8月某日 「私、最後におじさんに聞いたの。『今、一番したいことってなんですか』って」 おじさんはこう言ったわ。 「わたしが今いちばんしたいのは、晴れた日曜の朝、自分が所有している小さな庭に立って、植木に水撒きをすることです」って。 その光景は僕の脳裏に、リアルな映像としてすっと映った。ホースを持って、三本の指で幸せそうに水撒きをする布団敷きのおじさん。 ぼくは、こぶしでテーブルを強く叩いた。 ――「告白」 でも、僕の考えでは、食べ物はおいしいか、おいしくないか、おもしろいか、おもしろくないかのどっちかです。 ――『英国一家、日本を食べる』 |
新宿から京王線に飛び乗って、調布へ。 今日は『赤×ピンク』 オクタゴンのセットで女優さんたちがキャットファイト中だった。観客役のエキストラさんたちが大声で盛りあげてる。 監督と脚本家さんともご挨拶。あとで原作者のコメントを撮影できますか、と聞かれてうなずいた後、 わたし 「あれ、顔大丈夫だっけ(化粧してるっけ)」 という会話があった。 帰りにご飯を食べて、いま書いてる作品のプロモーションとかの打ち合わせ。 タクシーの中でシドニー・シェルダン『ゲームの達人』 わたし 「で、おばあさんが言うんですよ。『人生はゲームだ。人はゲームの達人にならなければいけない!』って」 ということがあった(なんなんだ……)。 帰宅して、犬の散歩をして、お風呂に入って、出てきて本を開いた。椰月美智子さんの短編集『未来の息子』 表題作は、エンタメとしてとてもよくまとまってる。ふん、ふん……と読んでて、最後に入ってる「告白」が……! 気味悪くて、百�闕Dきなのかなというか、片岡義男がヤバイときみたいなというか、なんとも言えない不気味さで……。友達と温泉旅行に行った彼女の“告白”を聞いているうちに、なんかとんでもない話になってくる……で、最後までよくわからない……でも聞き手の男性にも正体不明のなにかが伝染しちゃう……。やっぱりコレだった! と、満足して、閉じた。いてもたってもいられず、K島氏にシャンプーとコレとあと一冊、なんだったかな、『イワナの夏』 (2013年9月) |
■ 桜庭一樹(さくらば・かずき) 1999年「夜空に、満天の星」(『AD2015隔離都市 ロンリネス・ガーディアン』と改題して刊行)で第1回ファミ通えんため大賞に佳作入選。以降、ゲームなどのノベライズと並行してオリジナル小説を発表。2003年開始の〈GOSICK〉シリーズで多くの読者を獲得し、さらに04年に発表した『推定少女』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』が高く評価される。05年に刊行した『少女には向かない職業』は、初の一般向け作品として注目を集めた。“初期の代表作”とされる『赤朽葉家の伝説』で、07年、第60回日本推理作家協会賞を受賞。08年、『私の男』で第138回直木賞を受賞。著作は他に『荒野』『製鉄天使』『ばらばら死体の夜』『傷痕』、エッセイ集『少年になり、本を買うのだ 桜庭一樹読書日記』『書店はタイムマシーン 桜庭一樹読書日記』『お好みの本、入荷しました 桜庭一樹読書日記』『本に埋もれて暮らしたい 桜庭一樹読書日記』『本のおかわりもう一冊 桜庭一樹読書日記』など多数。 |
ミステリ小説、SF小説|東京創元社