選考委員、書店員が絶賛する創元ホラー長編賞受賞作『深淵のテレパス』が8月16日頃に発売! 先週に引き続き、著者の上條一輝さんへのインタビューを公開します。今回は改題の経緯についてお答えいただきました。インタビューの最後にはサプライズが……!



深淵のテレパス
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■応募時の題名から『深淵のテレパス』に決まるまで
『深淵のテレパス』として刊行が決まった拙作ですが、創元ホラー長編賞に応募した際のタイトルは『パラ・サイコ』というものでした。
供養のためにも、旧題の話を少々させてください。

本作は、作中の重要なテーマとして「超心理学」を扱っています。そして超心理学を英語ではParapsychology=パラサイコロジーと呼びます。
「パラサイコロジーをタイトルにしようか」
「いや、そのままだと、なんだか長いな」
「じゃあ、後ろを切って、キャッチーに『パラ・サイコ』にしよう」
そんな安直といえば安直な思考の果てに決まったのが、応募時のタイトルでした。
いや、実際にはもっといろいろと考えたのですが、タイトルというのは決まるときはあっさり決まるのに、浮かばないとなるととことん浮かばないもので、執筆中に仮題としてつけたものを結局正式に採用した、という経緯もあります。

ただ、応募してから受賞が決まるまでの1年弱の間、何度も目にしていると単純接触効果もあってか、だんだん良いタイトルに思えてくるものです。
「ポップさと不穏さを兼ね備えた語感がステキ」
「映画化したときに予告編の最後でタイトルが読まれるときの脳内再生まで余裕」
などと自画自賛していたのですが、いざ受賞となり蓋を開けてみれば、編集者や周囲の人々から「作品の内容がわかりづらい」「サイコホラーと誤認しそう」「半地下の家族がチラつく」などと目の覚める意見を多々もらい、結果改題する運びとなりました。

ここからが大変です。
書いているときから思いつかなかったタイトルが、そう簡単に浮かぶはずもありません。それに、執筆時はただの応募原稿の一つだったものが、今度は東京創元社さんの商品となるわけです。生ぬるいタイトルをつけて会社に損失を出した日には、二度と飯田橋に足を踏み入れることはできないでしょう。
毎日朝から晩まで暇さえあればタイトルのことを考え、使えそうなフレーズが思いつけばメモをしていく日々が始まりました。
編集者と2時間ほど膝を突き合わせて会議をしました。決まりませんでした。
“タイトル感”を養うためにと大型書店に行って、小説の棚を端から端までチェックしました。目が疲れただけでした。

そんななかで出てきたタイトルの1つが、『深淵のテレパス』でした。
発案時は「思いついた!これだ!」という感覚ではなく、「まあ、数多ある案の中では“あり得る”な……」というぐらいの手応えでした。
しかし思考が4周も5周もしてくるうちに、だんだんと「あれ?これ正解では?」と思うようになりました。
『深淵のテレパス』で行きましょう」と編集者と合意が取れた日には、文字通り胸のつかえが取れる思いでした。もうタイトルのことを考えなくてもいいんだ! 俺は自由だ!

今、次なる作品を執筆し始めています。タイトルが全く浮かびません。助けてください。



■上條一輝(かみじょう・かずき)
1992年長野県生まれ。早稲田大学卒。現在は会社員の傍ら、webメディア〈オモコロ〉にて加味條名義でライターとして活動している。『深淵のテレパス』(応募時タイトル「パラ・サイコ」)で創元ホラー長編賞を受賞しデビュー。

■『深淵のテレパス』書誌情報
書名:深淵のテレパス(しんえんのてれぱす)
著者:上條一輝(かみじょう・かずき)
判型:単行本(四六判並製)
定価:1,650円 (本体価格:1,500円)
頁数:255ページ
装画:POOL
装幀:岡本歌織(next door design)
発売日:2024年8月16日 ※地域・書店によって前後する場合がございます

深淵のテレパス
上條 一輝
東京創元社
2024-08-16