白鷺(しらさぎ)あおい『赤ずきんの森の少女たち』(創元推理文庫 一一〇〇円+税)は、一冊の本によって、現代の日本と、大空襲の神戸(こうべ) 、そしてドイツの寄宿学校がリンクする、タイムファンタジーだ。


 祖母の十三回忌の席で、高校生のかりんと、大学生の慧(けい)のふたりは、叔父から祖母の遺品である一冊の洋書を渡される。祖母はドイツ人だったが、神戸の大空襲で家族を失い、ひとりさまよっていたところを、戦争で子供を失った曾祖母に引き取られた。祖母が大切にしていたドイツ語の児童書の内容に興味を覚えたふたりは、その本を翻訳して読み進め、祖母が秘めていた出自を知ることとなる。ドイツ語の本の内容は、一九世紀のドイツのドレスデン近郊の寄宿学校を舞台にした少女小説だ。女の子三人による少女探偵団ものだが、ホワイダニットな謎解きに、グリム童話を下敷きにした幻想、それに第一次世界大戦へと向かう歴史の流れが絡み、未来を予知する謎の文書、神戸とドレスデンのからくり人形の相似、赤ずきんの伝承など、盛りだくさんの伏線が見事に回収されアクロバティックなタイムファンタジーへと着地する。その反面、日本人の養女となって以後の祖母の生涯がいまひとつ弱いところが勿体ない。

 オリヴィー・ブレイク『アトラス6(上下)』(ハヤカワ文庫FT 佐田千織【さだ・ちおり】訳 各一二〇〇円+税)は、もとはセルフパブリッシングで刊行されたものだが、TikTok に紹介動画が続続と上げられて話題となった作品。amazonプライムでのドラマ化も決定している。


 舞台は人間と魔法使いが同居する現代だ。この世界ではアレクサンドリアの図書館が、秘密裏に再生されており、魔法使いで構成される秘密結社によって守られ続けている。あらゆる知を集積し続ける図書館へのアクセス権をかけた、六人の若き魔法使いの戦いが描かれるのだが、脱落するのは一名。そしてその一名を彼ら自らが選ばなければならないという選考ルールがミソで、単純な力比べではなく、共闘や派閥争い、探り合いなど、エグい駆け引きが続く。三部作の開幕編ということもあってまだ導入部分という印象は拭(ぬぐ)えない。魔法を産み出す装置性や幻想のようなファンタジー的な魅力は弱いものの、六人の候補者が持つ能力のスケールは大きく、物語としての先の展開を期待させる。


■三村美衣(みむら・みい)
書評家。1962年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。共著書に『ライトノベル☆めった斬り!』が、共編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』がある。

紙魚の手帖Vol.11
熊倉 献ほか
東京創元社
2023-06-12


赤ずきんの森の少女たち (創元推理文庫)
白鷺 あおい
東京創元社
2023-02-13