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本格ミステリの専門出版社|東京創元社
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4月某日 「お許しください」 ――『イマージュ』 「男と女は子供や戸籍でつながれるのではない。男と女は……肉でつながるのだ! 私とこの小百合のようにな!!」 「退屈………… ああ 何という ぜいたくな感情!」 ――『悪の華』 モスマンとシルエットとコメディアン、それに私が、大仰なコスチュームに身を包んで正義の味方を気取っている間に、ヨーロッパでは人間が人間を石鹸やランプシェードに変えていた。(略)狂っていて、変態で、ナチだった。そして、また一方で自分の信じる道を貫いた。 「あなたを味わいたいの、匂いを嗅ぎたいの。命があるうちに これは何の匂い? 何の香りなの?」 「ノスタルジア」 ――『ウォッチメン』 | |
K子女史「へえ、アメコミねえ……。いちばん面白かったのはなんです?」 インテリ眼鏡に黒スーツのK子女史が、自信満々にアイパッドを差しだしてくる手元を見て、絶句する。 「ウォッチ面」とメモされている。 わたし 「……」 と、こっちがおかしなことを言ったかのような空気の中、K子女史が憮然として書き直し始める。なんでだ……。「スーパー満」「スパイダー満」「デアデビ瑠」なんて表記だったことがあるというのか。(心の声) ――『GOSICK』シリーズの舞台がヨーロッパからアメリカに移ったため、相変わらず資料を大量に積んでは読んでいる。新しい国に移民して、必死で働き基盤を作る一世と、そんな父親を見ながら、紙の上に新しい神話を作っていく二世の若者たち。スーパーマンの作者は子供のころ、雑貨屋を営んでいた父親を強盗に殺された。青年になると、強盗から雑貨屋の店主を救う第一話からスーパーマンの物語を書き始めた、とか……。神話なき国の神話として、ギリシャ神話からへラクレスを借りてきて、遠い星から地球にやってきた“移民”版の英雄を書こうとしたのだ。しかしその“正義”の物語が、第二次世界大戦、ベトナム戦争などを経て、国とともに揺らぎ、失われていく未来を書いたのが「ウォッチ面」……ちがう、「ウォッチメン」なのかな。 ジャンクな物語は、過去の権力を裁き社会の闇をあぶり出し現在の我々を肯定し、未来を探す。読みだすと業が深くて面白い。 あと、戦争によって孤児になった少年が、それによって変質し、戦後ももとの日常にもどれない……自身の経験をもとに血文字で書かれた『ペインテッド・バード』がよかったという話もした。 ――ゴシックシリーズの再開と、『赤×ピンク』に続いて『私の男』の映画公開と、「バンブー」シリーズ全三話が書きあがったので全体の見直しと、〈野性時代〉で始まる新連載『敗戦国じきる』と……。なんだかずっと働いている。そりゃそうか。 三日前に、とてもお世話になった編集長がなくなって告別式に行き、夕方から松本清張賞の選考会があった。 『赤い航路』『イマージュ』『悪の華』(上村一夫)……浴びるように読んで、その夜も寝た。 (2014年5月)
■ 桜庭一樹(さくらば・かずき) 1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行)で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。以降、ゲームなどのノベライズと並行してオリジナル小説を発表。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、さらに04年に発表した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価される。05年に刊行した『少女には向かない職業』は、初の一般向け作品として注目を集めた。“初期の代表作”とされる『赤朽葉家の伝説』で、07年、第60回日本推理作家協会賞を受賞。08年、『私の男』で第138回直木賞を受賞。著作は他に『荒野』『製鉄天使』『ばらばら死体の夜』『傷痕』、エッセイ集『少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記』『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』『お好みの本、入荷しました 桜庭一樹読書日記』『本に埋もれて暮らしたい 桜庭一樹読書日記』『本のおかわりもう一冊 桜庭一樹読書日記』など多数。 |
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