中学生の時、点字部にいました。週1回集まってそれぞれに点字の読み書きを練習するのが主な活動でしたが、どちらかというと話に花を咲かせるのに忙しかったかも――お喋りざかりの女の子たちですからね。

 学園祭の研究発表のために盲導犬ユーザーの方をお招きしてお話をうかがったり(お二方来てくださったのですが、片方の犬さんがどうも落ち着かない様子。盲導犬はよく訓練されていて物事に動じないはずなんだけど?と不思議に思っていたところ、まさかの犬嫌いでした)、普段の活動中にベランダに出た顧問の先生をサッシの鍵をかけて閉め出したりしたのがよい思い出です。

 ダベリング部だったとはいえ、今でも少しは点字が読めます。意識してみると意外と身の回りに見つかるものです。たとえばこれ。

DSC00199.jpg  ハンドクリームのチューブについているシール、よく見ると点字が・・・・・・。

 日本の点字は、縦3点、横2列の6つの点の組み合わせで作られていて、左側の点を上から①②③、右側を同じく上から④⑤⑥とすると、①②④の点で50音図の段を、③⑤⑥の点で行を示し、組み合わせて一つの音を表わすのが原則です。
 シールの点字の一番左は《は》。①がアの段、③⑥がハ行を示しているわけです。
 2番目の③⑤⑥はいきなり例外ですが、《ん》。
 《は》《ん》とくると大体予想がつきますね。〈ハンドクリーム〉。でも、それなら7字のはずなのに、点字は8マスあります。
 じつは3番目にある⑤の点は、その次にある点字が濁音であることを示す濁点符です。左から2番目の②⑤は長音符です。

 木工用ボンドの容器には・・・・・・

bond1.jpg bond2.jpg  表側に《ぼんど》、裏側に《もっこーよー》。〈ボンド〉〈木工用〉ですね。

 冷蔵庫を開けてみましょう。

 ソースがありました。これも表側と裏側に点字があります。

DSC00195.jpg DSC00196.jpg  表側は《そーす》ですが、裏側は・・・・・・《のあはうら》? メーカーサイトを見てみたところ、これはアルファベットの小文字で《sauce》でした。

 缶ビールには……

beer.jpg  缶チューハイには・・・・・・

DSC00200.jpg  どちらも《おさけ》です。たしかにアルコールかソフトドリンクか区別できないと危険なこともありますものね。でも、これではビールかチューハイかわからないので困るのではないでしょうか。ほろ苦い味を期待しているところに甘い味がきたら衝撃です。その逆もしかり。飲みたいものが、飲みたいわ。

 ケチャップの容器には《けちゃっぷ》、ジャムの瓶には《じゃむ》《あをはた》と書かれていました。

ケチャップ.jpg ジャム表.jpg ジャム裏 (1).jpg  冷蔵庫を離れて、洗濯機の前に来てみます。操作盤のところにたくさん点字が並んでいます。

019.jpg  点字に対し、普通に書いたり印刷したりした文字を「墨字」といいます。「墨字」《点字》の順に挙げてみますと、
 「ふろ水」《ふろ》/「水流」《すいりゅー》/「水位」《すいい》/「予約」《よやく》・・・・・・

 エアコンのリモコンにもありました。

022.jpg  「運転 入/切」《でんげん》

 エアコンをつけたり消したりすることはできますが、運転の切り替えはどうするのだろうと心配な気がします。

 会社の最寄りの東京メトロ飯田橋駅でも、点字で書かれたものが見つかります。券売機のところには点字運賃表がありました。ホームドアには……
 
DSC00194.jpg  ずいぶんたくさんの点字が並んでいます。何が書いてあるか読んでみましょう。一番はじめにある③④⑤⑥の点字は、次にある点字が数字であることを示す数符です。

 《数3ばんせん しんきば ほーめん
  数3ごーしゃ 数4ばん どあ
  → せんとー(数10ごーしゃ)》
 〈3番線新木場方面
  3号車4番ドア
  →先頭(10号車)〉

 ホームドアの場合、墨字は「3号車4番ドア」だけですが、点字ではその他の情報も示されています。

 この例からわかるように、点字は表音文字なので、文章を書くときには決まりに従って分かち書きにしなければなりません。

 また、漢字仮名交じり文よりは字数が増えます。洗濯機の表示の「ふろ水」が《ふろ》、エアコンの「運転入/切」が《でんげん》になっているようなケースは、なるべく少ない字数で必要な情報を伝えようという工夫なのかもしれません。エレベーターの開閉ボタンでは墨字が「ひらく」「とじる」なのに対し、点字は《あけ》《しめ》でした。3字読むよりも2字のほうが、利用者の負担が少ない、という判断なのでしょうか。

龍の耳を君に
 身の回りの点字を探して読んでみると、暗号解読的な面白さを感じるとともに、墨字の内容との違いに興味がわきます。そこから、その状況でどうしても伝えなければならない情報は何なのか、どうやったらうまく伝わるのか等々、コミュニケーションについて考えさせられるからです。
 
 今回、点字について取りあげてみましたが、2月刊の『龍の耳を君に』は手話通訳士を主人公にした作品です。日本で使われている手話には、「日本手話」と「日本語対応手話」の二種類があるそうで、両者の違いが物語に大きく関わってきます。手話のみならず、言語とコミュニケーションに関心のある方にお薦めの一冊です。
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(校正課K)


(2018年4月27日)



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