ぼくと、ぼくらの夏

ようやく11月になり日中も涼しい日も多くなってきましたが、10月だというのに夏日の日も多く、日本の四季が二季に変わってしまうのではないかというニュースを目にしました。暑い夏休みの物語『ぼくと、ぼくらの夏』が刊行となりました。夏好きの樋口有介さんが、夏を惜しんでいるような気がしてなりません。
著者の樋口さんが沖縄のご自宅でお亡くなりになって、もう2年が経とうとしています。

『ぼくと、ぼくらの夏』は、樋口さんのデビュー作。1988年の第6回サントリーミステリー大賞読者賞でのデビューです。主な同年デビューは、折原一さん、歌野晶午さん、法月綸太郞さんで、ちょうど新本格勃興期にあたります。二度の映像化もされ、映画版のヒロインは若き日の和久井映見さんがつとめました。

さて、『ぼくと、ぼくらの夏』は、『風少女』『林檎の木の道』を創元推理文庫に収録する際に、一緒に刊行を試みたのですが、文春文庫さんでの新装版が進んで断念したという経緯があり、念願の刊行となりますので担当としては非常に嬉しく思います。残念なのは、それを樋口さんご自身にお目にかけられなかったことでしょうか。

あらすじはこちらに。

夏休みの朝、暑さと蝉の声で目醒めた戸川春一は、同級生・岩沢訓子が自殺したことを、刑事の父親から知らされる。その日の午後、酒井麻子と出会ったことで、春一は二人で訓子の死の理由を探る羽目に。二人はバイクで同級生たちを訪ねて証言を集め、事件を調べていくと、本当に自殺だったのか疑問が湧き始め……。瑞々しい文体と気だるい空気感が魅力の、青春ミステリの決定版。

解説には、恐らく最後のロングインタビューをされた吉田大助さんにお願いしました。週刊文春の人気企画「新・家の履歴書」でのものでしたから、沖縄のご自宅まで伺ったとのこと。詳しくは、解説とwebに転載されたものをお読みいただければと思います。幹線道路から少し入った、趣のある平屋でした。茣蓙がひかれた、居心地のいいお部屋だったことを記憶しています。

また、青春ミステリとはいっても、樋口さんの主人公は、どこか鬱々とした暗さを持った若者がつとめることが多く、実際本作の主人公・戸川春一は、刑事の父親との二人暮らしで、家事全般をこなす、どこか影のある少年として描かれます。そうした、どこかアンニュイな雰囲気をイラストレーターのげみさんに、夜のシーンとして描いていただきました。
今作の刊行で、樋口さんのデビューからのミステリ作品三作が揃いました。本書『ぼくと、ぼくらの夏』、第二作『風少女』、第三作『彼女はたぶん魔法を使う』です。

夏の気配のある今年、ぜひお読みいただければと思います。
そして、冬の寒い時期にはぜひ『風少女』を。