勝手にコラボ・奇書版/星新一展『未来にいどむNEC』ほか
北原尚彦 naohiko KITAHARA
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世田谷文学館で2010年4月29日から開催されている「星新一展」は、ご覧になりましたか? もしまだでしたら、そしてこの文章をお読みになっているのが最終日の6月27日よりも前でしたら、何はさておき行っておくことをオススメします。SF者は必見ですぞ。
この展覧会のおかげでわたくし、にわかに星新一熱が嵩じてしまいました。そこで今回の『SF奇書天外REACT』は、勝手にコラボ企画「奇書版/星新一展」とさせて頂きます。
星新一の1001篇のショートショート群は『星新一 ショートショート 1001』
全3巻(新潮社/1998年)としてまとめられた。しかし『気まぐれスターダスト』(出版芸術社/2000年)に収録された作品のように、そこからこぼれ落ちていた作品もある。その後も、傑作選に拾い上げられたものもあるが、単行本未収録作はまだ残っている。
―日本電気―』
これだけでも十分に買う価値アリだったが、イラストは星新一ファンには説明の要はない真鍋博、『アンパンマン』のやなせ・たかし、ポプラ社の江戸川乱歩など児童向けイラストをたくさん描いた中村猛男、という三強(星新一パートの担当はもちろん真鍋博)。「わたしの第一線訪問記」というルポを書いているのは芥川賞作家の津村節子。副社長と対談しているのは、横溝正史映画にも出演している女優の司葉子……と超豪華メンバーだ。
高層アパートを出た青年は、電波に従って自動的にコース取りする自動車で、会社へ向かった。彼の勤めるのは、宇宙関係の企業。大企業だが会社の各部や各課が分室となって分散し、社員はそれぞれの近くに住む。だから通勤地獄がない。書類も、本社のファイルから電送で瞬時に手に入る。
――といった具合に、未来風景が延々と語られる。この後は完全にネタを割らない程度に紹介すると、青年にはつきあっている女性がいることが明かされ、世の中がどれだけ機械化されても、人と人との関係だけは機械には解決できない、といった結末へと至る。基本的にはエレクトロニクス化された未来社会を描き出すのが主眼であり、要するに「NECはこういった社会を実現するためにあるのですよ」というテーマなのだ(作中には企業名は出てきませんが)。よって、一応の結末は付けられているものの、一般的な星ショートショートとは趣が異なる。ショートショート集に収録されなかったのもむべなるかな、である。
第1話は「こらしめられた王様」。前王を殺して王位についた、悪い王様のところへ、漂泊の彫刻家がやってきた。「王様の立派な像を作りますよ」と言うので作らせたところ、確かに見事な出来だった。お祝いのお祭りをすることになり、像はかがり火にあかあかと照らし出された。しかし夜がふけた頃、像は前王の顔に変わっていた。それを見た王様は、恐れと驚きのあまり心臓が止まって死んでしまった……。そして解決篇で、像が変わった理由が説明されるのであります。
第3話は「消えた発明」。矢野博士は、丈夫なプラスチックの研究を行っていた。産業スパイの三吉は、研究所から出てきた矢野博士から箱を奪い取り、自動車で逃走する。だが三吉は寒気がして、息苦しくなって、遂には眠気に襲われて事故を起こしてしまう。箱を調べると、さっきは重かったのに、空っぽになっていた。さあ、箱の中身は何だったのでしょう?……というもの。皆さんはもうお分かりですね。
やはりこれらも星ショートショートとは書かれているスタンスが違う。1960年といえば、まだ 『人造美人』(新潮社/1961年)が出ておらず、『生命のふしぎ』(新潮社・少国民の科学/1959年)が星新一の唯一の単行本、という時代。『生命のふしぎ』は児童向けの科学解説書。その作者として原稿依頼が来たのだと考えれば、学習雑誌にこういう作品を書いていたというのも納得がいく。後に単行本に収録しなかったのも、理解できる。
ちなみに本文でのタイトルは「はん人はだれ?」と、目次とは微妙に異なっている(「、」がないのです)。
1960年頃の児童向け雑誌には、単行本未収録の星作品がまだ幾つもあるようだ。是非、専門家の詳細な調査を期待したい。
星新一展では、星新一へと至る系譜や、周辺に関するものも展示されていたので、ここでもそれを踏襲することにしよう。
本書は奥付がなく、発行所も発行年も不明。巻末に「冷凍法概要」というのがあり、これの日付が大正14年3月24日となっている。よって発行年はこの年(=1925年)、発行所は星製薬とみるのが妥当なところだろう。
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