同一世界の様々な時代や地域を舞台に、魔道師が関わった歴史の一コマや、日々の暮らし、その生き様を描いた《オーリエラントの魔道師》シリーズ。通算十二冊目『神々の宴』(乾石智子 創元推理文庫 八六〇円+税)は、本誌に発表された三篇に、書き下ろし二篇を加えた文庫オリジナル短編集である。「運命女神(リトン)の指」に登場するのは、女性三人一組の魔道師だ。ひとりが糸を紡(つむ)ぎ、もうひとりが織り、最後のひとりが糸を切断することで完成した。タペストリーで未来を占い、時には絵柄の中に物や人を隠したりと、様々な力を発揮する。ある時、剣闘士たちの逃亡に手を貸した三人は、その剣闘士たちが捕らえられ、反乱軍として処断されようとしていることを知る。元は豪商の妻、奴隷、剣闘士であったが、離婚や解放によって誰に支配されることもない自らの主人となり工房を開いた三人は、自由を渇望する剣闘士救出のために知恵を絞る。三人の靭(しな)やかな生き方が印象に残る。《オーリエラント》の魔道は、手工芸的な技と結び付くことでまじないとなり、暮らしの技術として深く根付いている。修繕に使われたり、護符として災(わざわ)いを避けるために使われるだけでなく、時には呪(のろ)いとして使われることもある。魔道師は正義でも光でもない。彼らは、人々の心の闇や社会の汚濁(おだく)を引き受ける存在でもあり、その覚悟がその言動の端々に現れる。書き下ろしの表題作「神々の宴」は、魔道師ではなく神々と人の世の関わりを描いた異色作だ。ヴィテス王国侵攻の旗頭(はたがしら)にされてしまった帝国の第四皇子は、ある夜、ヴィテスの葡萄酒を酌(く)み交(か)わす神々の酒盛りに迷い込むが……。祈りの対象ではなく、生身の神々が登場する珍しいエピソードだ。飄々(ひょうひょう)とした神々の姿も面白いが、中央の神と土着神の集合に関する言及にも興味をひかれた。


 石川宏千花(いしかわ・ひろちか)『保健室には魔女が必要』(偕成社 九〇〇円+税)もまた市井に暮らす魔女の物語だ。魔女は現代の中学校の保健室にいる。空席のできた七魔女の座を賭けた決定戦が開催中で、彼女たちは自分の考案したおまじないをどれだけ流布(るふ)させることができるかを争っている。魔女学校の同期のひとりは人間世界で作家となり、女優となった魔女は知名度を利用してSNSを開設し、おまじないを広めている。そんな中、主人公は中学校の養護教諭となり、日々、保健室にやってくるめる中学生のために、おまじないを伝授する。胸が大きい、一重まぶたはかわいくない、お母さんの言動にイライラする、成功した友達が憎らしいなどなど、保健室に持ち込まれる悩みは他愛ないが切実である。主人公はマスメディアを使うライバルに比べて効率が悪いことを承知しながら、結果が見えるこの職場の面白さには代えがたいと語る。魔女が宙に浮いたりという描写はあるものの、まじないそのものは魔法というより、自己啓発的な手法に近い。魔女を登場させることで、現実世界の煩雑(はんざつ)な手続きを回避させ、ユーモラスな味付けをしつつ、あくまで思春期の悩みに真摯(しんし)に向き合う連作短編集だ。


■三村美衣(みむら・みい)
書評家。1962年生まれ。文庫解説や書評を多数執筆。共著書に『ライトノベル☆めった斬り!』が、共編著に『大人だって読みたい! 少女小説ガイド』がある。