作品の世界を「本」という形にして表現する職業、装幀家。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
海島千本(うみしま・せんぼん)さんには『エモい古語辞典』で、本文にも該当する語句に合わせた絵を沢山描いて頂きました。抽象的で個人差のある「エモい」を万人のイメージを損なわずにイラスト化するという難題でしたが、どれも素晴らしく、編集側の見せたい方向や読者対象を理解したうえで描かれているのを感じました。
先日、今後の『紙魚の手帖』の表紙用に作品をお借りするためご自宅にお邪魔しました。遺(のこ)された膨大な作品の山からは「本当に好きなら、これくらいは描かないとね」という声が聞こえてくるようでした。「素敵にレイアウトしてね」とも。
Noribouさんとしての唐仁原さんに生前にお会いできなかったことが、ただただ残念でなりません。
装画などを、普段どのように決めているのでしょうか。
印象に残った装幀を数点取り上げ、装幀家の方々にそこに秘めた想いや秘密を伺うリレー連載です。
■アルビレオ
西村真紀子(神戸出身)と草苅睦子(山形出身)。2008年、鈴木成一デザイン室を経て設立。手掛けた作品に、辻堂ゆめ『トリカゴ』(東京創元社)や本誌〈紙魚の手帖〉などがある。
http://www.albireo.co.jp/
ブックデザイナーと聞いて実際にどんな作業をしているかキチンと説明できる方は少ないのではないでしょうか。自分の担当した本を、親類や友人に(ちょっと自慢げに)見せても装画や挿絵(さしえ)を描いたのだと思われることが多く、「違う、タイトルの書体を選んだりロゴを作ったり、使用する紙を決めたりしてるんだよ」と説明するもだいたいは薄い反応。「本文の組みを読みやすくしたり……」と続けているうちに、ニッチな説明をしている自分が恥ずかしくなってしまって終了。装幀は「本と読者をつなぐ大切な仕事」という自負はありますが、シンプルにこの本を書いたと言える著者が羨(うらや)ましく、本の顔となる装画を描くイラストレーターの才能にいつも憧れています。
『語学の天才まで1億光年』の装画は影山徹(かげやま・とおる)さん。編集者も交えたカバーイメージの打ち合わせが印象的でした。数々の装画を担当されてきた経験と、実際に筆を動かす者としての説得力。映画や文献など幅広い知識に裏打ちされた的確な構図の提案……それをさらりと仰(おっしゃ)るので逆に凄味がありました。
(集英社インターナショナル/2022年)
装画:影山徹 四六判
海島千本(うみしま・せんぼん)さんには『エモい古語辞典』で、本文にも該当する語句に合わせた絵を沢山描いて頂きました。抽象的で個人差のある「エモい」を万人のイメージを損なわずにイラスト化するという難題でしたが、どれも素晴らしく、編集側の見せたい方向や読者対象を理解したうえで描かれているのを感じました。
イラストを生業(なりわい)にするほうが、デザイン業で食べてゆくより何倍も才能と努力と運が必要です。数多(あまた)のイラストレーターの中でも長く第一線で仕事を続けている方の人外オーラは半端なく、先頃亡くなられたNoribou(のりぼう)こと唐仁原教久(とうじんばら・のりひさ)さんもその一人でした。『紙魚の手帖』創刊号の表紙は、唐仁原さんがNoribou名義で個人的に描き溜めていた作品から数点をお借りしてデザインしました。無遠慮に本文にもふんだんに作品を使用し、見本をご覧になったNoribouさんから「バチがあたるよー」と優しく𠮟られたことが忘れられません。二号目からはこちらがイラストスペースを決めたところに特集のテーマに沿ってNoribouさんが自由に描き、着彩はこちらで、という流れでした。Zoomでの表紙の打ち合わせでは、こちらからの提案を「それは面白くないなァ」と軽くいなされたことも。毎号Noribouさんの引き出しの多さと多彩なイメージを、拝見するのが楽しみでした。
(あすなろ書房/2011年)
装画:唐仁原教久 A5判変形
先日、今後の『紙魚の手帖』の表紙用に作品をお借りするためご自宅にお邪魔しました。遺(のこ)された膨大な作品の山からは「本当に好きなら、これくらいは描かないとね」という声が聞こえてくるようでした。「素敵にレイアウトしてね」とも。
Noribouさんとしての唐仁原さんに生前にお会いできなかったことが、ただただ残念でなりません。
この記事は〈紙魚の手帖〉vol.07(2022年10月号)に掲載された記事を転載したものです。