校正課に異動してから早4ヶ月となりました、Hです。
今回は、夏休みの伊勢旅行中に、言葉に関して気になったことを取り上げたいと思います。
小学生のころに十返舎一九の『東海道中膝栗毛』を読んで以来、いつかはお伊勢参りをしたいと思っていました。講談社の〈少年少女古典文学館〉シリーズの、村松友視さんによる現代語訳で読んだのですが、このシリーズは大好きで、田辺聖子さん訳の『とりかえばや物語』、氷室冴子さん訳の『落窪物語』なども繰り返し読んだのを覚えています。
……と、ここで気になったのが、「十返舎一九」という名前。ペンネームで、「一足す九は十」という洒落が含まれているように思います。いったいどんな由来があるのでしょうか……?
調べてみたところ、「幼名は市九、十返舎の号は香道の黄熟香の十返しにちなむ」(『朝日日本歴史人物事典』)とのこと。これで「一九」が幼名の「市」を「一」に変えたものだということはわかりました。香道とは香木をたいて、その香りを鑑賞する芸道のことですが、ええっと……「黄熟香の十返し」とは……?
さらに調べます。「正倉院には黄熟香、全桟香……等の香料が多量に収蔵されている。香道家はこの黄熟香を蘭奢待、全桟香を紅塵と香銘で呼んでいる」(『世界大百科事典』)、「(蘭奢待は)香道では奇宝とし、聞香では返し十度の作法を伝える」(『日本大百科全書』)。また、蘭奢待を聞く際には細かい作法があり、そのひとつが「返し十度の作法」「十返り」というもので、「先ず一度聞いてその返しを九たび迄」(『香の本』荻須昭大)聞くのだそうです。なるほど……。
さて、謎が解けたところで先に進みましょう。
伊勢神宮には内宮と外宮があり、外宮を先に参拝するのが正式なのだそうです。
私もまず、外宮の最寄駅である伊勢市駅に降り立ちました。
……と、ここで気になりました。
どうして「伊勢駅」じゃなくて「伊勢市駅」なんだろう……? 「渋谷駅」はありますが「渋谷区駅」はありませんし、「横浜駅」や「新横浜駅」はありますが「横浜市駅」はありません。
この疑問については、残念ながら裏付けのある資料にたどり着くことができなかったのですが、伊勢市駅以外にも、日向市駅や伊予市駅など、旧国名が市名になっている場合に「○○市駅」となっていることが多いようです。
校正の仕事では、「地名や人名などの固有名詞が出てきたら確認する」のが鉄則なのですが、改めて、油断禁物と肝に銘じた次第です。
外宮にゆっくりお参りした後は、外宮の別宮である月夜見宮まで足を延ばしました。 ここでまたまた気になる点。
「つきよみのみや」とルビがあります。
あれっ? 「つ」が肩ツキになっていないように見えるのですが、良いのでしょうか!?「や」は下ツキになっているのに。
……あ、すみません、どういう意味かと申しますと、
↑今はこのようになっています。しかし、「月夜見宮」をひとつの熟語として捉え、本を作る際の文字の組方ルールに則ると、
↑このように、語の最初の字から最後の字まで均等になるようにルビを付ける必要があります。(「グループルビ」といいます。)
ルールどおりにルビが付いているか、というのは校正における重要なチェックポイントのひとつなので、つい……。
続いて、翌日は朝から内宮にお参りし、その後おかげ横丁へ。
赤福のかき氷をいただきました! しっかり苦味のある抹茶味のシロップがたまりません。中には赤福が入っていました。
その後、内宮の別宮である月読宮と倭姫宮まではタクシーを使ったのですが、運転手さんが気になることをおっしゃっていました。
「昔の赤福はね、黒砂糖を使ってたんだよ~」
……えっ。黒砂糖を使っていたということは、発売当時の赤福は今のものよりも黒っぽかったということ……? 「赤福」という名前には「赤みがかっている餡を使った福餅」という意味があると思い込んでいたのですが、もしかして違う……?
この件については、赤福の公式ホームページですぐ真相がわかりました。経営理念である「赤心慶福」という言葉から2文字を取ったとのこと! 「赤子のような、いつわりのないまごころを持って自分や他人の幸せを喜ぶ」という意味があるのだそうです。
先入観を持っちゃいけないな、と思いました。
【おまけ】
ここからは校正者モードではなく日常モードの自分で。
「一生に一度はお伊勢さん」と言いますが、個人的には「行けるなら何度も行きたいお伊勢さん」でした。というのも、前述のタクシー運転手さんをはじめ、お店の方や旅館の方、出会う人たちが皆さんとてもフレンドリーで親切にしてくださって! そして食べたごはんが全部美味しかったのです!!
写真は絶品だった「ココット伊勢うどん」と「穴子炙り丼」です。あまりにも美味しかったので「お店ごと東京に連れて帰りたい……」と思いながら帰路につきました。
ミステリ小説のウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
今回は、夏休みの伊勢旅行中に、言葉に関して気になったことを取り上げたいと思います。
小学生のころに十返舎一九の『東海道中膝栗毛』を読んで以来、いつかはお伊勢参りをしたいと思っていました。講談社の〈少年少女古典文学館〉シリーズの、村松友視さんによる現代語訳で読んだのですが、このシリーズは大好きで、田辺聖子さん訳の『とりかえばや物語』、氷室冴子さん訳の『落窪物語』なども繰り返し読んだのを覚えています。
……と、ここで気になったのが、「十返舎一九」という名前。ペンネームで、「一足す九は十」という洒落が含まれているように思います。いったいどんな由来があるのでしょうか……?
調べてみたところ、「幼名は市九、十返舎の号は香道の黄熟香の十返しにちなむ」(『朝日日本歴史人物事典』)とのこと。これで「一九」が幼名の「市」を「一」に変えたものだということはわかりました。香道とは香木をたいて、その香りを鑑賞する芸道のことですが、ええっと……「黄熟香の十返し」とは……?
さらに調べます。「正倉院には黄熟香、全桟香……等の香料が多量に収蔵されている。香道家はこの黄熟香を蘭奢待、全桟香を紅塵と香銘で呼んでいる」(『世界大百科事典』)、「(蘭奢待は)香道では奇宝とし、聞香では返し十度の作法を伝える」(『日本大百科全書』)。また、蘭奢待を聞く際には細かい作法があり、そのひとつが「返し十度の作法」「十返り」というもので、「先ず一度聞いてその返しを九たび迄」(『香の本』荻須昭大)聞くのだそうです。なるほど……。
さて、謎が解けたところで先に進みましょう。
伊勢神宮には内宮と外宮があり、外宮を先に参拝するのが正式なのだそうです。
私もまず、外宮の最寄駅である伊勢市駅に降り立ちました。
……と、ここで気になりました。
どうして「伊勢駅」じゃなくて「伊勢市駅」なんだろう……? 「渋谷駅」はありますが「渋谷区駅」はありませんし、「横浜駅」や「新横浜駅」はありますが「横浜市駅」はありません。
この疑問については、残念ながら裏付けのある資料にたどり着くことができなかったのですが、伊勢市駅以外にも、日向市駅や伊予市駅など、旧国名が市名になっている場合に「○○市駅」となっていることが多いようです。
校正の仕事では、「地名や人名などの固有名詞が出てきたら確認する」のが鉄則なのですが、改めて、油断禁物と肝に銘じた次第です。
外宮にゆっくりお参りした後は、外宮の別宮である月夜見宮まで足を延ばしました。 ここでまたまた気になる点。
「つきよみのみや」とルビがあります。
あれっ? 「つ」が肩ツキになっていないように見えるのですが、良いのでしょうか!?「や」は下ツキになっているのに。
……あ、すみません、どういう意味かと申しますと、
↑今はこのようになっています。しかし、「月夜見宮」をひとつの熟語として捉え、本を作る際の文字の組方ルールに則ると、
↑このように、語の最初の字から最後の字まで均等になるようにルビを付ける必要があります。(「グループルビ」といいます。)
ルールどおりにルビが付いているか、というのは校正における重要なチェックポイントのひとつなので、つい……。
続いて、翌日は朝から内宮にお参りし、その後おかげ横丁へ。
赤福のかき氷をいただきました! しっかり苦味のある抹茶味のシロップがたまりません。中には赤福が入っていました。
その後、内宮の別宮である月読宮と倭姫宮まではタクシーを使ったのですが、運転手さんが気になることをおっしゃっていました。
「昔の赤福はね、黒砂糖を使ってたんだよ~」
……えっ。黒砂糖を使っていたということは、発売当時の赤福は今のものよりも黒っぽかったということ……? 「赤福」という名前には「赤みがかっている餡を使った福餅」という意味があると思い込んでいたのですが、もしかして違う……?
この件については、赤福の公式ホームページですぐ真相がわかりました。経営理念である「赤心慶福」という言葉から2文字を取ったとのこと! 「赤子のような、いつわりのないまごころを持って自分や他人の幸せを喜ぶ」という意味があるのだそうです。
先入観を持っちゃいけないな、と思いました。
【おまけ】
ここからは校正者モードではなく日常モードの自分で。
「一生に一度はお伊勢さん」と言いますが、個人的には「行けるなら何度も行きたいお伊勢さん」でした。というのも、前述のタクシー運転手さんをはじめ、お店の方や旅館の方、出会う人たちが皆さんとてもフレンドリーで親切にしてくださって! そして食べたごはんが全部美味しかったのです!!
写真は絶品だった「ココット伊勢うどん」と「穴子炙り丼」です。あまりにも美味しかったので「お店ごと東京に連れて帰りたい……」と思いながら帰路につきました。
(2017年9月29日)
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