こちらは二年ぶりの書き下ろしオリジナル・アンソロジー『NOVA2023年夏号』(大森望責任編集 河出文庫 一二〇〇円+税)は、執筆者を全員女性作家で揃(そろ)えた「おそらく日本SF史上初」の試みとのこと。もっとも内容的にはドタバタだったりゲーム小説だったり時代ものだったり、いつも通りバラエティーあふれる日本SFの現在形を感じさせる作品群だ。琥珀(こはく)に言葉を封じる技術が発明され、誰も愛したことがない語り手の作った琥珀の美しさについて、やや皮肉っぽいAIと思弁的でエモーショナルな問答を繰り広げる「さっき、誰かがぼくにさようならと言った」(最果【さいはて】タヒ)、宇宙開発で重宝される宇宙ロバ専門の医者に、逃亡したロバの探索依頼がきて、相棒の人生に疲れた中年男、傭兵(ようへい)、ロバ、老いぼれの物乞いなど多視点で描く渋みのあるハートウォーミングな宇宙SF「デュ先生なら右心房にいる」(斧田小夜【おのだ・さよ】)、バイクの高校生が海で青い鹿のような異星人と接近遭遇する「ビスケット・エフェクト」(勝山海百合【かつやま・うみゆり】)、先日、鮮烈な初のSF短編集『回樹』を早川書房から上梓した特殊設定ミステリの鬼才による、異常なロジックで殺人の順列組み合わせが延々行われる時間ループもの「ヒュブリスの船」(斜線堂有紀【しゃせんどう・ゆうき】)など全十三編を収録する。


 フランチェスカ・T・バルビニ&フランチェスコ・ヴァルソ編『ノヴァ・ヘラス ギリシャSF傑作選』(中村融【なかむら・とおる】他訳 竹書房文庫 一三六〇円+税)は、イタリア人の編者による、二〇一七年にギリシャで出版された「未来のアテネを想像する」という企画のアンソロジーを、ギリシャ人の翻訳者が英訳し、英語圏で既発表の作品を加え刊行したものの日本語全訳。過酷なギリシャの歴史と現状を背景にした作品は、どれもいわゆるディストピア的な世界を舞台にしているが、登場人物はみな強(したた)かにいまをサバイヴしていて読後感は非常に気持ちがいい。水没したアテネで貧困から抜け出すために危険なダイバーのアルバイトをしているアルバニア移民の女学生が、大企業の秘密の計画に気づく「ローズウィード」、仮想現実で知り合った愛人と逢引(あいびき)していたのは彼女の知らないもう一つのアテネだった、という「バグダッド・スクエア」、特殊な疾病についての研究所で、ある医師がスパイ騒動をきっかけに隠蔽された事実を知る、世界の逆転が鮮やかな「いにしえの疾病(やまい)」、色が喪失した世界での殺人を前衛的な技法を用いた多視点で描くハードなSFミステリ「わたしを規定する色」など、甲乙付け難(がた)い粒揃いの作品十一編を収録。


 最後に評論を。冬木糸一(ふゆき・いといち)『「これから何が起こるのか」を知るための教養 SF超入門』(ダイヤモンド社 一八〇〇円+税)は、「人工知能」や「ジェンダー」など現代社会でよく目にする十七のキーワードをテーマにした名作SF五十六作品を解説し、さらにそこから繫がるフィクション、ノンフィクションを併記した読書案内を付した「教養としてのSF」を意識したガイドブック。作品の傾向を示すチャートが添付されているなど、非常に明快な読解が展開されていて、初読者はもちろん、既読者も読んだことのある本を著者がいかに紹介しているかを楽しみながら読める。



■渡邊利道(わたなべ・としみち)
作家・評論家。1969年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。2011年「独身者たちの宴 上田早夕里『華竜の宮』論」が第7回日本SF評論賞優秀賞を、12年「エヌ氏」で第3回創元SF短編賞飛浩隆賞を受賞。

紙魚の手帖Vol.11
熊倉 献ほか
東京創元社
2023-06-12