【INTERVIEW 期待の新人】
『ぼくらは回収しない』真門浩平(ミステリ・フロンティア)
ミステリーズ!新人賞受賞作を収録した鮮烈な作品集、『ぼくらは回収しない』を上梓した真門浩平さんにお話を伺いました。(『紙魚の手帖』vol.16 APRIL 2024より)
──最初に、簡単な自己紹介をお願いします。
真門浩平(まもんこうへい)と申します。一九九九年生まれで、回答時点で大学院生です。
──真門さんは二〇二二年、「ルナティック・レトリーバー」で第十九回ミステリーズ!新人賞を受賞されました。小説を書きはじめた時期・きっかけと、投稿歴を教えていただけますか?■
小学校中学年の頃から、はやみねかおるさんによる児童向けのシリーズなどを真似した小説を書いていました。オリジナルの推理小説を書き始めたのは中学校に上がってからです。二年生のときに「一年以内に世に出さないと成立しなくなるトリック」を思いついたため、慌ててパソコンの使い方を覚え、メフィスト賞に長編を投稿したのが最初でした。
ミステリーズ!新人賞には第十一回から挑戦しており、春までに短編を一本書いて応募するのが毎年の恒例行事になっていました。
──小説を書くのが楽しいと最初に気づいた瞬間(シチュエーション)を覚えていらっしゃいますか?
当時何を思って小説を書いていたのかあまり覚えていないのですが、読むことの延長として書くことが自然にあり、時間を忘れて紙に鉛筆を走らせていました。
ミステリを書く上で楽しさを感じるタイミングには個人的に二つのピークがあって、メインとなるアイデアが浮かんだときと、名探偵に推理を披露させているときです。
──中学時代から投稿を始め、第十三回にも最終候補になっていますね。当時の贈呈式の動画が公開されており、法月綸太郎(のりづきりんたろう)さんが講評の中で、真門さんについては「もう一回り大きくなって応募してくる」と触れていらっしゃいますね。
愛読していた先生方からの選評を拝読し、大変感激したことをよく覚えています。あと一歩だったことは残念に思ったものの、講評でいただいた言葉はその後の励みになりました。結果的には受賞までにさらに六年かかりましたが、確実に必要な時間だったのだと思います。名称が変わる前の最後の回に間に合ったことには、不思議な縁を感じました。
──勉強や部活動、受験などの進路選択でも忙しかったと思いますが、執筆と両立できたコツはありますか?
短編や掌編を年に数本というやや遅いペースで書いていたので、時間的にはあまり負担になりませんでした。学校生活や受験勉強で得た知識がトリックのタネになったり、長文の執筆に慣れていることが学業に活きたりと、相乗効果があったように感じます。
もちろんデビューしたい気持ちはありましたが、そもそもは誰に見せるでもない自己満足の趣味なので、「何も書きたいものがなかったら書かなければいい」と考えるようにしていました。書き続けられたのは、毎年投稿すると決めていたミステリーズ!新人賞がペースメーカーになってくれたおかげもあると思います。
──二〇二三年には新人発掘プロジェクト「カッパ・ツー」の第三期でも選出されました。昨年十二月に刊行された『バイバイ、サンタクロース 麻坂(まさか)家の双子探偵』について、どのような内容かご紹介いただけますか?
対照的な性格を持った頭脳明晰(めいせき)な双子の小学生が活躍する、全六話の連作短編集です。彼らが成長するのにともない、直面する事件は重大で複雑になっていきます。ライトな印象のあるタイトルですが、本格ミステリ好きの方にぜひ読んでいただきたい、推理小説的な試みを詰め込んだ一作です。
──『バイバイ、サンタクロース』は連作短編集、そして今回刊行になった『ぼくらは回収しない』(以下本書)は独立短編集です。真門さんの考える短編ミステリの魅力を、連作の場合と独立短編集とで、それぞれ教えてください。
ストーリーや世界設定にどっぷり浸かれる長編に対し、短編は発想の部分を純度の高いまま楽しめる形式だと感じます。ミステリの醍醐味(だいごみ)である解決編がすぐにやってくるのも魅力です。連作短編集は同じ設定・趣向での展開の仕方、独立短編集は一冊の中の多彩なバリエーションに見どころがあると思います。
ストーリーや世界設定にどっぷり浸かれる長編に対し、短編は発想の部分を純度の高いまま楽しめる形式だと感じます。ミステリの醍醐味(だいごみ)である解決編がすぐにやってくるのも魅力です。連作短編集は同じ設定・趣向での展開の仕方、独立短編集は一冊の中の多彩なバリエーションに見どころがあると思います。
──続いて、本書の収録順に沿ってお話をうかがいます。まず「街頭インタビュー」では、観察力の高さを自負する中学生が、クラスメイトの姉が巻き込まれたSNS上の炎上騒動の真相解明に挑みます。本作執筆のきっかけを教えてください。
YouTube に上がっていた街頭インタビューの動画に、ちょっとした違和感のある言い回しの真意を面白おかしく考察するコメントがついていたのを見て、「日常の謎」の一つの典型によく似ているなと思いました。そこから連想し、「街頭インタビューの炎上」という現代の受難から、推理の力で被害者を救い出す、という大筋を考えました。
※「街頭インタビュー」全編公開中です。ぜひお楽しみください!
──「カエル殺し」はお笑い大会前後で人生が変わっていったお笑い芸人たちの話です。昨今話題となった「蛙化(かえるか)現象」が登場しますね。
「蛙化現象」は若い世代の恋愛に関する用語ですが、その心の動き自体はいつ誰にでも起こりうるものなのではないか、という思いから題材にとりました。本作を書き始めた一年半近く前はまだ「蛙化現象」があまりメジャーな言葉ではなかったのですが、ここ一年で耳にする機会が急速に増え、流行語大賞にノミネートされるまでに広まったのは予想外でした。
今回の話に適した舞台として、お笑い業界を選びました。お笑いを見るのは趣味の一つです。
──「追想の家」は亡き祖父の遺品整理に出かけた浪人生が、小学生以来、久しぶりに訪れた書斎で発見した謎に挑みます。本作はどのようなことを意識して執筆しましたか?
全五編に共通して言えることですが、ミステリとしての仕掛けと物語の着地点が強く結びつくような作品を志向しました。本作は短編集の中で最後に書いたので、世代の異なる青年が主人公であるという統一感を保ちつつも、他の話と構成や設定が似すぎないように気を配りました。
密室殺人や整理された容疑者リストといったミステリらしい道具立てがない分、最も自然な話になったのではないかと思います。
──「速水士郎を追いかけて」では高校のサッカー部を騒がせた盗難事件が描かれます。繊細な感性を持ち、なかなかクラスに馴染めない探偵役と、サッカー部に所属し行動力のあるワトスン役、という設定に惹かれました。
近頃は性格診断がブームになるなど、生まれ持った性格の違いを自覚させられる機会が多いように感じます。本作執筆のきっかけは、とある性格上の属性がまるで「名探偵」の資質のようだと思ったことでした。性格が異なる人の間にすれ違いはつきものですが、すべてを理解し合うことができない中で推理可能な部分はどこなのか、というところに注目してもらえたらなと思います。
──最後に、「ルナティック・レトリーバー」は数十年に一度の日食の日、大学の学生寮で女子学生が亡くなった事件を描きます。密室状態の現場から自殺が疑われるものの、若くして作家として活躍し、孤高の存在だった彼女の死に納得できなかった寮生たちは、独自に事件を調べ始めます。
以前は謎解きのアイデアから逆算して話を組み立てることが多かったのですが、本作の場合は扱いたいテーマが先にありました。ミステリの形にできる方法を模索した結果、将棋や小説などの題材を取り入れ、就職活動を控えた大学生たちが密室に挑む話になりました。この推理や台詞(せりふ)を誰に語らせたら受け入れられるかと考え、最後に探偵役の造形が決まりました。
力を入れた部分を選考委員の方々に評価していただけたのは大変嬉しいことでした。初めて世に出た、思い入れのある一編です。
──続いて真門さんご自身についてうかがいます。お好きな作家と作品をそれぞれ教えてください。小説以外、影響を受けた映画、舞台、音楽などなんでもけっこうです。
小学生のとき、はやみねかおるさんの『名探偵夢水清志郎(ゆめみずきよしろう)事件ノート』や『怪盗クイーン』、『都会のトム&ソーヤ』といったシリーズに夢中になりました。中学生の頃に東野圭吾(ひがしのけいご)さんの〈ガリレオ〉シリーズや米澤穂信(よねざわほのぶ)さんの〈古典部〉シリーズなどを経て、最終的に行き着いた「新本格」の作品群に衝撃を受けました。島田荘司(しまだそうじ)さんの『占星術殺人事件』や麻耶雄嵩(まやゆたか)さんの『翼ある闇』、有栖川有栖(ありすがわありす)さんの『双頭の悪魔』などが印象に残っています。真に斬新なトリックや優れたロジックは、「よくできている」という感心や「そうくるか」という驚きを通り越して、感動を与えるのだと知りました。
最近ですと、白井智之(しらいともゆき)さん、早坂吝(はやさかやぶさか)さん、青崎有吾(あおさきゆうご)さん、阿津川辰海(あつかわたつみ)さん、今村昌弘(いまむらまさひろ)さん等の書かれる現代的な本格ミステリを好んで読んでいます。
小説以外であれば、YouTube などの動画コンテンツや脱出ゲームが好きで、影響を受けているかもしれません。
──今後書きたい題材や抱負などお聞かせください。
AIや数学など、学んできたことに近い理系的な題材に興味があります。今後もしばらくは短編が中心になるような気がしますが、まだまだ手探りの状態で、先がどうなるかはわかりません。
気軽に読めるけれどガツンとくるような本格ミステリを目指し、自分のペースで書き続けていきたいです。
──最後に、本誌の読者にメッセージをお願いします。
『ぼくらは回収しない』は、普段ミステリをよく読まれる方・あまり読まれない方の両方に楽しんでいただけたら嬉しいです。この娯楽に溢れた時代に、新人の本を手に取ってくださる方がいるとしたら、これほどありがたいことはありません。
まだまだ未熟者ですが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。応援していただけると大変励みになります。