前回に引きつづき、校正者の頭のなかで起こっていることをご紹介します。
「起こし……受け。起こし……受け。起こし……」
校正作業中の私の頭のなか、〈かっこ類チェック部門〉のつぶやきです。いったい何の呪文なのか?
日本語の組版で使われるかっこ類として、いちばんよく知られているのは
「 」(かぎ、かぎかっこ)
『 』(二重かぎ)
でしょう。私がふだん仕事でよく目にするかっこ類としては、このほかにも
( )(パーレン)
〈 〉(山がた、山かっこ)
《 》(二重山がた、二重山かっこ)
〔 〕(亀甲)
〝 〟(ちょんちょん)
" "(ダブルクォーテーションマーク。横組みで用いる)
などがあります。
会話文をかぎかっこでくくっている例はよく目にしますね。かぎかっこはその他、強調や引用であることを示す場合などに使われます。補足説明的な文をパーレンでくくるとか、書籍名は二重かぎでとかも、一般的におこなわれているかっこの用法といえるでしょう。
校正者がゲラを見るときには、作品中でかっこ類がどのように使われているかにも注意します。人物のせりふ一つとってみても、普通の会話はかぎかっこで、心内文はパーレンとか、回想している場合はちょんちょんだとか(これはあくまでも一つの例ですが)。その他にも、お店の名前は、新聞名は……などなど、いろいろな使い分けのケースがあります。
かっこ類に関してもうひとつ気をつけなければならないのは、起こし(かぎかっこの場合「)と受け(」)の対応です。起こしだけで受けがない、あるいはその逆の誤植はよくあります。また同じかっこを重ねて使うことも避けたいところです――どこからどこまでをくくったのかわかりにくくなるので。
ですから、校正者はかっこ類が目に入ると常に、その用法を考え、対応する受けあるいは起こしを探しています。それが冒頭の〈かっこ類チェック部門〉のつぶやきです。
かっこ類に関しておかしなところがあると、
「会話、起こし……受け。起こし……受けがない!(ピー!)」
とか、
「店の名前〈 〉……って、さっきは《 》だったじゃない!(ピー!)」
と脳内で警報が鳴ります(笑)。
さて、ある日ぼーっとテレビを見ていたら、ビールのCMで、缶の大写しの映像が出ました。とたんに脳内で
「ピー!!!」
と大音量で警報が鳴りました。
警報の原因は「DRY」の前の起こしのかっこです。ダブルクォーテーションマークの起こしは通常おたまじゃくしのしっぽが上を向いているのですが、画像に見られるものは上下に反転しています。これでは起こしになりません。〈かっこ類チェック部門〉にとっては衝撃の映像です。
小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館、2007年)を見ると、ドイツ語などでは下向きを起こしに使うそうですが、形としては右側がふくらんだものであり、この上下反転した形は挙がっていませんでした。このビールのロゴを決めるとき、なぜこの形を採用したのか、気になります。
テレビCMでは、もうひとつ、毎度びっくりするものが。某大手電機メーカーなのですが、コーポレートスローガン「Inspire the ××」の、「I」(大文字のアイ)が「l」(小文字のエル)そっくりに見えるんです。まさか誤植ではないでしょうから、そういうフォントなのでしょうが、見るたびに脳内で〈形の似た字に注意する部門〉が「キャアッ!」となるのです……。
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「起こし……受け。起こし……受け。起こし……」
校正作業中の私の頭のなか、〈かっこ類チェック部門〉のつぶやきです。いったい何の呪文なのか?
日本語の組版で使われるかっこ類として、いちばんよく知られているのは
「 」(かぎ、かぎかっこ)
『 』(二重かぎ)
でしょう。私がふだん仕事でよく目にするかっこ類としては、このほかにも
( )(パーレン)
〈 〉(山がた、山かっこ)
《 》(二重山がた、二重山かっこ)
〔 〕(亀甲)
〝 〟(ちょんちょん)
" "(ダブルクォーテーションマーク。横組みで用いる)
などがあります。
会話文をかぎかっこでくくっている例はよく目にしますね。かぎかっこはその他、強調や引用であることを示す場合などに使われます。補足説明的な文をパーレンでくくるとか、書籍名は二重かぎでとかも、一般的におこなわれているかっこの用法といえるでしょう。
校正者がゲラを見るときには、作品中でかっこ類がどのように使われているかにも注意します。人物のせりふ一つとってみても、普通の会話はかぎかっこで、心内文はパーレンとか、回想している場合はちょんちょんだとか(これはあくまでも一つの例ですが)。その他にも、お店の名前は、新聞名は……などなど、いろいろな使い分けのケースがあります。
かっこ類に関してもうひとつ気をつけなければならないのは、起こし(かぎかっこの場合「)と受け(」)の対応です。起こしだけで受けがない、あるいはその逆の誤植はよくあります。また同じかっこを重ねて使うことも避けたいところです――どこからどこまでをくくったのかわかりにくくなるので。
ですから、校正者はかっこ類が目に入ると常に、その用法を考え、対応する受けあるいは起こしを探しています。それが冒頭の〈かっこ類チェック部門〉のつぶやきです。
かっこ類に関しておかしなところがあると、
「会話、起こし……受け。起こし……受けがない!(ピー!)」
とか、
「店の名前〈 〉……って、さっきは《 》だったじゃない!(ピー!)」
と脳内で警報が鳴ります(笑)。
さて、ある日ぼーっとテレビを見ていたら、ビールのCMで、缶の大写しの映像が出ました。とたんに脳内で
「ピー!!!」
と大音量で警報が鳴りました。
警報の原因は「DRY」の前の起こしのかっこです。ダブルクォーテーションマークの起こしは通常おたまじゃくしのしっぽが上を向いているのですが、画像に見られるものは上下に反転しています。これでは起こしになりません。〈かっこ類チェック部門〉にとっては衝撃の映像です。
通常の“DRY”
小学館辞典編集部編『句読点、記号・符号活用辞典。』(小学館、2007年)を見ると、ドイツ語などでは下向きを起こしに使うそうですが、形としては右側がふくらんだものであり、この上下反転した形は挙がっていませんでした。このビールのロゴを決めるとき、なぜこの形を採用したのか、気になります。
テレビCMでは、もうひとつ、毎度びっくりするものが。某大手電機メーカーなのですが、コーポレートスローガン「Inspire the ××」の、「I」(大文字のアイ)が「l」(小文字のエル)そっくりに見えるんです。まさか誤植ではないでしょうから、そういうフォントなのでしょうが、見るたびに脳内で〈形の似た字に注意する部門〉が「キャアッ!」となるのです……。
(校正課K)
(2017年5月1日)
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