ちなみに、私が勤める本屋では、書き下ろしショートショート「おいしいほうれん草」を購入特典として配布。大好評でした。
収録された作品のタイトルを見ていくと、表題作のほかに、「椅子? 人間!」 「スマホと旅する男」、「「お勢登場」を読んだ男」、「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」、「陰獣幻戯」、「人でなしの恋からはじまる物語」と、いずれもニヤリとしてしまうものばかり。スマホやSNSをはじめ、最新のテクノロジーが重要な役割を果たしており、人間の狂気や狡猾(こうかつ)さもバージョンアップした、 懐古趣味に留まらない刺激的なリニューアルが施されている。古典のどの部分を活かし、どう現代的なアレンジを加えていったのかをひとつひとつ確認するごとに、歌野晶午という希代の本格ミステリー作家の感性と技巧に唸(うな)らされるばかりだが、意外性やサプライズの面でも2010年代のミステリーとして充分なレベルに高められている。なかでも表題作で「D坂の殺人事件」をなぞった最後に、もうひと押し捻(ひね)ってみせるあたりなど見事というしかない。ほかにも(収録作を見れば一目瞭然(いちもくりょうぜん)だが)乱歩以外の作家のトリビュートになっている点も要注目。じつに多彩な読みどころを備えた一冊になっている。
乱歩作品に触れたことのある読者が大いに愉しめるのは当然として、もし本作を読んでから乱歩作品に触れる読者がいたなら、ぜひとも感想を聞いてみたいものだ。
(2017年1月19日)
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