お久しぶりです。SF班(弟)です。
去る2023年の12月、秋葉原の「シンカムイ」さんで催された、〈怪獣トークナイト〉というイベントにうかがいました。

会場とくらり

出演者は異色の怪獣小説を表題とした短編集『わたしたちの怪獣』で注目を浴びる久永実木彦さんと、怪獣対策のための専門省庁「怪獣省」が存在する世界を舞台とした『殲滅特区の静寂 警察庁怪獣捜査官』を上梓されたほか、『GODZILLA 怪獣惑星』のノベライズや、『ウルトラマンマックス』への脚本での参加など、これまでさまざまな形で怪獣と関わってこられた大倉崇裕さん。
おふたりには奇しくもイベント開催月に『七十四秒の旋律と孤独』『福家警部補の考察』を、それぞれ創元SF文庫と創元推理文庫から刊行されるという共通点もありました。
トークは主催の白樺香澄さんと、ミステリ評論家の荒岸来穂さんがインタビュアーとなり、Q&A形式で進められました。
今回はいくつかの質問を抜粋する形で、当日の流れを簡単にご紹介します。現地の雰囲気が少しでも伝わりましたら幸いです。

Q. 好きなウルトラシリーズベスト3は?
大倉さんのベスト3は「ウルトラマン」「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラマンティガ」
久永さんのベスト3は「ウルトラマン」「ウルトラセブン」「ウルトラマンタロウ」
それぞれ京都と九州という、異なる地域で幼少期を過ごされた大倉さんと久永さん。ウルトラシリーズに限らず、テレビシリーズは再放送で観ることが多かったようです。
観たいシリーズがなかなか観られない環境の中で、ムック本の写真から妄想をふくらませたり、目を皿のようにしてデッサンをしながら鑑賞したりと、思い入れの強さが伝わってくるお話がたくさんうかがえました。

Q. その中でも特に好きな話数は?
大倉さんが「二大怪獣 東京を襲撃」「決戦!怪獣対マット」「悪魔はふたたび」「恐怖の怪獣魔境」について、「上原正三さんの脚本回が好き。『前兆→怪獣の出現→人間ドラマ』という進行の中で、怪獣と人間ドラマがぴたりと一致している」と語られる一方で、久永さんは「侵略者を撃て」「ダーク・ゾーン」「ウルトラの母は太陽のように」の三作を挙げられ、「どうすればよかったのかがわからないような、解決不可能な共存テーマが好き」と冒頭二作について言及。「そういえば『七十四秒の旋律と孤独』もそういう話でしたね」とも。
そのほか「ウルトラの母:つり目派 vs. たれ目派論争」や、大倉さんが『ウルトラマンマックス』に脚本で参加された経緯などなど、大変盛り上がったコーナーでした。

Q. マイ・ベストゴジラは?
大倉さんのベストは「キングコング対ゴジラ」。「〇〇対△△」という構図のはじまりで、それまで重いテーマで描かれていたゴジラを明るく作ったことが決め手だとか。
久永さんのベストは「エメゴジ」(ローランド・エメリッヒ監督の、1998年版『GODZILLA』)。「獣環境」としてのマンハッタンのすばらしさ、携帯がない時代背景を反映した情報伝達の遅さなどのポイントを挙げられ、パニック映画的に楽しめるところもイチオシの理由なのだそう。

その後、話題は怪獣を扱った小説作品=「怪獣文芸」にも及び、大倉さんが怪獣文芸の傑作として太田忠司さんの「黒い虹」『怪獣文芸の逆襲』所収)を紹介され、「ぜひ怪獣だけで一本書いてほしい!」と、期待を寄せる一幕もありました。

ほかにも質問ややりとりの中で、「SF、ミステリと怪獣との距離感」といった、このおふたりならではのトピックが取り上げられたり、「怪獣を戦争や災害の象徴として描くこと」や、「怪獣を解釈しようとする想像力について」が話題になったりと、興味深いお話が尽きないイベントでした。

私自身の怪獣経験値はというと……ゴジラシリーズを何作かと、平成ガメラ三部作を観たくらいのささやかなものだったのですが、おふたりの執筆活動とも深く関わる怪獣トークに、時間を忘れて聞き入ってしまいました。登壇者、主催者のみなさま、あらためてありがとうございました!


わたしたちの怪獣 (創元日本SF叢書)
久永 実木彦
東京創元社
2023-05-31


七十四秒の旋律と孤独 (創元SF文庫)
久永 実木彦
東京創元社
2023-12-11