70周年記念ロゴ

あけましておめでとうございます。

恒例となっております、新年の特別企画。
2024年は東京創元社の創立70周年に当たる記念すべき年。今年刊行予定の書籍を2日にわたりお知らせします。元日の翻訳ミステリとノンフィクションのラインナップにつづき、本日はSFとファンタジイの予定をご案内いたします。

本年も東京創元社は引きつづき、読者の皆さまに良質な作品をご紹介してまいります。ご愛読のほど、なにとぞよろしくお願いいたします。

(日本語タイトルは一部を除き仮題です)



創元日本SF叢書・単行本・創元SF文庫の日本SF注目作

松樹凛(まつき・りん)『射手座の香る夏』(創元日本SF叢書、2月下旬刊)

意識転送技術を濫用し、危険で違法な〈動物乗り〉に興じる若者たち/少女の憂鬱な夏休みにある日現れた、“影”たちをつれた男の子/出生の〈巻き戻し〉が制度化された世界で、過ぎ去りし夏の日の謎を追う男性/限りなく夏が続く仮想現実世界で、自らの身体性に思い悩む人工知性の少年少女――夏を舞台とする四つの小説に、青春のきらめきと痛みを巧みに閉じ込めた、第12回創元SF短編賞受賞作を含むデビュー作品集。


空木春宵(うつぎ・しゅんしょう)『感傷ファンタズマゴリイ』(創元日本SF叢書、春刊行)
初作品集『感応グラン=ギニョル』『SFが読みたい!2022年版』の「ベストSF2021 国内篇」第3位、第2回みんなのつぶやき文学賞国内5位に選出。《異形コレクション》『夜のゆめこそまこと 人間椅子小説集』などにも名を連ね、ますます活躍の幅を広げる著者の第二短編集。

笹本祐一(ささもと・ゆういち)『星の航海者2 遥かな惑星』(創元SF文庫、春刊行)
恒星間記録員のメイアは、約200年ぶりに訪れたくじら座τ星の惑星ディープブルーで、開拓第6世代の惑星記録員ミランダと出会う。ミランダは宇宙勤務を忌避していたが……。著者の真骨頂たる宇宙SFシリーズ第2弾!

『紙魚の手帖 vol.18 Genesis』(A5判並製、8月刊)
2018年から2022年まで単行本で刊行された書下ろしアンソロジーシリーズ《Genesis》が東京創元社の総合文芸誌『紙魚の手帖』(しみのてちょう)に合流! 8月発売号をまるごとSFで彩る。創元SF短編賞受賞作、注目作家による書き下ろし短編、最新翻訳短編のほか、SFブックレビュー拡大版も。

円城塔(えんじょう・とう)『円城塔短編集』(創元日本SF叢書、夏刊行)
2008年刊の『年刊日本SF傑作選 虚構機関』(創元SF文庫)に収録された第50回群像新人文学賞二次選考通過作「パリンプセスト あるいは重ね書きされた八つの物語」と翌2009年刊の『超弦領域』(創元SF文庫)に異例の書き下ろしで収録された数学ハードSF「ムーンシャイン」に、『ミステリーズ!』vol.84掲載の「遍歴(エルゴディック)」、『紙魚の手帖』vol.12掲載の「ローラのオリジナル」を加えた全四編。

藤井太洋(ふじい・たいよう)『まるで渡り鳥のように 藤井太洋SF傑作集』(創元日本SF叢書、夏刊行)
時は22世紀。拡張現実(AR)の観測ステージを備えるラボで鳥の渡りを再現する研究者が選んだ道と、その先に広がっていた思いもよらない未来とは――海を越えて生息地へ渡る鳥、春節に故郷へ帰る華人、そして宇宙を縦横に渡る人類。時間と空間と種族を越えた「渡り」への想像力を、忘れがたい物語へと昇華させた表題作ほか、科学と人間と社会への希望と祈りに満ちたSF傑作集。

宮西建礼(みやにし・けんれい)『銀河風帆走』(創元日本SF叢書、夏~秋刊行)

地球に接近する小惑星の発見に際し、高校生のぼくらは衝突を防ぐための宇宙機計画に挑む(「もしもぼくらが生まれていたら」)。銀河風を受けて広大無辺の宇宙空間を飛ぶ探査機たち。銀河系を終焉に導く〈解体者〉に抗い、生命の存続を賭けて……(「銀河風帆走」)。大学在学中に第4回創元SF短編賞を受賞し、鮮烈な想像力を発揮しつづける俊英が満を持して放つ第一短編集。



高島雄哉(たかしま・ゆうや)『ホロニック:ガール』(創元日本SF叢書、夏~秋刊行)
2006年のテレビ放送以来、現在に至るまで愛され続けてきた、不朽のSFアニメシリーズ〈ゼーガペイン〉。そのスピンオフ作品として人気を集めた『エンタングル:ガール』(創元SF文庫)に引き続き、気鋭のSF作家が贈る公式小説第2弾。

柞刈湯葉(いすかり・ゆば)『記憶人シィーの最後の記憶』(創元日本SF叢書、秋刊行)
現生人類が滅びさったのち、〈別種〉と呼ばれる遺伝子改変者のみが暮らす未来の地球。人の営みの全てを後世へ手渡すべく、完全な記憶を与えられた少年シィーは、喋る黒猫エルとともに旅を続けていた――
『横浜駅SF』、『まず牛を球とします。』の柞刈湯葉の最新長編にして、『旅のラゴス』『ヨコハマ買い出し紀行』の系譜に連なる、ポストアポカリプス✕ロードノベルの新たな傑作!


八島游舷(やしま・ゆうげん)『天駆せよ法勝寺』(創元日本SF叢書)
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九重塔型の宇宙船が、佛理学の力によって恒星間を駆ける――大胆な世界設定で話題を呼んだ、第9回創元SF短編賞受賞作「天駆せよ法勝寺」。作中に登場する宇宙僧(コスモンク)たちの、若かりし日の活躍を大幅に増補した長編版がついに刊行。さらに奥行きとアイデア密度を増した、「佛(ほとけ)パンク」の世界がその全貌を現す。


 
秋田禎信(あきた・よしのぶ)『ノーマンズ・ソサエティー』(創元日本SF叢書)
記憶をリセットする技術が発達し、不都合があればすぐに以前の人格と記憶を捨て、新たな人間に生まれ変わることが常識となった、近未来の社会。なぜか何回リセットしても、お互いに関する記憶を夢で思い出してしまう少年《スコップ》と彼が恋する少女《小声》は、廃棄処置される直前、街の外から来た男・レールローダーの手引きで脱出する。しかし、ふたりに追っ手がかかる。なぜ、廃棄される子供にすぎないのに命を狙われるのか?彼らが見る夢の意味とは? 《魔術士オーフェン》の著者が描くSF長編。

 
創元海外SF叢書・単行本・創元SF文庫の海外SF注目作

ラヴィ・ティドハー『ロボットの夢の都市』(創元海外SF叢書、2月上旬刊)
Neom (2022) by Lavie Tidhar/茂木健 訳

太陽系を巻き込んだ大戦争から数百年。宇宙への脱出を夢見るジャンク掘りの少年、それ自体がひとつの街のような移動隊商宿で旅する少年、そして砂漠の巨大都市の片隅で見慣れぬロボットと出会った女性。彼らの運命がひとつにより合わさるとき、かつて一夜にしてひとつの都市を滅ぼしたことのある戦闘ロボットが、数世紀の眠りから目覚めて……世界幻想文学大賞作家が贈る、どこか懐かしい未来のSF物語。



セコイア・ナガマツ『闇の中をどこまで高く』(四六判並製、3月上旬刊)
How High We Go in the Dark (2022) by Sequoia Nagamatsu/金子浩 訳


【アーシュラ・K・ル=グイン賞特別賞受賞作】未知のパンデミックに襲われ、人々の絆や社会が崩壊しかけた近未来。余命わずかな子供たちを安楽死させる遊園地で働くコメディアンの青年、亡くなった人々との短い別れを提供するホテルの従業員、地球を離れて新天地をめざす宇宙移民船……ゆるやかに回復してゆく世界の中で、消えない喪失を抱えながら懸命に生きる人々の姿をオムニバス形式で描く、新鋭の第一長編。


『人新世SF傑作選 シリコンバレーのドローン海賊』(創元SF文庫、5月刊)
Tomorrow's Parties (2022) edited by Jonathan Strahan/中原尚哉 他訳


人新世とは、人間の活動が地球環境に長期的な影響を及ぼす時代、すなわちまさに現代のこと。パンデミック、世界的な経済格差、人権問題、資源問題、そして環境破壊や気候変動問題……未来が破滅的に思えるときこそ、SFというツールの出番だ。グレッグ・イーガンを始めとする気鋭の作家たちが不透明な未来を切り拓く、全11編のアンソロジー。



P・ジェリ・クラーク『精霊を統べる者』(創元海外SF叢書、夏刊行)
A Master of Djinn (2021) by P. Djèlí Clark/鍛治靖子 訳


19世紀中盤、魔術師アル゠ジャーヒズがジンの世界に穴を開けたことで、世界は一変した。ジンの魔法によりエジプトは急速に発展・繁栄するが、アル゠ジャーヒズは姿を消し、伝説と化した。それから40年後の1912年、カイロにアル゠ジャーヒズを名乗る仮面の男が現れ、彼を崇拝する人々を焼き尽くす。いったいどういうことか? エジプト魔術省の女性特別調査官ファトマが捜査に乗り出す。ネビュラ賞・ローカス賞・イグナイト賞受賞の傑作スチームパンク・ファンタジー!

アン・マキャフリー『歌う船[完全版]』(創元SF文庫、夏刊行)
The Ship Who... (1969-1999) by Anne McCaffrey/嶋田洋一 訳
金属の殻に封じ込められ、宇宙船の維持と管理に従事する各種の機械装置に神経シナプスをつながれたヘルヴァは、優秀なサイボーグ宇宙船だった――宇宙船の身体を持つ少女の冒険を描く伝説的傑作オムニバス長編に、シリーズ短編2編を追加収録し、完全新訳でお贈りする。

ジェイムズ・P・ホーガン『ミネルヴァ計画』(創元SF文庫、秋刊行)
Mission to Minerva (2005) by James P. Hogan/内田昌之 訳

100刷突破の大人気作品『星を継ぐもの』に始まるシリーズの第5弾にして最終巻がついに邦訳! シリーズ主人公のハント博士とダンチェッカー教授がマルチバースの謎に挑む。



レイ・ブラッドベリ『10月はたそがれの国【新訳版】』(創元SF文庫、秋刊行)
The October Country (1955) by Ray Bradbury/中村融訳


SFの抒情詩人ブラッドベリの名声を確立した最初の短編集『闇のカーニバル』全編に、5本の新作を加えた珠玉の作品集。後期のSFファンタジーを中心とした短編とは異なり、ここには怪異と幻想と夢魔の世界がなまなましく息づいている。※書影は宇野利泰訳版のものです


マーサ・ウェルズ『システムの崩壊』(創元SF文庫、冬刊行)
System Collapse (2023) by Martha Wells/中原尚哉 訳



冷徹な殺人機械のはずなのに、弊機はひどい欠陥品です――人間苦手、ドラマ大好きな“弊機”の活躍! 惑星調査任務での危機を辛くも脱した弊機に、息つく間もなく襲いかかる新たなトラブル。はたして弊機は、調査船ARTとともにドラマを楽しむ安逸な暮らしを実現できるのか? 日本翻訳大賞、ヒューゴー賞など計10冠、大人気《マーダーボット・ダイアリー》シリーズ第4弾!
単行本・創元推理文庫(F)の国内ファンタジイ注目作

庵野ゆき(あんの・ゆき)『竜の医師団1』(創元推理文庫F、2月刊)
この世は竜の創りしもの。竜のあるところに豊穣あり。だが竜が病みし時、彼らは破壊をもたらす。〈竜ノ医師団〉とは竜の病を退ける者。極北の国カランバス。虐げられし民ヤポネ人の少年リョウは、憲兵から逃れ必死で飛空船の発着場を目指していた。竜ノ医師団は治外法権、飛空船でたどり着き入団できれば、ヤポネ人でも道が開ける。発着場に向かう途中リョウは、上流階級のお坊ちゃんレオニートに出会う。彼も竜ノ医師団に入団したいというのだ。二人は協力して船に乗るが……。『水使いの森』で第4回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞の著者が贈る、竜の医師を目指す少年たちの物語。

庵野ゆき『竜の医師団2』(創元推理文庫F、3月刊)
筆記試験は零点ながら、竜との対峙でめでたく入団を勝ち取ったリョウ。だが、初等教育も受けていなかったため小学校から学び直す羽目に。一方レオニートは驚異的な記憶力と豊富な知識で楽々入団を果たすが、血を見るのが苦手で医者としては前途多難。そんな彼らを引き受けたのは破天荒な言動で周囲の度肝を抜く竜血管内科のニーナ科長だった。リョウは熱を観ることができるというヤポネ人の視力を武器に、レオと共に幾つもの症例に挑む。だがカランバスのディドウスは、最年長にして最大の竜、最期の時が迫っていた。生と死と医療のあり方を見つめる、異世界本格医療ファンタジイ。

廣嶋玲子(ひろしま・れいこ)『久蔵に隠し子がいた!?』(創元推理文庫F、4月刊)
「おとっつあん! 会いたかった!」おまきと名乗る少女は久蔵に飛びついてそう叫んだ。目に入れても痛くない双子の愛娘の目の前での出来事に呆然とする久蔵。だがよくよく話を聞いてみると、母親はかつて一緒に暮らしたことがある芸者。いろいろ事情はありつつも、まったく身に覚えがないわけでもない。とはいえ娘として迎え入れることはできないと、いったんはおまきを返したが……。久蔵の隠し子騒動に端を発した事態は、千吉や玉雪、果ては大妖たちまで巻きこむ大事に発展する。好調、お江戸妖怪ファンタジイ〈妖怪の子、育てます〉第4弾!

廣嶋玲子『ナルマーン年代記短編集』(四六版仮フランス装、秋刊行)
人間とは異なる姿、能力をもつ不思議な存在魔族を統べる三人の王と人との関わりを描いた異世界ファンタジイ『青の王』『白の王』『赤の王』からなる三部作。砂漠の都ナルマーンを舞台に繰り広げられる物語。本編では語られなかったあんなこと、こんなことが満載の短編集ついに刊行。

乾石智子(いぬいし・ともこ)『月鶯』(四六版上製、夏刊行)
人々がイーリアと呼ばれる不思議な獣たちと共存する平和なハスティア公国には、魔力を操るフォーリという人々がいた。ハスティアの地方領主の娘ジルは、幼いながらも強い力の持ち主で、試練を経てフォーリとしての道を歩み始める。そんなとき、竜の血を引くといわれるドリドラヴ王国の王子たちがハスティアの冨と力に目をつけた……。『夜の写本師』にはじまる〈オーリエラントの魔道師〉シリーズで、自らの内に闇を抱える魔道師たちの姿を描いてきた著者渾身の書き下ろしファンタジイ。

松葉屋なつみ(まつばや・なつみ)『あやかしがかり捕り物帳1』(創元推理文庫F、冬刊行)
南町奉行所の与力言永藤十郎は、最近妻を娶ったばかり。妻の玉世は、美しく淑やかで、まさに理想の妻だった。だが、玉世の正体は狐だった。かつて藤十郎に助けられた狐が藤十郎恋しさのまり人間に化けていたのだ。藤十郎は名うてのあやかぎらい、ばれたら絶対側にいられない、必死で正体を隠す玉世だったが、藤十郎が上役から裏江戸とよばれるあやかし別天地の見回り役に任じられたことから……。『星砕きの娘』の著者が描くお江戸あやかし捕り物帳。

松葉屋なつみ『あやかしがかり捕り物帳2』(創元推理文庫F、冬刊行)
あやかし嫌いの与力どん、こと言永藤十郎。だが自分の女房の玉世が実は狐であることにはまったく気づいていなかった。裏江戸ことあやかし別天地の見回りにも慣れてきた藤十郎だったが、江戸の街に疫病が流行り、どうやら正体不明のあやかしがからんでいるらしいとの情報を得る。藤十郎の捜査の裏で、なんとか愛する夫に手柄をたてさせたい玉世は……。お江戸あやかし捕り物帳第2弾。


単行本・創元推理文庫(F)の海外ファンタジイ注目作

イヴリン・スカイ『ダムゼル』(創元推理文庫F、3月刊)
Damsel (2023) by Evelyn Skye/杉田七重 訳
貧しいイノフェ公国のプリンセス、エロディに、豊かな島国オーリア国の皇子から結婚の申し込みがあった。結婚と引き換えに国を援助してくれるというのだ。実際にオーリア国に行ってみれば、王子はうっとりするほど素敵だし、豪華な婚礼衣装、贅沢な料理といいことづくめ。だがエロディは、どこか違和感を感じていた。そして結婚式の夜……。貧乏国のプリンセスが機知と勇気で運命を切り開く、Netflix映画原作の異世界ファンタジイ。


ケヴィン・ブロックマイヤー『いろいろな幽霊』(四六判並製、4月刊)
The Ghost Variations (2021) by Kevin Brockmeier/市田泉 訳

失恋した瞬間を永遠に繰り返す幽霊、雨となって降り注ぐ幽霊、方向音痴の幽霊、瞬間転送装置が生み出す幽霊……イタロ・カルヴィーノ短編賞受賞作家が贈る、時に切なく、時におかしく、そして時にはちょっと怖い幽霊たちの物語を100編収めた不思議な短編集。


トラヴィス・バルドリー『伝説とカフェラテ』(創元推理文庫F、5月刊)
Legends & Lattes (2022) by Travis Baldree/原島文世 訳

珈琲店を開きたい。それがヴィヴの夢だった。苦楽を共にしてきた傭兵仲間に別れを告げ、最後の冒険の戦利品である幸運の輪を引き寄せるというスカルヴァートの石を持って、いちから店作りに着手する。廃屋同然の厩を買い取り、気むずかし屋だが腕は確かな船大工を雇って改装。見慣れない飲み物に最初は閑古鳥が鳴いていた店も、募集広告を見てやってきた店員が描いたセンス抜群の看板や、隠れた天才パン職人のつくるうっとりするようなパンや菓子のおかげで、次第に繁盛しはじめるが……。ネビュラ賞最終候補の心温まるコージーファンタジイ。


ジョセフ・オコーナー『シャドウプレイ』(四六版上製、5月刊)
Shadowplay (2019) by Joseph O'Conner/栩木伸明 訳
主人公は劇場支配人ブラム・ストーカー。そして大人気俳優のヘンリー・アーヴィングと名優エレン・テリー(いずれも実在の人物)。劇場を舞台にした三人の人生を回顧するかたちで描くと同時に、ストーカーの内部で『吸血鬼ドラキュラ』がいかに生まれ、育ったのかの物語でもある。実際に、ドラキュラ伯爵はこの小説の影の主人公といってもいい。作家ストーカーの無意識の中で小説が形をなしていくにつれ、ドラキュラが影絵の芝居(Shadowplay)のように現実に影を落とし始める。


マリー・ルイーゼ・カシュニッツ『カシュニッツ短編傑作選2』(四六判上製、春刊行)
Selection of Stories vol.2 by Marie Luise Kaschnitz/酒寄進一 訳
死んだはずの養子に常に見張られていると主張し、家中の戸締まりを厳重にする妻。夫の会話から見えてくる真実とは……(「雪解け」)。ある女性は、日記に身体の痛みをだんだん感じられなくなっていくと綴っており……(「火中の足」)。誘拐された少年を見つけ出すことに取り憑かれた女性は、どこにいるときも常にその少年を探してしまい……(「幸せでいっぱい」)。
日常のなかに入り込み、迫ってくる幻想。人間心理の恐ろしさ、歴史がもたらす悲劇など全15編。戦後ドイツを代表する女性作家の粋を集めた『その昔、N市では』に続く日本オリジナル傑作短編集!

ジョン・コナリー『失われたものたちの国』(四六判並製、初夏刊行)
The Land of Lost Things (2023) by John Connolly/田内志文 訳
8歳になる娘とふたり暮らしのセレス。ある日、娘が交通事故に遭ってしまい、意識不明となってしまう。娘はある施設に移されるが、そこはかつて『失われたものたちの本』を書き、失踪してしまった作家が建てた家だった。ある晩、娘の容態が急に悪化し、施設の屋根裏部屋から突然得体の知れない「何か」が現れる。セレスは慌てて外へ出て、古い木のうろを通り抜け、異世界へと入り込んでしまう。そこは狼男や魔女、巨人やマンドレイクといった、おとぎ話や神話の登場人物たちが蠢く恐ろしい世界だった。セレスは無事に異世界を脱出し、娘の意識を取り戻す手がかりを得ることができるのか? 本にまつわる異世界冒険譚『失われたものたちの本』続編!


ホフマン、ブレンターノ他『ドイツロマン派怪奇幻想短編集』(創元推理文庫F、夏刊行)
遠山明子訳
ドイツロマン派の著者たちによる、無気味な話、幻想的な話、不思議な話を集めた短編集。めくるめく悪夢の世界にご案内します。

ジョン・コナリー『キャクストン私設図書館』文庫化(創元推理文庫F、秋刊行)
Night Music: Noctones 2 (2015) by John Connolly/田内志文訳
ある日、本好きのバージャー氏は奇妙な体験ののちに〈キャクストン私設図書館&書物保管庫〉に辿り着く。初版本と手稿本を所蔵するこの古びた図書館には、アンナ・カレーニナ、ハムレット、シャーロック・ホームズなど、本から抜け出して“実体化”した名作の登場人物が住んでいた。図書館の秘密を知ったバージャー氏は〈物語〉の世界を揺るがすある計画を思いつき――。本好きの功罪を優しく切なく魅力たっぷりに描き、アメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞とアンソニー賞を受賞した表題作に加え、同じく〈キャクストン私設図書館〉の“もっとも不可思議なできごとのひとつ”に数えられるシャーロック・ホームズにまつわる逸話、世界各国で話題の異世界冒険譚『失われたものたちの本』のスピンオフ短編、触れた者に次々と怪奇現象が起きる奇書をめぐる中編の全4作を収録。非日常の世界に没頭する楽しみをじっくり味わえる、本や物語をテーマにした作品集!(書影は単行本のものです)

メグ・シェイファー『願いの島』(四六版並製、秋刊行)
The Wishing Game (2023) by Meg Shaffer/杉田七重 訳
大好きな児童書作家から届いたゲームへの招待状。それがルーシーの運命を変えた! ベストセラーの児童書シリーズで巨万の富を得た作家ジャック・マスターソンは、孤島に住み、そこに自分の作品〈クロック・アイランド〉シリーズさながらの世界を再現して暮らしていた。天涯孤独なジャックは、これまで自分にファンレターで悩みを相談してきた子供たちのなかからとくに心に残った人物を4人選んで孤島に招待し、「ウィッシングゲーム」というゲームを主催することにしたのだ。勝者には〈クロック・アイランド〉シリーズの最新作の印税がプレゼントされる。それぞれに事情をかかえる参加者たちはゲームをクリアできるのか。ハートウォーミングなラストに心洗われる作品。


エドワード・ケアリー『イーディス・ホラー』(四六版上製、冬刊行)
Edith Holler (2023) by Edward Carey/古屋美登里 訳
語り手の「わたし」はノリッジの町に住む12歳の少女、イーディス。病弱で家の外に出られないので、毎日ベッドから外を見ている。イーディスが住んでいるのは曾祖父の名声で有名になったホラー劇場。イーディスの父で劇場主のエドガーが、4回目の再婚した相手は、悪徳商人として知られるアッティングの娘だった。劇場の資金援助のための結婚。イーディスは継母になじめずにいた。実はイーディスは劇場と結びついていて、彼女が一度でも出たら劇場は崩壊すると言われていた。ところが、継母はなんとかしてイーディスを外に連れ出そうとする。父と継母の結婚で部屋を奪われ、地下の台所のそばに追いやられるイーディス。なんと父も行方不明になってしまったのだ。著者による挿絵多数。


フランシス・ハーディング、エミリー・グラヴェット絵『ささやく島』(四六版上製、冬刊行)
Island of Whispers (2023) by Frances Hardinge/児玉敦子 訳
死者がとどまると言われる島で、死者たちを次の世界の入り口となる〈壊れた塔〉の島へ送り届ける役目を担っているのが渡し守だ。マイロはそんな渡し守の息子で、兄レイフと共に次の渡し守を継ぐ存在だった。だが、マイロは死者の気持ちに寄り添いすぎて心を開いてしまうため、渡し守に剥いていないと父に言われていた。好奇心からでも、死者の顔をひと目見てしまったら、致命的なことになるからだ。そんなある日、領主のまだ若い娘が死んだが、領主は納得せず黒魔術に頼って生き返らせようとしていることがわかる。マイロの父は領主の娘を〈壊れた塔〉の島へ送ろうとするが、領主の護衛ともみ合って命を落としてしまい、兄も囚われてしまう。死者たちを送っていけるのはマイロだけ。マイロは無事に渡し守の役目を果たすことができるのか。


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(2024年1月2日)