作品の世界を「本」という形にして表現する職業、装幀家。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
印象に残った装幀を数点取り上げ、装幀家の方々にそこに秘めた想いや秘密を伺うリレー連載です。
■アルビレオ
西村真紀子(神戸出身)と草苅睦子(山形出身)。2008年、鈴木成一デザイン室を経て設立。手掛けた作品に、辻堂ゆめ『トリカゴ』(東京創元社)や本誌〈紙魚の手帖〉などがある。
http://www.albireo.co.jp/
縁あって明治学院大学白金(しろかね)キャンパスで開催されたフランス文学会のシンポジウムに登壇しました。テーマは「なかなか絶滅しない紙の書物について」。羊皮紙研究家の八木健治(やぎ・けんじ)さん、作品社の青木誠也(あおき・せいや)さんとともに、それぞれの立場から今と昔の本づくりについて話をしました。八木さん、青木さんの専門的な分析や出版界の未来を見据えた希望あるお話は興味深く、貴重な時間を共有させていただきました。
大学本館の中央には二階から七階まで図書館がありました。シックで居心地の良いこの図書館を囲むように講義室や研究室が配置されていて、大学が蔵書をとても大切にしていることが窺えました。
シンポジウムの目玉としてボードレールの『悪の華』初版本(!)のお披露目(ひろめ)がありました。炎の形のタトゥーのような空押(からお)しが施された漆黒の革表紙、本を開くと毒々しい赤の見返し、小口(こぐち)には金がベタリと刷られ、まさに〝悪〞を体現しているような装幀。当時希少かつ高価だった本は、所有者が替わる度に好みの装幀に変えられていました。一八◯◯年代の装幀職人の仕事が、所有者の好みを反映しながら本の中身を閉じ込めることだったなら、対して現代の装幀は内容を全く知らない不特定の読者に向けて、本の中身を開示することに変わってきたように思います。そんな中でタイトルロゴは、本の印象に大きく関わる重要な要素と言えるでしょう。
『悪口と幸せ』は、時代を越えて存在する家族やルッキズムの問題を描く姫野(ひめの)カオルコさんの連作小説集です。装画に倉崎稜希(くらさき・りょうき)さんの作品をお借りして、寓話的な表現をプラスしました。タイトルの加工も作品に合わせてじんわり焦げてしまった感じに。
姫野カオルコ(光文社/2023年)
装画:倉崎稜希 四六判
姫野カオルコ(光文社/2023年)
装画:倉崎稜希 四六判
『Row&Row』は、村山由佳(むらやま・ゆか)さんの最新長編。水にたゆたうようなロゴに、主人公のただ流されるのではなく前進したいという気持ちも込めて。官能的でクラシックな雰囲気をめざしました。
川奈まり子(かわな・まりこ)さんの『家怪(いえかい)』はめちゃくちゃ怖い怪異譚。異界との境目がないような住宅街は山谷佑介(やまたに・ゆうすけ)さんの写真です。怖い話の場合、タイトルロゴをくねった明朝体にしがちですが、現代の話が多いこの本は建材のようなカッチリしたロゴが合うと思いました。ロゴの中の荒れたテクスチャは弊社の床を撮影したものを合成しています。
アルビレオの「装幀の森」はこれが最終回。装幀は手にとった方が受け取るものが全てであり、自身のデザインについて語るのは後出しジャンケンのようで気恥ずかしくもありました。ところが始めてみると言語化することで改めて気付かされることも多く、機会を与えて下さった『紙魚の手帖』編集部には感謝しかありません。デザインのほうは引き続き頑張ってまいります。
この記事は紙魚の手帖vol.10(2023年4月号)に掲載された記事を転載したものです。