10代の頃、町の科学館に集まって一緒に夏休みの宿題に取り組んでいた4人組が、24歳になった今、館長の葬儀のために久々に顔を合わせる。公務員になった祐人、宇宙研究の夢を追って大学院に進んだ理奈、家業の電器店を継いだ春樹、科学館に職を得た薫。祐人と理奈はかつてつきあっており、理奈は夢を諦めた祐人を許せずにいる。彼らの今と過去を軸に、館長の世代や現在の10代の物語を交錯させ、さまざまな角度から夢を追うこと、叶えること、諦めることについての物語を浮かび上がらせる。高校2年生の著者が、自分がまだ知らない社会人になった大人の心情を丁寧(ていねい)に、独(ひと)りよがりにならずに描き出している点や、まるでまだ若い自分を励ますかのように、人生を肯定的にとらえる姿勢も好感度大。このまま書き続けていったら、この2000年生まれの作家はどんな世界を描き出してくれるのだろう、と楽しみになる。
これまでも土地とその歴史、建物、時間、人の記憶といったモチーフを扱ってきた著者と怪談の相性の良さに気づかされる一作。
表題作はイラストレーターの主人公が個展を開いている風景から始まる。そこにやってきたのは、久々の再会となる一人の編集者。7年以上も顔を合わせていなかったとはいえ、その服の傾向の大きな変化が目にとまる。と同時に、脳裏によみがえるのは、初めて会った時のこと、しばらくして彼が異動した後で再会した時のこと……。人生模様を変化させていく他者との触れ合いを表すタイトルにしみじみ。デパ地下で買った総菜をめぐる一人の女性の逡巡と奮闘を克明に描く「カブとセロリの塩昆布サラダ」もニヤニヤしながら読める一篇。が、移動する車の中から見える光景から始まり、時空を超えて思いもよらない人類と文明の変遷(へんせん)まで思いを巡らせることになる「テールライト」など、超現実的な話も。どれも短篇ならではの濃密さと大胆さで、強烈な余韻(よいん)を残す。企画は達成したが、まだまだ短篇も書き続けてほしくなる。
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■瀧井朝世(たきい・あさよ)
フリーライター。1970 年東京都出身。慶應義塾大学卒。朝日新聞「売れてる本」、本の話WEB「作家と90分」、WEB本の雑誌「作家の読書道」ほか、作家インタビューや書評などを担当。
(2017年5月17日)
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