11月6日はアパート記念日です。
東京の上野に日本初の木造アパートが建てられたことが由来だそうです。
そこで本日は、アパート小説3冊を紹介させていただきます。

『三の隣は五号室』(長嶋有)

アパートの日と聞いて真っ先に思い浮かんだのがこの小説です。
東京近郊にある第一藤岡荘というアパートの5号室に、半世紀の間に住んだ歴代住人達の暮らしを描いた作品です。ガス栓に残されたゴムホースややたらと響く雨音など、この部屋に特有だがなんてことない出来事を通してそれぞれの時間で生活する互いに面識のない住人たちをつないでいきます。
引っ越したら忘れてしまうような、懐かしいとすら思わないような出来事を丁寧に広い集めて書かれた本作に流れる時間は、アパートで暮らしたことがある人なら誰しもが心地よく感じるのではないでしょうか。

第66回群像新人文学賞受賞作である『もぬけの考察』も同じ部屋を軸に、面識のない住人たちが抱えるそこはかとない不穏を描いた連作短編集です。ホラーのような読み味もありとても面白いです。ただこちらはマンションなのですが……。

『天井裏の散歩者 幸福荘殺人日記』(折原一)

ミステリにも面白いアパート小説があります。
舞台となる幸福荘というアパートは、小説家志望者たちが住むトキワ荘のような状態になっています。なぜなら幸福荘の202号室には南野はるかという大御所作家が住んでいるのです。そんな南野の周辺で起こる奇妙な事件を描いた連作短編集です。
『三の隣』とは打って変わって、日常が営まれるはずのアパートという空間で異常が起こる本作。詳細を書くとネタバレになりかねないので避けますが、とても折原さんらしい作品になっているのでアッと驚きたい人におすすめしたい一冊です。
昨年刊行された『グッドナイト』も折原さんらしい作品で、「メゾン・ソレイユ」というアパートに住む不眠で悩む住人達を描いた連作短編集です。こちらもあわせてぜひ。


tamayura


小社が昨年から刊行を始めた創元文芸文庫からも一冊。
本作は軽度の潔癖症である主人公の女性が部屋の鍵を出先に忘れて部屋の前で途方に暮れていると、隣人から「よかったら、うち泊めますけど」と思いがけない提案をされたことをきっかけに交流が始まる王道の恋愛小説です。

壁一枚を隔てた隣人に恋心を抱く……これはこれで『三の隣』とも『天井裏』とも異なる非日常ではありますが、著者の軽やかな筆致で時折見せるユーモアや細やかな心情の機微を掬い取る手つきが鮮やかで、するすると読ませます。二人の恋愛の行方が行き着く先を、どうぞ見届けてください

著者は、年齢や立場の違う女性二人の絆を描いた『黒蝶貝のピアス』を4月に、そして11月15日にはポプラ社より『苺飴には毒がある』の刊行が控えております。精力的に執筆をする砂村さんに注目です!


黒蝶貝のピアス
砂村 かいり
東京創元社
2023-04-19


アパートたまゆら (創元文芸文庫)
砂村 かいり
東京創元社
2023-05-31


三の隣は五号室 (中公文庫 (な74-1))
長嶋 有
中央公論新社
2019-12-19