紙魚の手帖vol.12

好評を博したアンソロジーシリーズ『Genesis』が合流したことで、初のSF特集号となった『紙魚の手帖』vol.12。読み切り短編からエッセイまで、特集の全容をご紹介します。

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【表紙とデザイン】
単行本版『Genesis』から引き続き、カシワイさんに装画をご担当いただきました。
「時間」をテーマとして描き下ろしていただいたこちらのイラストは、挿絵として本文のさまざまな場所に使われてもいます。
またデザインはこれまでの『紙魚の手帖』と同じく、装丁事務所のアルビレオさんが手がけられています。
今回も素敵な装画、デザインをありがとうございました!


【受賞作決定!】
◆第14回創元SF短編賞選評 宮澤伊織・小浜徹也(東京創元社編集部)
日本SF界に新たな才能を輩出してきた創元SF短編賞の、選考経過および選評を掲載。
実践的なアドバイスに富んだ宮澤伊織さんの選評は、小説を書く人にも読む人にもおすすめです。

【第14回創元SF短編賞受賞作】
「竜と沈黙する銀河」阿部登龍
illustration: 鈴木康士
design: アルビレオ(以下同じ)
「竜と沈黙する銀河」
古来より竜が実在する地球を舞台とした、SFアクション✕バイオパンク作品。
アイデアを高密度に詰め込んだ、エンターテインメント性抜群のデビュー作にご注目ください。

【小説】
「くらりvsメカくらり」青崎有吾
illustration: 加藤木麻莉
くらりvsメカくらり
駆動音を響かせ飯田橋駅に現れた謎の存在は、近隣の出版社を次々に破壊しはじめた。
自衛隊すら太刀打ちできない「それ」の暴走を、くらりたちは食い止めることができるのか……?
テレビアニメ化&テレビドラマ化で注目が集まる青崎有吾さんの、最新作にして問題作です。

「記憶人シィーの最後の記憶」柞刈湯葉
illustration: 吉田誠治
記憶人シィーの最後の記憶
『横浜駅SF』『人間たちの話』『まず牛を球とします』などの作品で知られ、今回が本誌初登場となる柞刈湯葉さん。
少年と猫がポストアポカリプス世界を旅する本作は、叙情あふれる本格ロードノベルです。

「ローラのオリジナル」円城塔
illustration: 酉島伝法
ローラのオリジナル
「わたしのローラ」と呼ばれる膨大な画像データ群にまぎれ、いくつもの断片に分かれて散在していたテキストファイルたち。そこに記されていたのは真偽不明の、失踪した作者による独白だった……。
生成AIの時代にウラジーミル・ナボコフへ捧げるオマージュ作品です。

「扉人」小田雅久仁
illustration: tounami
扉人
仕事帰りの野崎麻衣のもとに現れたのは、国家安全局の職員を名乗る二人組の男女。彼らは音信不通になっている麻衣の恋人について、事情聴取を行いたいと言うのですが……。
『残月記』『禍』の小田雅久仁さんが、読むものを異界へと誘います。

「手のなかに花なんて」笹原千波
illustration: 二十果
手のなかに花なんて
人格を情報に置き換え、仮想世界で生きることを選ぶ人々があらわれた時代。現実世界に生きる優花は、祖母がひとりで暮らす仮想世界の家を訪れます。
第13回創元SF短編賞受賞作「風になるにはまだ」と世界設定を共有する作品です。

「この場所の名前を」高山羽根子
illustration: 植田たてり
この場所の名前を
それぞれに異なったルーツを持つプレイヤーたちが世界の一地点へと投げ出され、限られた手がかりの中からその場所の名前を探しだすVRゲーム。一風変わったプレイスタイルを気に入られた「私」は、ゲーム内のあるチームに誘われます。
ゲームと現実を行き来することで、現実の見え方までが変わっていく感覚が楽しい一作です。

「ときときチャンネル♯6【登録者数完全破壊してみた】」宮澤伊織
illustration: 本気鈴+ながえるん
ときときチャンネル#6
配信者の十時さくらが収益化を目指してはりきる一方、いまいち当事者意識に欠ける様子の同居人、多田羅未貴。マッドサイエンティストの彼女を巻き込むために、さくらが考えだした秘策とは……? 大人気配信者百合SFシリーズの第6回です。

「冬にあらがう」宮西建礼
photo: MARK GARICK / SCIENCE PHOTO LIBRARY / Getty Images
冬にあらがう
短編「もしもぼくらが生まれていたら」「されど星は流れる」で、サイエンスに生き生きと取り組む高校生たちを描き、好評をもって迎えられてきた宮西建礼さん。
今作では科学部員のリッコとミサが化学の力を駆使し、自然災害がもたらした絶望的な現実を生き延びる道をさぐります。

「英語をください」アイ・ジアン/市田泉訳
illustraion: 緒賀岳志
英語をください
新世代の中国系カナダ人作家が描くのは、一杯のコーヒーを手にするために、「coffee」という単語を差し出すシーンからはじまる物語。
ネビュラ賞およびローカス賞のファイナリストに選ばれた秀作をお楽しみください。

【コミック】
◆第2回「空中楼閣」熊倉献
空中楼閣
活動がない日の部室に集まって、男子部員たちは何を話しているのか? そしてタイトルの「空中楼閣」が意味するところとは?
『ブランクスペース』の熊倉献さんが贈る、好評のコミック連載第2回です。

【創元SF60周年記念】
特別対談 草創期の創元SF 高橋良平×戸川安宣
創元推理文庫のSF部門は、日本で初めての文庫のSFシリーズとして1963年9月にスタートしました。当時をよく知るおふたりに、SFの流通事情から翻訳家のさがし方までを語っていただきました。

特別寄稿 四十三年めの『星を継ぐもの』 加藤直之
創元SF文庫を代表する傑作シリーズのひとつである《星を継ぐもの》シリーズは、今年7月より新版・新カバー化が進行中です。
初刊時から引き続き装画を担当される加藤直之さんに、リニューアルのいきさつをご寄稿いただきました。

【ESSAY】
◆翻訳のはなし第10回 銀河帝国の方々(ほうぼう)――新訳裏話 鍛治靖子
今年(2023年)、第43回星雲賞海外長編部門を受賞したばかりの、完全新訳版『銀河帝国の興亡』(全3巻)。
訳語の選び方から思わぬ発見まで、新訳にあたってのあれこれを翻訳者の鍛治靖子さんが綴ります。

◆乱視読者の読んだり見たり第8回 異星(性)との遭遇――レムとル=グィン 若島正
アメリカSFを痛烈に批判したことで、しばしば「炎上」を引き起こしていたスタニスワフ・レム。彼の批判を真正面から受け止め、生産的な議論を行うことができた数少ない存在であるアーシュラ・ル=グィン。SF史に偉大な足跡を刻むふたりのやりとりに迫ります。

【COLUMN】
◆ひみつのおやつ*コンビニのクレープ 品田遊
◆私の必需品*外出を楽しく! おでかけに持っていきたいアイテム7選 野﨑まど
日本SF作家クラブ編のアンソロジー『AIとSF』への参加など、近年SF界での活動も目立つ品田遊さんの「闇のスイーツ」についてのエッセイと、奇想天外なアイデアで読者を驚かせ続ける野﨑まどさんのイラスト入りコラムをお届けします。

【SF BOOKREVIEW】
◆国内SF 渡邊利道
◆翻訳SF 鯨井久志
旬のSFを毎号にわたって紹介してきたブックレビューのコーナーを拡大し、2022年8月以降に刊行された書籍の中から国内外の注目作をとりあげます。

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このほかSF関係からは、『あなたは月面に倒れている』を上梓した倉田タカシさんが「INTERVIEW 注目の新刊」に登場します。
本誌の刊行日は8月12日。今年で60周年を迎えた創元SFの、「これまで」と「これから」がぎゅっと詰まった特集をお楽しみください!


紙魚の手帖Vol.12
ほか
東京創元社
2023-08-12