論理と精度を重視した丁寧(ていねい)で細やかな謎解きもいいが、思いも寄らないまさかまさかの連続に仰天(ぎょうてん)させられるような剛腕タイプの謎解きも同じくらい目がない――という向きに絶対オススメしたいのが、門前典之(もんぜん・のりゆき)『友が消えた夏 終わらない探偵物語』(光文社文庫 八二〇円+税)。一級建築士にして名探偵の蜘蛛手啓司(くもで・けいじ)が活躍するシリーズの最新刊だ。

 建築&探偵事務所の共同経営者である宮村(みやむら)が、蜘蛛手に差し出した紙の束。それは南紀(なんき)にある〈鶴扇閣(かくせんかく)〉という一風変わった洋館でかつて起きた、密室の謎が絡んだ猟奇殺人事件についての記録で、先ごろ逮捕されたどこでも出入りできてしまう話題の連続窃盗犯〝オクトパスマン〞が所持していたボイスレコーダーの内容を書き起こしたものだという。

 演劇部の学生たちが合宿中に起きた殺人事件と洋館の炎上。翌朝、首のない男女二体ずつ――計四つの白骨焼死体が見つかり、その後、新たにもう一体が近くの海底から、こちらは首も含めて白骨化した状態で引き揚げられていた。知人の女性弁護士からの依頼内容は、この事件記録に目を通し、〈鶴扇閣〉で起こった一連の事件が〝オクトパスマン〞の所業ではないことを証明してほしいというもの。蜘蛛手は早速、記録を読み始めるが……。

 大雨で道路が決壊し、陸の孤島と化した洋館で殺人事件が起こる〝鶴扇閣事件の記録〞。ある日、占い師に「お前は七日以内に消える」と告げられた女性が、乗り込んだタクシーで恐怖の体験に見舞われる〝タクシー拉致(らち)事件〞。接点のないふたつの過去パートが交互に進行し、さらにひとり暮らしの老女が射殺されるエピソードが挿(はさ)まれるなど、読めども読めどもまったく全容がつかめない。ところが、ある箇所を境に、いよいよ本領発揮とばかりに始まる展開は、思わず身を乗り出してしまうような驚きと衝撃の連続。巧妙な仕掛け、恐るべき犯行プラン、一読忘れがたい強烈な犯人像と常軌を逸(いっ)した動機、そしてタイトルにもつながる不穏かつ行方(ゆくえ)が気になる結末まで、あまりにも濃密なクライマックスに激しく振り回され過ぎてくらくら。

 これまで単行本がほとんどだった門前作品だが、今回は手に取りやすい文庫での刊行となったことで、その魅力がより広く行き渡り、大いに驚嘆&歓迎されるに違いない。

 桃野雑派(ももの・ざっぱ) 『星くずの殺人』(講談社 一七〇〇円+税)は、武俠(ぶきょう)小説と本格ミステリを融合した『老虎残夢(ろうこざんむ)』で第六十七回江戸川乱歩賞を射止めた新鋭の受賞後第一作。

 従来に比べれば格段に安い民間宇宙旅行が、ついに現実的なものとなりつつある近未来。モニターツアーの抽選に選ばれた参加者とともに、宇宙ホテル『星くず』に到着した副機長兼添乗員の土師(はせ)だったが、そこで予想外の事態に直面する。倉庫内で、機長の伊東(いとう)が安全ベルトで首を吊って死んでいたのだ。この世でもっとも首吊りに不向きといえる無重力下の場所で、なぜ……?

 頼りにしていた人物が不慮の死を遂げ、地球との連絡は取れなくなり、さらにホテルのスタッフが客を置いて地球に帰還。宇宙に浮かぶ巨大な閉鎖空間と化した非常事態下のホテルで、個性的な参加者たちを前に様々な対応に追われる土師だが、その努力を嘲笑(あざわら)うように新たな事件と問題がつぎつぎと発生し、どうする? どうなる? とページをめくる手が止まらなくなる。

 犯行手段の解明と犯人捜しを経てついに明らかになる、正義とも狂気とも取れる動機の途轍(とてつ)もない壮大さ。そして土師があることについての確認のために投げ掛けた問いの答えが、人間という存在を超えた、なにか大きなものの意図を感じさせる演出も印象的だ。


■宇田川拓也(うだがわ・たくや)
書店員。1975年千葉県生まれ。ときわ書房本店勤務。文芸書、文庫、ノベルス担当。本の雑誌「ミステリー春夏冬中」ほか、書評や文庫解説を執筆。

紙魚の手帖Vol.10
ほか
東京創元社
2023-04-11