“時を超えた愛”という見果てぬ夢が成就する物語。
(『時の娘 ロマンティック時間SF傑作選』編者あとがき)

中村 融 toru NAKAMURA

 

 SFの翻訳を生業にしているせいで、内外のオールタイム・ベストSFの投票結果をちょくちょく目にする。それらをくらべれば、海のこちら側と向こう側のSFファン気質のちがいが見えてくるのだが、とりわけ目を惹く点がある。長篇部門におけるロバート・A・ハインラインの『夏への扉』 (1957/早川書房)、短篇部門におけるロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」 (1961/集英社文庫コバルト・シリーズ同題書所収)に対する評価のちがいだ。この二作はわが国のオールタイム・ベスト投票ではつねに上位を占めるのに、英米では見向きもされないのだ。
 いうまでもないが、両者には共通点がある。どちらもタイム・マシンを利用して純愛を成就させる話なのだ。時間の移動範囲が、せいぜい数十年でしかない点も同じ。時間SFといえば、数百年から数億年の過去や未来へおもむいたり、歴史の改変を企んだり防いだりといった話が多いだけに、かなり特異なタイプの作品だといえる。
 オールタイム・ベストの日本篇に目を転じれば、事態はますますはっきりする。長篇部門における広瀬正の『マイナス・ゼロ』 (1970/集英社文庫)、短篇部門における梶尾真治の「美亜へ贈る真珠」 (1971/ハヤカワ文庫JA同題書所収)という上位作品が、やはり同じタイプの時間SFなのだ。どうやら、わが国のSFファンは、こういう時間SFに弱いらしい。
 端的にいってしまえば、“時を超えた愛”という見果てぬ夢が成就する物語。その実現のためにSF的な仕掛けがあるわけで、これはこれでSFならではの魅力だといえる。
 ならば、そういう作品を集めてアンソロジーを編んだら面白かろう――本書の出発点はそこだった。アンソロジーとしては、ずいぶんテーマを絞ったものだが、だからこそアンソロジストの腕の見せどころ。単調にならないよう頭を絞り甲斐がある。というわけで、できあがったのが本書である。
 セールス・ポイントを書いておこう。
 その1。収録作全9篇中3篇が本邦初訳。
 その2。残る6篇のうち3篇は、30年以上も前に雑誌に訳出されたきり埋もれていた作品。
 その3。残る3篇は、この手のアンソロジーには欠かせない定番だが、20年以上も入手困難だった作品。
 要するに、珍しい作品ばかりがそろっているわけで、編者がいうのもなんだが、相当にお買い得ではないか。さらにいえば、既訳のある作品もすべて本書のために新訳を起こしている。
 ついでに書いておけば、恋愛をあつかった作品が主だが、ヴァラエティを心がけて、それ以外の作品も混ぜてある。しかし、それらもロマンティック時間SFの名に恥じないと信じる。その選択が妥当だったかどうかは、読者のみなさんの判断に委ねたい。



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