キャサリン・アーデン『塔の少女』(創元推理文庫 金原瑞人・野沢佳織訳 一四〇〇円+税)は、十四世紀半ば、モスクワ大公が台頭するロシアを舞台にしたファンタジイ三部作〈冬の王〉の第二巻。魔女の疑いをかけられ故郷にいられなくなり、冬の王から与えられた馬ソロヴェイと共に旅に出たワーシャ。旅の途中で盗賊に攫(さら)われた少女たちを助けたワーシャは、その流れからモスクワ大公の盗賊討伐隊に加わり、宮廷陰謀劇に巻き込まれて行くのだが……。北部の森の中で展開した前巻とは異なり、今回はモスクワが舞台。身の安全のために少年を装っていたワーシャは、貴族社会における女性への抑圧をつぶさに目撃することとなる。次巻で完結だが、ありのままに生きようともがくワーシャはどこに向かうのか、冬の王とのジレジレなロマンスの行く末も大いに気になる。
ドナ・バーバ・ヒグエラ『最後の語り部』(東京創元社 杉田七重訳 二八〇〇円+税)は、二〇二二年のニューベリー賞受賞作。移民宇宙船の中で起きた反乱と、その事態にひとり立ち向かう少女の闘いを描いたYASFだ。SFとして読むと古臭さは否めないが、祖母から語り部の力を受け継いだ少女が、原初の物語が持つ力――面白さや普遍性やイマジネーションを武器に、洗脳の壁をこじ開けて人間性を取り戻そうとする展開が刺さる。
ロイス・マクマスター・ビジョルド『魔術師ペンリックの仮面祭』(創元推理文庫 鍛治靖子訳 一六〇〇円+税)は、〈五神教〉世界を舞台に、若い魔術師のペンリックと、相棒(と言っていいのか些(いささ)か迷うが)デズデモーナたちが巻き込まれる事件を描いたユーモラスな短編集の三巻目。実年齢よりかなり若く見える美貌のせいもあり、次から次へと災厄(さいやく)を引き当てるペンリックは、《ヴォルコシガン・シリーズ》のマイルズくんとどこか似た星回りの持ち主。ファンタジイは苦手だからと、《五神教》シリーズを避けているマイルズファンにもお勧めしたい。
■三村美衣(みむら・みい)
書評家。1962年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。共著書に『ライトノベル☆めった斬り!』が、共編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』がある。