天祢涼(あまね・りょう)『彼女はひとり闇の中』(光文社 一七〇〇円+税)は、仕掛けを凝らしたミステリで社会的な問題に鋭く迫る、近年著者が意欲的に取り組んでいる作風の最新長編。
大学生の千弦(ちづる)は、手にしたスマホに幼なじみの朝倉玲奈(あさくら・れいな)から相談のメッセージが昨夜届いていたことに気づく。急ぎ返信するが、読まれるようすがまったくない。折しも住まいの近くで若い女性の刺殺事件が起きたばかりで、まさかという思いが拭(ぬぐ)えないなか、ニュースサイトで被害女性として玲奈の名前が報じられる。玲奈は殺される前、なにを相談したかったのか。千弦は答えを求めて動き出す……。
物語の早い段階で、玲奈のゼミ教官である葛葉(くずは)が、この悲劇に深く関わっていることが明示され、探偵役と手強(てごわ)い犯人のスリリングな攻防を描いた、いわゆる倒叙(とうじょ)の趣向であることがわかってくる。虎穴(こけつ)に入(い)らずんば虎子(こじ)を得ずとばかりに、かなり大胆な行動にも出る千弦にヒヤヒヤしつつ読み進めていくと、ある文章に目が釘付けになって固まってしまった。一瞬、書かれていることが素直に吞み込めず、読み間違いをしているのかと慌てたが、さらに読み進めて仕掛けと狙いがわかるや、その困惑は感心に一転。仕掛けそのものが、これほど題材を見事に表現している作品も稀有(けう)といえよう。読了後、改めてタイトルを見つめ、その〝闇〞は誰のそばにもあり、誰もが陥(おちい)る可能性がある、だからこそ、そこに目を向け手を差し伸べる行為が特別であってはならないと痛感した。
市川憂人(いちかわ・ゆうと) 伊与原新(いよはら・しん) 新川帆立(しんかわ・ほたて) 辻堂(つじどう)ゆめ 結城真一郎(ゆうき・しんいちろう) 浅野皓生(あさの・こうせい)『東大に名探偵はいない』(KADOKAWA 一六五〇円+税)は、これまでありそうでなかったユニークな企画のアンソロジー。東京大学卒業という経歴を持つ作家五人による「東大」をテーマにした書き下ろし短編に、版元と東京大学新聞が行なった「東大生ミステリ小説コンテスト」の大賞受賞作を加えた、計六編からなる一冊だ。
作風だけでなく各作家の持ち味がどのように活かされているのか――その違いが大きな読みどころだが、白眉(はくび)を挙げるなら、結城真一郎「いちおう東大です」だろう。東大卒の主人公が、容姿も性格も申し分のない妻からいわれた新居の条件は、「東大が見えるところ」。幸せな結婚生活に生じたこの小さな違和感を糸口に、「東大生」「東大卒」につきまとう呪縛のごとき偏見と羨望(せんぼう)と嫉妬(しっと)とを生々しく描き、戦慄(せんりつ)の真相へと読み手を誘う展開が、じつにサスペンスフルで絶望感たっぷり。
そして、本作一番の収穫としてご注目いただきたいのが、最後に据えられた現役東大生である浅野皓生の「テミスの逡巡(しゅんじゅん)」。
東大生が運営するウェブメディアの記事のため、弁護士から医師になったという珍しい人生を歩む卒業生を取材した主人公。ところが掲載後、その医師がひと殺しであり、記事をすぐに削除するよう求める差出人不明の手紙が送り付けられる……。
罪の重さと法でひとを裁くことの限界、正義と情報の扱いについて考えさせられる内容で、真相へ至るまでの驚きを交えた演出もじつに堂に入っており、プロの作品と並んでもまったく見劣りしない。東大新聞オンラインのインタビューによれば、中三で『このミス』大賞応募の経験ありとのこと。ぜひ今後も創作を続けていただきたい。
■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。







