若返った。そして何よりも、第3巻のカバーを飾ったヌララである。あの妖艶なことといったら……!
鶴田氏とは、2005年に横浜で開かれた日本SF大会の企画で対談させていただいた。楽しい思い出である。
■ 野田昌宏(のだ・まさひろ)
1933年福岡県生まれ。学習院大学政治経済学部卒。主な著書に『SF英雄群像』『レモン月夜の宇宙船』《銀河乞食軍団》他多数、訳書にハミルトン《キャプテン・フューチャー》、ジョーンズ《ジェイムスン教授》、チャンドラー《銀河辺境》他多数。『「科學小説」神髄』で第16回日本SF大賞特別賞を受賞。