◆SF古書と生きる。ひそかに人気の古書探求コラム
おそらく、まだ見ぬSFがもっともっとあるに違いない。

北原尚彦 naohiko KITAHARA

 

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 ここのところ、古い学習雑誌(学年誌)を立て続けに買っている。なぜかといえば、理由は簡単。ジュヴナイルSFが載っているからだ。
 ジュヴナイルSF収集は単行本や、せいぜい(学習雑誌の)別冊付録どまりにするつもりだった。だが、雑誌に掲載されたままの珍しい作品も結構あり、見つけてしまうと情報収集のためにも買っておかざるを得ないのである。まあ、そのおかげで書誌でも掲載年月などの詳細が不明だった柴野拓美作品が発掘できたりもするのだ。……ジュヴナイルSFの世界、とても深いです。

 というわけで、引き続き汐文社の「原爆児童文学集」(一九八五~八六年)のジュヴナイルSFである。前回は第十巻、第十一巻、第十二巻を紹介したので、その次から。
いつか緑の木かげで
『いつか緑の木かげで』
 第十三巻は江口宣『いつか緑の木かげで』。これはタイトルゆえに、図書館で中身を確認するまでSFだとは気付かなかった。全冊チェックしなければ、見逃すところでしたよ。
 長崎から来た六人の中学生と一人の先生が、修学旅行で大分県の金山跡地の坑道にいた際、震動と共に落盤が起こり、閉じ込められる。苦労して外に出ても人は見当たらず、ラジオも電波を全く受信しない。雨が降り続き、気温はどんどん下がる。
 ――まあ、「原爆児童文学集」ですから、実は核戦争が起こっていたというのは当然の流れ。しかしどうも、登場人物の行動原理が不自然だったり、説明すべき事柄が説明されなかったりが、読んでいて気になって仕方がなかった。
 たとえば修学旅行のほかの先生や生徒たちはバスで慌てて逃げたらしいということになっているが、彼らがどうなかったかは最後まで全く触れられない。また坑道内の七人を置き去りにするというのも疑問だし、他の生徒を守るために避難せざるを得なかったとしても、何かメッセージを残すのではないだろうか?
 七人は外に出られるようになってから十数日後、食料を調達し、自動車で移動を開始する。街に出ても人がほとんどいない。缶詰を抱えて威嚇するように唸る女性に遭遇した際、他の人々がどこへ行ったかを聞く。人々が集まっているのは学校だったのだが、そこに人が何人かいるのを確認したものの、彼らには会わずに移動してしまうのが不可思議千万。学校を訪ねて「一体何があったのか?」と質問するのが当然だと思うのだが。
 彼らは故郷の長崎を目指して移動するのだが、有明海が凍りついていることが判明。見知らぬ一人の老人が歩いて渡れると言ったので、ソリを作って(熊本から長崎まで)海を歩いて渡ることにする。なぜわざわざそんな危険を冒すのだろうか。
 氷上でも、視力を失った人々に遭遇し、彼らを熊本側に送るために、女子生徒ふたりと男子生徒ひとりをソリに残して、別行動を取る。これまた、あまりにも危険な判断だ。「生き別れフラグ」が立ちますよ。
 案の定、戻ってみると三人の姿はない。彼らをさらったのは、雲仙に臨時政府を作って勝手に大統領になった国会議員が率いる軍隊(自衛隊の生き残り)だった。自衛官たちがなぜこんな人物に従うのか、全く謎。
 中東に端を発した戦争が世界的に広がって合計で二百発以下の核兵器が使用された、とのことだったが、彼らのいた場所の近傍に投下されたわけではないようだった。気温の低下は「核の冬」が起こったためらしい(カール・セーガンらが「核の冬」を提唱したのが一九八三年なので、それを取り入れたのだろう)。彼らが最後に迎える運命とは……。
預言者ミハエルと不思議な新聞
『預言者ミハエルと
不思議な新聞』
 著者・江口宣(えぐち・とおる)は長崎在住で、同人誌「九州文学」の編集委員でもある作家。被爆地である長崎ゆかりの作家ということで、本叢書への執筆の声がかかったのだろう。ほかの著作に『預言者ミハエルと不思議な新聞』 (汐文社/一九九一年)、『黄金の羽根』(汐文社/一九九四年)がある。前者は「児童推理小説」という叢書の一冊で、確かに少年たちが誘拐事件を解決するのだけれども、不思議な老人がくれた“未来の新聞”が重要な鍵となる(というか、そもそも事件が起こることをその新聞で知る)ので、SFファンタジイでもある。後者はヤマトタケル伝説に材をとった現代ファンタジイ。
 挿画家も、他にもSF関係の仕事をしている人なので簡単に。西村達馬(一九三〇年~)は児童書のイラストを多く担当している童画家。岩崎書店「SFえどうわ」の亀山竜樹『宇宙海ぞくパプ船長』(一九六九年)及びその新版で挿画を描いている。
 

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