平地での夏の鳥見は難しい……というより暑い。それでもネタを仕入れねばならないので、昼休みに牛込濠まで出かけていった。するとカワウは平気でボートやステージ(?)の上にいたが、この暑さの中、人間にはとても真似できないと思った。

牛込濠のカワウ.jpg
牛込濠のカワウ

 せめて涼しい気分になりたいので、今回は白い鳥から。

ボートの上のコサギ.jpg
ボートの上のコサギ

 鳥にくわしくない人は、単に「白鷺」だと思うだろうが、バーダー(野鳥観察者)ならばコサギだとすぐにわかる。後頭部に2本生えているのは夏に見られる冠羽。これがある白いサギはコサギなのである。胸と背でふわふわしているのは繁殖期に見られる飾り羽だ。足先が黄色いのもコサギの特徴だ。

 白いサギには、コサギより大きいチュウサギもいる。さらに大きなダイサギもいる。漢字で書けば「小鷺」「中鷺」「大鷺」。文字通り大きさが違うのだが、チュウサギとダイサギは、コサギと違って、足先が黒い。また、くちばしの色は、コサギは通年黒いが、チュウサギとダイサギは夏には黒く、冬には黄色い。

 ではチュウサギとダイサギの大きさ以外の違いはといえば……申し訳ないことだが、知りたい方は自力で調べていただけますでしょうか……。告白すると、私はこの2種の見分けが苦手なのだ。しかもダイサギの2種類の亜種はチュウダイサギ、オオダイサギなどと呼ばれているのだが、こうなってくるともう完全にお手上げなのである。

 全長(cm) 足先の色 くちばしの色
コサギ 61
 チュウサギ 68 夏は黒、冬は黄 
ダイサギ 80-104 


左はダイサギ、右はコサギ.jpg
左はダイサギ、右はコサギ

 上の写真では、左が(たぶん)ダイサギ、右がコサギである。このように一緒にいると、見分けやすい。まだ冬とはいえない時期の写真だが、ダイサギのくちばしはすでに黄色に変化している。

首を伸ばして翼を広げたダイサギ.jpg
首を伸ばしたダイサギ

 サギたちは首を伸ばしていると、ずいぶん大きく見える。

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アオサギ

 次は外濠でもよく見るアオサギである。全長は95センチ。あおというわりに、あまり青っぽくないなと思う人もいるだろう。ちなみに英名はGrey Heronで、灰色のサギという意味である。灰色のほうが合っているように思えるが、なぜアオサギなのだろう。

 日本国語大辞典で「あお」を引くと「本来は、黒と白との中間の範囲を示す広い色名で、主に青、緑、藍をさし、時には、黒、白をもさした」とある。黒も白も、とは幅がありすぎるのではないか。でも黒い馬を青毛というしなあ。昔は本当にこのアオサギの色もあおといったのだろう。ちなみに漢字では「蒼鷺」と書く。

アオサギとカルガモ.jpg
アオサギとカルガモ

 参考までに、カルガモと一緒にいるアオサギの写真を。全長61センチのカルガモと比較すると、アオサギが大きいのがよくわかる。

ゴイサギ.jpg
ゴイサギ

 最後はこちら、ゴイサギ。白いサギやアオサギと比べるとずんぐりしているが、魚などを捕まえるときにはもっと首が伸びる。驚くことに、平家物語にある、醍醐天皇から五位の位を賜ったという故事が、ゴイサギ(五位鷺)という名の由来である。(律令制では五位以上が昇殿を許された)後頭部に2本の冠羽があって、目が赤い。全長58センチなので、アオサギとは大きさがかなり違うのだが、アオサギが首を縮めて小さくなっていると、遠目にはうっかりゴイサギと間違えてしまうこともある。

ゴイサギ幼鳥.jpg
ゴイサギ幼鳥

 ゴイサギが幼鳥のときは目が黄色く、羽色は褐色に白いまだらがあって、俗に「ホシゴイ」と呼ばれている。星五位、というわけだ。幼鳥にわざわざ俗称がついている鳥も珍しく、そんなところもゴイサギには特別感がある。ただし夜行性で、昼間はほとんど活動せずじっとしていることが多く、飯田橋交差点の歩道橋脇の桜の木によくとまっている。

 第2回創元ファンタジイ新人賞は、鳥に縁がある。受賞者である鴇澤亜妃子さんのお名前には鴇(とき)という鳥の名が入っており、受賞作は「青鷺」の出てくる『宝石鳥』(8月31日発売)。優秀賞を受賞したのは白鷺あおいさんで、こちらにも「白鷺」という鳥の名が。不思議な偶然である。

(校正課M)

参考文献
『散歩で楽しむ野鳥の本』山と渓谷社
『絵解きで野鳥が識別できる本』文一総合出版
『新・水辺の鳥』(野鳥観察ハンディ図鑑)日本野鳥の会
『色と大きさでわかる野鳥観察図鑑』成美堂出版

(2017年8月31日)



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