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ありふれた丘の花はいちどはしぼむが、また花を咲かせる。きんぐさりは来年の六月にもまたいまと同じ黄色に輝くことだろう。もう一月もたてば、せんにんそうには紫色の花が咲き、くる年ごとにその葉は緑の夜のように同じ紫色の星を抱き続けるだろう。けれど、人間はその若さをとり戻しはしない。二十歳のときに烈しく高鳴った歓喜の鼓動はやがて鈍り衰える。四肢は力を失い、五感は朽ちてゆく。こうしてわれわれは醜悪な人形となり果て、恐れのあまり逃した過去の情熱や、おもいきって身を委ねることのできなかった誘惑の思い出につきまとわれるようになる。若さ! 若さ! 若さを除いたらこの世になにが残るというのだ! そうだ、いつかはこの顔も皺が寄ってしなび衰え、眼は霞んで色つやを失い、優美なからだつきも崩れて醜くなってしまうのだ。唇からは紅が消え、金髪も色褪せることだろう。今後、自分の魂を形成してゆく生命は、肉体にたいしては傷を与えることになり、自分は怖ろしく、醜く、そして無骨になってゆくのだ。 ――『ドリアン・グレイの肖像』
四月である。 取材を受けたりするのは、きりがないような気がしてきたので3月いっぱいでやめて、今月から、机で小説を書いて床で本を読むいつもの生活に戻ることにした。一ヶ月のあいだにあったことというと、 ・文春の担当S藤女史と打ち合わせ中、とつぜん「未来は、変えられるんだぜっ!」という若い男の声が響いて飛び上がった……ら、S藤女史の携帯電話の着信音だった。 ・角川の担当K子女史と「我々が目指すべき大人の女は、女性誌に載っているエイジレスな女とかモテ系なんとかではない。オツボウーメンだ! 今年はがんばろう!」と拳を振り上げ歩いていたら、二人で赤坂サカスのビルの外壁にぶつかった(上まで総ガラス張りで、真ん中に黒い縦線が入っていたので自動ドアだと思った)。 ・そのオツボメンとご飯(餃子と枝豆とトムヤムクン)を食べていて、うっかり「広瀬正を知らない」とカミングアウトしたら、ものすごく叱られた。司馬遼太郎がめちゃめちゃ褒めていた超すごいSF作家らしい。うぅ。 ・上野にて花見。夜桜と黒糖梅酒。数ヶ月ばたばたしていた間に、なんと友達の彼氏が変わっていた。「忙しそうだから報告しそこなってたけど……」仲間内のホットな話題に乗り遅れていた。ショック。 さて、4月8日。めずらしく大雨の一日。 |
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