作品の世界を「本」という形にして表現する職業、装幀家。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
印象に残った装幀を数点取り上げ、装幀家の方々にそこに秘めた想いや秘密を伺うリレー連載です。

■アルビレオ
西村真紀子(神戸出身)と草苅睦子(山形出身)。2008年、鈴木成一デザイン室を経て設立。手掛けた作品に、辻堂ゆめ『トリカゴ』(東京創元社)や本誌〈紙魚の手帖〉などがある。
http://www.albireo.co.jp/

 昨年末に三年ぶりに装幀家の鈴木成一(すずき・せいいち)さんを囲んで忘年会をしました。参加者はこれまた装幀家の守先正(もりさき・ただし)さんと鈴木久美(すずき・くみ)さん、新潮社装丁室の内山尚孝(うちやま・なおたか)さんという、良い感じの本が次々と生まれそうなメンバー。

 当然話題は専門的な方向へ。某和文書体の英数字の太さについて(和字に比べて太すぎやしないか?)だったり、特色(とくしょく)はDIC派か東洋インキ派か、紙のエンボス加工の好みやマイブームの紙についてなどなど……尽きることなく大盛り上がり。お酒も順調に進んで丑(うし)の刻になろうかという頃、守先さんが級数表に載っている文字のサイズを、小さい方からお経のように唱え始めたあたりで笑い死ぬかと思いました(ちなみにアルビレオは特色はDIC派です)。

〝世界の片隅〞感が満載の会でしたが、コロナ禍以降対面する機会が減っていることもあり、会いたい人に会えるありがたさをしみじみ感じました。雑談の中には聞き流せない情報がたくさんあり……気持ち良く酔ってしまってお店に上着を置き忘れても、その場で得た紙やフォントの最新情報はしっかり持ち帰りました。たまの情報交換は大事ですね。

 最近の仕事から印象深い作品を。

 窪美澄(くぼ・みすみ)さんの『タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース』は、都心の片隅で慎ましくもたくましく生きる少女みかげの成長譚(たん)です。宮崎夏次系(みやざき・なつじけい)さんの装画が素晴らしく、寂れた団地の空気感まで描ききって下さいました。カバーの欧文に使用した蛍光黄色は(DICよりも濃いという理由で)初めて東洋インキを使用しました。みかげが団地警備員の老人からもらった星形の名札の色からですが、本を開いた時に微かでも希望のある印象にできればと考え、見返しも黄色の用紙を選んでいます。

タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース (単行本)
『タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース』
窪美澄
(筑摩書房/2022年)
装画:宮崎夏次系 四六判

 朝比奈秋(あさひな・あき)さんの『植物少女』は、生と死をこんなふうに表現するなんて、と震えた一冊。装画にお借りしたのは、陶で作られた植物の作品です。生でもなく死でもなくそこに存在している、といった作品のたたずまいが原稿の読み心地に重なりました。

植物少女
『植物少女』
朝比奈秋
(朝日新聞出版/2023年)
陶作品:舘林香織 四六判

 ウォーカー『「争い」入門』は、どうして争いが起こるかをわかりやすく解説してくれる一冊です。不安な状況が続く世界情勢の中、偏見を持たずに他者の意見を聞くことの難しさと大切さを考えさせられました。頁(ページ)の少ない本ではありますが存在感を出したく、カバーはしっとりした手触りのベルベットPP加工(ビニール張りの一種)にしました。

「争い」入門
『「争い」入門』
ニキー・ウォーカー 高月園子 訳
(亜紀書房/2023年)
四六判

 今回挙げた三冊はかなり重たいテーマを扱っていますが、そのままカバーに表現してしまうと、きっと読者に敬遠されてしまう。編集者からも暗い本に見せたくないとはよく言われることです。その傾向は年々強まっているように感じます。コロナ禍もその理由のひとつでしょう。装幀が読者と書き手をつなぐ扉だとしたら、できるだけ本の世界へ入りやすいように……そう思いながら日々格闘しています。



この記事は〈紙魚の手帖〉vol.09(2023年2月号)に掲載された記事を転載したものです。