某月某日 コーヒー豆の挽き具合について、ゲラに「極細挽き」という言葉が。どう読むのか? 意味としては「粗挽き」の反対で、「粗い」の対義語は「細かい」だが、「ごくこまびき」では違和感がある。
UCCやAGFのサイトほかで、「ごくぼそびき」と読むことを確認。コーヒーの挽き方に関しては「粗い」の対義語は「細い」であるらしい。(『探偵レミングの災難』)
某月某日 「立て板に水」を使った表現について外部校正者さんから疑問の鉛筆があったので、辞書を引く。二番目に引いた『広辞苑』で、対義表現として「横板に雨垂れ」とあるのを発見。『大辞林』『学研国語大辞典』にも記載されていた。
故・米原万里さんのエッセイで、英語通訳者が「立て板に水」なのに対し、ロシア語通訳者は「横板に餅」と表現されていたのを思い出す。この「横板に餅」というもじり、『浮世床』という落語にも出てくると、落語通の編集部K君にご教示いただきました。
某月某日 打ち合わせのため向かいにある同僚Mさんの席に行って驚く――なんと机の上に拳銃が! 『アメリカ銃の謎』の校正のため持ってきたおもちゃとのこと。でも結構本物っぽい。Mさんの机のところに行った人、みな一様に驚いていた。
某月某日 印刷所さんはゲラの隅に書名をメモしておく(印字されていることもある)のだが、たまにそれがまちがっていることも。
9月刊行予定の『ガイコツは衣装ダンスのなか』(仮)のゲラには、『ガイコツ衣装はダンスのなか』と。想像するとなんだか楽しい。
某月某日 ゲラのなかで「あくび」の表記がゆれている。「あくび/欠伸」。しかしこの作品の主人公は医師。ひょっとすると、欠伸は音読みにして医学用語として使われている可能性があるかもしれないと思い、早速『新潮日本語漢字辞典』をあたる。
医学用語については触れていなかったが、「あくび」のほかに「けんしん」という読みで、「あくびをし、背伸びをすること」の意味を発見。「欠」だけであくびを意味するんですね。『新潮日本語漢字辞典』では欠伸について、「のび」という読みも採っていました。(『エクソダス症候群』)
某月某日 ネットで調べ物をしていたら、「雪だるま式に消えて行く」という文言を発見。雪だるまを作るみたいにして消えていく、というのは難しいんじゃないかな?
(【雪達磨式】雪だるまを作るときは雪の塊を転がし、雪をつけて大きくすることから、次から次に積み重なって、どんどん増えていくこと。「―に借金が増える」『明鏡国語辞典』)
某月某日 「試金石」という言葉を使った文章に、表現として引っかかるところがあり、実物はどういうものかをネット検索する。
何となく魔法の石のようなものをイメージしていたが、全然違ったので驚く。まないた状の石で、金属をそれにこすりつけて、性質をしらべるとのこと。ちなみに○天などでも買えます。大きさにもよりますが、2千円前後からあるようです。
某月某日 ゲラに出てきたトリュフバターなるものがとてもおいしそう……。インドのデリーが核攻撃を受けた、世界的な核戦争が始まるのでは、という場面の夕食に出てくるんですけどね。一度食べてみたいものです、もちろん核戦争抜きで。(『わたしの本当の子どもたち』)
某月某日 ゲラに「昨日晩」とあったのに、「昨日の晩」と注記しておいたところ、著者さんから「昨日晩って方言だったんですね!」とコメントが。どれどれと『日本国語大辞典』を引く。
「昨日晩」では載っていなかったが「きのうの晩」の項目が。地域によっては「きのんばん」と言うらしい。しかし驚いたのはその意味。「おとといのばん」ですって! 意外な日常語にコミュニケーションの陥穽があるものだとおののく。さて、あのゲラでの意味はいったい昨日だったのか、おとといだったのか?
某月某日 『探偵レミングの災難』の再校を見ていてのけぞる。「シュテファン」とあるべきものが「シュテトルファン」になっている!!
初校で「シュテンファン」となっていたので、「ン」をトル入朱をしたところ、「トル」に差し替えられてしまったという事故。校正の伝説として、サルトルがサルになったエピソードは有名だが……。伝説を目のあたりにした瞬間でした。
某月某日 『ブラウン神父の秘密』のカバー校正。シリーズを通して、ブラウン神父と収録作品にちなんだ物をあしらったカバーイラストとなっており、袖には収録作品のタイトルが。あれ? タイトルは「飛び魚の歌」なのにイラストは金魚? 実は作品に登場するのは金魚らしいと判明して安堵する。
ミステリ小説のウェブマガジン|Webミステリーズ! 東京創元社
UCCやAGFのサイトほかで、「ごくぼそびき」と読むことを確認。コーヒーの挽き方に関しては「粗い」の対義語は「細い」であるらしい。(『探偵レミングの災難』)
某月某日 「立て板に水」を使った表現について外部校正者さんから疑問の鉛筆があったので、辞書を引く。二番目に引いた『広辞苑』で、対義表現として「横板に雨垂れ」とあるのを発見。『大辞林』『学研国語大辞典』にも記載されていた。
故・米原万里さんのエッセイで、英語通訳者が「立て板に水」なのに対し、ロシア語通訳者は「横板に餅」と表現されていたのを思い出す。この「横板に餅」というもじり、『浮世床』という落語にも出てくると、落語通の編集部K君にご教示いただきました。
某月某日 打ち合わせのため向かいにある同僚Mさんの席に行って驚く――なんと机の上に拳銃が! 『アメリカ銃の謎』の校正のため持ってきたおもちゃとのこと。でも結構本物っぽい。Mさんの机のところに行った人、みな一様に驚いていた。
某月某日 印刷所さんはゲラの隅に書名をメモしておく(印字されていることもある)のだが、たまにそれがまちがっていることも。
9月刊行予定の『ガイコツは衣装ダンスのなか』(仮)のゲラには、『ガイコツ衣装はダンスのなか』と。想像するとなんだか楽しい。
某月某日 ゲラのなかで「あくび」の表記がゆれている。「あくび/欠伸」。しかしこの作品の主人公は医師。ひょっとすると、欠伸は音読みにして医学用語として使われている可能性があるかもしれないと思い、早速『新潮日本語漢字辞典』をあたる。
医学用語については触れていなかったが、「あくび」のほかに「けんしん」という読みで、「あくびをし、背伸びをすること」の意味を発見。「欠」だけであくびを意味するんですね。『新潮日本語漢字辞典』では欠伸について、「のび」という読みも採っていました。(『エクソダス症候群』)
某月某日 ネットで調べ物をしていたら、「雪だるま式に消えて行く」という文言を発見。雪だるまを作るみたいにして消えていく、というのは難しいんじゃないかな?
(【雪達磨式】雪だるまを作るときは雪の塊を転がし、雪をつけて大きくすることから、次から次に積み重なって、どんどん増えていくこと。「―に借金が増える」『明鏡国語辞典』)
某月某日 「試金石」という言葉を使った文章に、表現として引っかかるところがあり、実物はどういうものかをネット検索する。
何となく魔法の石のようなものをイメージしていたが、全然違ったので驚く。まないた状の石で、金属をそれにこすりつけて、性質をしらべるとのこと。ちなみに○天などでも買えます。大きさにもよりますが、2千円前後からあるようです。
某月某日 ゲラに出てきたトリュフバターなるものがとてもおいしそう……。インドのデリーが核攻撃を受けた、世界的な核戦争が始まるのでは、という場面の夕食に出てくるんですけどね。一度食べてみたいものです、もちろん核戦争抜きで。(『わたしの本当の子どもたち』)
某月某日 ゲラに「昨日晩」とあったのに、「昨日の晩」と注記しておいたところ、著者さんから「昨日晩って方言だったんですね!」とコメントが。どれどれと『日本国語大辞典』を引く。
「昨日晩」では載っていなかったが「きのうの晩」の項目が。地域によっては「きのんばん」と言うらしい。しかし驚いたのはその意味。「おとといのばん」ですって! 意外な日常語にコミュニケーションの陥穽があるものだとおののく。さて、あのゲラでの意味はいったい昨日だったのか、おとといだったのか?
某月某日 『探偵レミングの災難』の再校を見ていてのけぞる。「シュテファン」とあるべきものが「シュテトルファン」になっている!!
初校で「シュテンファン」となっていたので、「ン」をトル入朱をしたところ、「トル」に差し替えられてしまったという事故。校正の伝説として、サルトルがサルになったエピソードは有名だが……。伝説を目のあたりにした瞬間でした。
某月某日 『ブラウン神父の秘密』のカバー校正。シリーズを通して、ブラウン神父と収録作品にちなんだ物をあしらったカバーイラストとなっており、袖には収録作品のタイトルが。あれ? タイトルは「飛び魚の歌」なのにイラストは金魚? 実は作品に登場するのは金魚らしいと判明して安堵する。
(校正課K)
(2017年8月2日)
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