オードブル、メインディッシュ、デザート…
巨匠の名作短編をどうぞご賞味あれ。
『短編ミステリの二百年』の編者が選りすぐり、
フルコース形式で贈る、本邦初訳作を含む全13編!

みなさまこんにちは。翻訳班Sです。残暑厳しい9月となりましたが、いよいよフレドリック・ブラウン『死の10パーセント――フレドリック・ブラウン短編傑作選』が9月28日に刊行となります! ぱちぱち。

越前敏弥先生による『真っ白な嘘』『不吉なことは何も』(旧題『復讐の女神』)新訳版に続き、日本オリジナルの短編集を、『短編ミステリの二百年』の編者である小森収先生が編纂してくださいました!
『短編ミステリの二百年』(全6巻)は、3世紀にわたる短編ミステリの歴史を俯瞰したアンソロジー&評論書で、第75回日本推理作家協会賞および第22回本格ミステリ大賞(ともに評論・研究部門)を受賞しています。わたしはこのアンソロジーの第3巻のフレドリック・ブラウンについての評論を読み、小森収先生に『真っ白な嘘』新訳版の解説原稿のご執筆をお願いしました。そして、評論で紹介されていたほかの面白そうな短編も気になっていたところに、日本オリジナル短編集のお話を頂いたので、とても嬉しかったです!

しかもこの短編集、何がすごいかって、収録作がフルコース形式に並べられているのです!!

最初のオードブルはブラウンの1938年の商業デビュー作「5セントのお月さま」(本邦初訳)です。いかにも短編という、気軽に読めますが印象的な一作です。スープにあたる「へま」は第二次大戦中の話で、途方もないオチが印象的なショート・ショートです。

そしてメインディッシュの魚料理には、長編『シカゴ・ブルース』に登場しましたエド・ハンターの短編がふたつ。「女が男を殺すとき」は妻が自分を殺そうとしているらしいという男の依頼を受けて、青年探偵エドが遠く離れた西海岸にいる弟になりすまし、妻が本当に殺人を企んでいるのかを探る物語。一方、「消えた役者」は、失踪した息子探しの依頼という、私立探偵小説の王道のような出だしの作品です。どちらもキレのある捜査小説で、エドとアムおじの軽妙なやりとりがたまらなく好きになります!

口直しには「どうしてなんだベニー、いったいどうして」という、サスペンスに満ちたショート・ショートが配置されています。ハラハラするような緊迫感と、最後に味わう余韻が凄まじい、小森先生折り紙つきの逸品です。

そしてコールドミートとして、「球形の食屍鬼(グール)」「フルートと短機関銃のための組曲」(本邦初訳)「死の警告」(本邦初訳)の3つ。どれも1940年代前半に書かれた、パルプマガジンの匂いに溢れた謎解きミステリです。特に「球形の食屍鬼(グール)」『真っ白な嘘』に収録されていたある短編を思い浮かべました。「死の警告」は“これから起こる殺人”を通報してきた男が主人公の刑事を翻弄する物語で、男のキャラクターが最後まで印象的です。

サラダにあたる「愛しのラム」は、創元SF文庫の『未来世界から来た男』や、『フレドリック・ブラウンSF短編全集』などにも収録されているので、手に取りやすい作品です。しかしあらためて読んでみると、ミステリとしても魅力たっぷりだということに驚かれると思います。わたしもかつてSF文庫のほうで読んでいたのですが、今回ミステリ短編集の中の一編として読むと「なんてよくできたミステリ短編だ!」と感じました。既読の方も、ぜひ新しい視点でお読みいただけますと嬉しいです。

さらにさらに、メインディッシュのローストミートが、「殺しのプレミアショー」「殺意のジャズソング」です。「殺しのプレミアショー」は劇場での衆人環視下での殺人を描いている端正な謎解きミステリですし、「殺意のジャズソング」は、なぜこんな暴行事件や殺人が起きたのか?と謎を追っていくうちにさらに謎が増え、急転直下の解決を迎えるという構成が素晴らしい作品です。特にラストの場面で判明するある事実に「ウワ〜〜〜〜!!」となりました。見事としか言いようがない、さすが短編の巨匠というべき作品です。

そして実は、デザートが表題作の「死の10パーセント」です。ある男に10パーセントの取り分でマネジメントを任せた俳優志望の青年の運命は……。こちら、めちゃめちゃ面白くて、いかにもブラウンらしい逸品です。謎めいたタイトルの意味がわかる瞬間が好きです。最後のコーヒーには、「最終列車」が選ばれています。数ページしかない短い作品ですが、抒情に満ちた文章とラストの余韻が素晴らしい、小森先生曰く「ブラウンの傑作」です。

今回は6名に翻訳していただきました。越前敏弥先生が6編、エド・ハンターものの2編を高山真由美先生が翻訳され、他の5編は国弘喜美代先生、武居ちひろ先生、広瀬恭子先生、廣瀬麻微先生に翻訳していただきました。
そして冒頭にはウィリアム・F・ノーランによる「序文――フレッド・ブラウンを思い起こして」もついており、ブラウンの人柄やデビューまでの道のり、作家としての功績などをわかりやすく知ることができます。ブラウンの本を初めて読む、という方にもオススメです。
巻末には小森収先生による、ユーモアたっぷりで読み応え抜群の編者解説があり、本当に豪華な一冊となりました。
おまけに各短編の扉は、本書のカバーデザイナーの藤田知子先生に、レストランのメニューのようなデザインにしていただきました! カバーイラストを手掛けられているもんくみこ先生のイラストカットが入っていて可愛いです。見た目にもとっても楽しい本です!

最初から最後まで美味しく召し上がっていただける短編集となっております。ぜひお手に取ってみてください!

* * *

『死の10パーセント』内容紹介

“これから起こる殺人”を通報した男による不可能犯罪の真相「死の警告」『シカゴ・ブルース』の探偵エドとアムおじの活躍譚「女が男を殺すとき」「消えた役者」。ある男に10パーセントの取り分でマネジメントを任せた俳優志望の青年の運命を描く表題作。謎解きミステリや〈奇妙な味〉等、本邦初訳3作を含む13編。『短編ミステリの二百年』編者の手による名作短編のフルコース! 編者解説=小森収

目次

「序文――フレッド・ブラウンを思い起こして」ウィリアム・F・ノーラン(越前敏弥訳)
「5セントのお月さま」(越前敏弥訳)*本邦初訳
「へま」(広瀬恭子訳)
「女が男を殺すとき」(高山真由美訳)
「消えた役者」(高山真由美訳)
「どうしてなんだベニー、いったいどうして」(広瀬恭子訳)
「球形の食屍鬼(グール)」(廣瀬麻微訳)
「フルートと短機関銃のための組曲」(越前敏弥訳)*本邦初訳
「死の警告」(越前敏弥訳)*本邦初訳
「愛しのラム」(武居ちひろ訳)
「殺しのプレミアショー」(国弘喜美代訳)
「殺意のジャズソング」(越前敏弥訳)
「死の10パーセント」(越前敏弥訳)
「最終列車」(越前敏弥訳)

(東京創元社S) 




シカゴ・ブルース【新訳版】 (創元推理文庫)
フレドリック・ブラウン
東京創元社
2020-09-30